007 直島の和カフェ ぐぅ(日本)
ストーリー:
瀬戸内海の直島は、リゾート列島論が吹き荒れる中、大規模な消費型のリゾート開発を計画した。しかし、それが頓挫し、地元の大企業であるベネッセが、その開発を引き継ぎ、現代芸術を活用した島興しを展開したところ、世界的な脚光を集め、多くの観光客を集めるようになった。
しかし、多くの観光客が来るようになったが、食事をする場所やカフェがない。そのような問題を島民から聞いた香川大学の古川先生が、ゼミ生に「誰かカフェとかやれば絶対、儲かると思うんだけどなあ」と言ったところ、ゼミ生が「先生、そんなら自分達がやります」と言って、実際、島の一軒家を借りて、カフェを開始することにした。2006年8月のことである。これが、直島の本村にある「和Cafeぐう」というカフェの始まりである。
「和Cafeぐう」は、学生達がメニューを考え、学生達が調理し、学生達が接客をし、学生達が会計処理もし、学生達が看板をつくり、広報活動もするというカフェで、今ではしっかりと観光ガイドに他の食堂などと一緒に紹介されている。当初こそ、古川先生のゼミ生が主体で活動をしていたのだが、今ではむしろゼミ生はほとんどいなくて、有志の学生達によって運営されている。
「和Cafeぐう」は、古民家を借りて営業している。この古民家は現在では何ともいえず良い味を出しているが、借りた時はもうぼろぼろの空き家で結構、掃除等苦労したらしい。この「ぐぅ」というネーミングであるが、「思いがけない出会い」の偶然の「ぐぅ」、「おもてなし」の待遇の「ぐぅ」、お腹が「ぐぅ」、環境に「Good」の「ぐぅ」の4つの意味が込められているそうである。和テイストが基本なのは、古民家というセッティングはやはり「和」だろうという考えに基づいている。
現在は学生の運営ということで、土曜日と日曜日のみの営業である。観光客相手ということで、この週末のみの運営というのは需要と合っていると思われる。現在では、もう観光ガイドにも紹介されるようになっており、学生という資源を見事に地域の活力創出にいかした事例である。
キーワード:
直島の和カフェ ぐぅの基本情報:
- 国/地域:日本
- 州/県:香川県
- 市町村:直島町
- 事業主体:香川大学経済学部
- 事業主体の分類:大学等教育機関
- デザイナー、プランナー:古川尚幸(Naoyuki Furukawa)
- 開業年:2006
ロケーション:
都市の鍼治療としてのポイント:
私がこの「和Cafeぐう」を訪れた時には、もう7年間も経っていたこともあり、しっかりと学生達も組織化されており、きびきびと仕事をこなしていた。しっかりとした料理も用意されており、「ポークジンジャー」、地元の食材をつかった「いりこご飯」といったもメニューもある。これらのメニューは学生達が企画している。このカフェは2006年にオープンしてから、しっかりと赤字も出さずに経営されており、機会さえしっかりと与えることができれば、若者たちは相当の能力を発揮できることを改めて確認させてくれる事例である。また、単にカフェを経営するというだけでなく、地域研究の拠点、島興しにも貢献できるよう「地域との交流イベント」、「観光ボランティア・ガイド」などの事業をも学生達は取り組んでいる。
学生という資源を見事に活用させた地域と、地域の課題を教育機会と捉えた傑出した大学教員がなくては、このような事例は起きなかったであろう。学生にビジネスをやらせるということで、古川先生が背負っているリスクは相当のものがあるが、このリスクを取ったということで、地域は活力を得て、そして学生達は大変、貴重な機会を得ることが出来ている。
このような学生をキャンパスの外の町に出させて、学習機会を創出するという試みは、1997年に関西学院大学の片寄俊秀先生が三田市の本町商店街で行ったのが、その草分けであるが、その後、岐阜経済大学、佐賀大学、名古屋学院大学、京都文教大学などが後に続いている。高齢化が進み、その活性化に悩んでいる商店街や観光地にとっては、この学生とのコラボレーションで活力をもたらすというのは、相当、効果が期待できる「都市の鍼治療」ではないだろうか。
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