160 ザリネ34 (ドイツ連邦共和国)

160 ザリネ34

160 ザリネ34
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160 ザリネ34
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160 ザリネ34

ストーリー:

チューリンゲン州の州都エアフルト市は、旧東ドイツの都市のご多分に漏れず、郊外地区においては東西ドイツ再統一以降、人口減少に見舞われた。エアフルトの北側、ヨハネスフォアシュタット地区の中でもエアフルト北駅の周辺では、中世の歴史的街区を有する中心部のような魅力はなく、文化的な刺激がほとんどないような場所であった。特に若者は文化的な活動をする機会がなく、あったとしてもそれは消費行動を伴うものでしかなかった。

そのような中、NPO組織であるプラットフォーム e.Vは2011年からエアフルトの北部にある空き家を改装して、若者のための施設として設立した。それがザリネ34である。ザリネ34は市が所有している空き家で、床面積が70平方メートルの戸数が15戸ほどある元集合住宅であった。この空き室をプラットフォーム e.Vは市役所から借り、されにそれを若者に又貸しすることで、住宅の維持管理に責任を持つという経験を若者に提供する事業を始めたのである。

ザリネ34は、クリエイティブな若者のアイデアやプロジェクトを生み出す空間であると同時に、この地区の開かれた居間として位置づけられ、若者達がいろいろと実験的な試みをする拠点として機能することも期待された。そして、その試みを通じて仕事の体験をするなどして、社会との接点を持ち、社会人としてのスキルを向上してもらえればと考えているそうだ。

「開かれた居間」として位置づけられたのは1階の大部屋である。ここでは、ソファに座ってネットワーキングをすることができるし、小さなコンサートや読書会、セミナーなどを開催することができる。そして、空き家であった上階はレコ−ディング・スタジオ、シルクスクリーン印刷所、暗室付きの写真スタジオ、アトリエなどに使われている。これらは、ここを利用する人達によって改装されているが、電気工事や下水道工事などは専門家による工事をプラットフォーム e.Vが手配して行っている。

ザリネ34は開始した時は実験的な試みであったが、上手く機能して今日に至っている。最初は、ここに入居してきた人はほぼ20歳〜25歳であった。しかし、それから7年ぐらい経ち、一部の入居者は30歳を越えるようになっている。新しい入居希望者の入居審査は、既存の入居者が行う。そのため、入居者のトラブルは生じていない。

このように、ザリネ34は縮小する地区の中で、若い住民の創造力によってその新たな活用方法を発現させ、現在ではここが北エアフルトの新しい文化創出センターになることを企図している。そして、それによって地域のイメージは確実に改善されている。

キーワード:

空き家活用, 縮小都市, 都市再生

ザリネ34 の基本情報:

  • 国/地域:ドイツ連邦共和国
  • 州/県:チューリンゲン州
  • 市町村:エアフルト市
  • 事業主体:プラットフォーム e.V.
  • 事業主体の分類:市民団体
  • デザイナー、プランナー:プラットフォーム e.V.
  • 開業年:2011年

ロケーション:

都市の鍼治療としてのポイント:

人口が縮小することは、地域に大きなダメージを与える。まず、活力が削がれていき、状況を変更させるエネルギーとなる投資をしてくれる人もいなくなる。そして、空き家が増え、街並みはさらに寂れた感じになり、縮小を加速化させていくといったマイナスのサイクルが繰り返されていく。

ザリネ34は、このマイナスのサイクルの回転を止めるために空き家に注目した。そして、この空き家に創造的なポテンシャルを有している若者達の居場所を提供することにした。これによって「空き家が増え、街並みがさらに寂れる」といった縮小加速化サイクルのポイントをせき止めることができた。これは市が所有していた建物だったので、そのようなことが可能であったともいえるが、そこをNPO組織に貸したという市役所の英断もこの事業が実現した一つの理由であろう。

そして、縮小地区ではあるが、若者がいろいろな思いを具体化できるような場所という機会を提供することで、若者達がここを拠点にし、いろいろな活動を始めている。そして、それは若者達に家を維持する、家を管理するといった機会をも提供し、彼らの社会化に大きく寄与している。

ザリネ34に課題がない訳ではない。その一つに、市との契約期間が一年なので長期的な投資を行ないにくいこと、また市役所の対応が遅いことによって、目の前にあるチャンスなどを逃してしまうこともあるそうだ。この事実は、一方で、このような縮小地区においてはフットワーク軽く、敏速に行動することが求められることを示しており、自治体の官僚組織的対応ではうまく対応ができないことを示唆している。そのような事情が、プラットフォーム e.Vに事業機会を提供することにもなっている。

縮小都市は活力が徐々に失われていき、そのことに伴い多くの問題を生じるが、一方で多くの機会をも提供してくれる。その機会をうまく、社会の潜在的なニーズに繋げることができれば、それはまた都市としての活力を生み出すことに貢献することになる。ザリネ34はその極めて好事例であり、縮小地区における素晴らしい「都市の鍼治療」事例であると考えられる。 

【取材協力】Steffen Pr?ger (Saline 34の代表者)

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