066 日本の家(ドイツ連邦共和国)

066 日本の家

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ストーリー:

ライプツィヒ市の中央駅の東にあるライプツィヒ・オスト地区は、19世紀後半に工場地区として開発された。その時、ここの工場の従業員のために集合住宅が建てられたのだが、社会主義時代に投資されることはなく、東西ドイツが統一された後は多くの空き家が生じ、ライプツィヒの中でも最も衰退した地区となってしまった。
 そのような状況を改善させるために、ライプツィヒ市はボトムアップ的にこの地区を更新させる様々なプロジェクトを地元のNPOや住民団体と協働することで展開しているが、そのうちの一つが空き家をできるだけ減らすことで建物を保持・保存すべく、5年間という期限付きで格安の家賃で物件を貸し出す「家守の家:ヴェヒターハウス(W?chterhaus)」というものである。これは、ドイツだけでなく欧州でも広く知られている「ハウスハルテン」という市民団体が行っている事業だ。
 このヴェヒターハウスというプログラムを活用し、ライプツィヒにある空き家を「日本」というテーマのもとに、人々が集いアイディアや物を生み出す、クリエイティブな空間として再生することを目標として始まったプロジェクトが「日本の家」である。そこではごはんのかい、コンサート、地域の芸術祭、ワークショップ、子どもと家族向けのイベント、学術的なシンポジウムなどの多彩な活動が展開されている。その活動の中心人物は、まだ30歳のライプツィヒ大学院生である大谷悠氏、ライプツィヒで建築家として活躍しているミンクス典子氏という二人の日本人である。そして、その活動はライプツィヒの地元住民達によって支えられている。
 立ち上げ当初に利用していた物件はヴェヒターハウスだったために家賃はゼロ。大谷氏はここに住みついた。ただし、まったく投資されていない東ドイツ時代の建物だったということで、隙間風がひどく冬は光熱費が高すぎたこともあり、その後、現在のアイゼンバーン・シュトラッセの場所に移転する。
 2012年からは、「都市の『間』」をテーマに、日独共通の課題である「市民によるボトムアップ型のまちづくりと空き地・空き家の活用」について学び合い、調査と提案を目標としたワークショップを行っている。
 これらの活動を通じて、肩肘を張らずに、草の根レベルでのまちづくりのプラットフォームとしてこの「日本の家」は位置づけられつつある。場所はローカルであるが、そのネットワークはグローバル。コミュニティ・ハブとして貴重な役割を担うと同時に、ライプツィヒ・オストという課題の多い地区を再生させる一つの重要な拠点としても期待されている。

キーワード:

リノベーション,交流施設,家守の家,空き家,大谷悠

日本の家の基本情報:

  • 国/地域:ドイツ連邦共和国
  • 州/県:ザクセン州
  • 市町村:ライプツィヒ市
  • 事業主体:Das Japanische Haus e.V. 登記社団ライプツィヒ日本の家/ハウスハルテン(NPO) 
  • 事業主体の分類:市民団体
  • デザイナー、プランナー:大谷悠、ミンクス典子
  • 開業年:2011

ロケーション:

都市の鍼治療としてのポイント:

 ライプツィヒ市の知り合いの研究者のところに訪れた時、面白いプロジェクトがあるので紹介する、と言われて知ったのが「日本の家」である。ライプツィヒには、「家守の家(ヴェヒターハウス)」という興味深い事業が展開していた。この「家守の家」というチャンスを使って、始めたのがこの「日本の家」であった。
 この「日本の家」の共同代表である大谷悠氏に話を聞いた。彼は、日本の大学院を卒業した後、2010年に渡独し、それ以降、ボトムアップ的な都市再生のプログラムを柔軟かつ過激に取り組んできている。外国人として、コミュニティに入り込んでまちづくりを考えていくというのは、頭で考えると相当、難しいようにも思えるのだが、彼はレイドバックしたスタイルで、自然体で地域に入り込み、地元の信頼を勝ち得ている。
「敷居を低くすることで、人々に親しんでもらうために、「ごはんのかい」というのを毎週、土曜日に行っています。主に日本の料理を友達や近所の人たちと一緒に作って一緒に食べています。といってもお寿司とか天ぷらとかではなく、野菜炒めとかカレーとか日本人が普通に食べているもの。投げ銭制です。他にも「インターナショナル・ごはんのかい」と題して、韓国、スペイン、シリア、グルジア、ブルガリアなど様々な国からきている友人たちと一緒にそれぞれの国の料理を一緒につくることもあります。最近では有名になって、毎週60人から80人ぐらい来ています。イベントと絡ませると150人は来ます。政治的問題うんぬんなどをとりあえずいちどおいて、まず多様なバックグラウンドをもった人々が楽しんで交流できる場所をつくりたかったので、そういう意味では成功しています。」
 このような場所では、等身大の日本を紹介する機会を提供できたらという意識もしている。
「国とか市とかがやっているフォーマルなパーティは嘘くさいものを感じてしまっていたので、ふつうの日本人とふつうのドイツ人が出会い、一緒にごはんを食べたり、議論したり、モノづくりしたりする機会をつくりたいと思っていました。」
 ドイツ人を中心とした若い元気な人たちは、どうしてもドイツ人で固まる。地区で何かやる時はその人達のコミュニティが中心となる。しかし、ライプツィヒ・オストにはそもそもドイツ人が少ない。移民や問題を抱えている人が住んでいる。そうであれば、そもそも外国人である自分たちが、フォーマルなドイツのコミュニティと、そこからこぼれ落ちることの多い移民や難民を含めた外国人のコミュニティを結びつけるような存在になれるのではないかということを意識している。
 現在は、ごはんのかいに加えて、子供を対象としたワークショップやシンポジウム、コンサートなどのイベントを行っている。
 そのようなシンポジウムに参加させてもらったことがある。最近、ライプツィヒ・オストは一昔前からは考えられないほど環境がよくなった。ライプツィヒの人口も東西ドイツ再統一後は、もっとも人口の絶対数が減少した都市であったのだが、最近は「ブーム・タウン」と呼ばれるほど活況であり、人口もここ数年、増加傾向にある。そのような背景もあり、ここライプツィヒ・オストも将来的にはジェントリフィケーションの問題が生じることが危惧されるため、それにどう対処するかということをテーマとしたシンポジウムであった。関係者が、ここで議論をして、それを住民などが聞き入っていたのだが、そのような街の人達の意見を議論する場として、この「日本の家」が重要な場所となっていることがよく理解できるようなシンポジウムであった。サード・プレイス的な存在として、地元の人達に広く受け入れられている。そして、そのような場をつくりだしたのが、日本の若者であるということがとても勇気づけられる。
 ライプツィヒ・オストというライプツィヒでも最もイメージが悪い問題だらけの地区を、人々が集まる場所をつくることで大きく改善することに貢献した、素場らしい「都市の鍼治療」事例である。

参考資料:「日本の家のHP」http://djh-leipzig.de/ja/konzept

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