065 シュピネライ(ドイツ連邦共和国)

065 シュピネライ

065 シュピネライ
065 シュピネライ
065 シュピネライ

065 シュピネライ
065 シュピネライ
065 シュピネライ

ストーリー:

 ライプチッヒ市の西側、プラークヴィッツ地区のカール・ハイネ運河に沿った場所に広大な木綿工場がつくられたのは1884年であった。20世紀前半には、その規模はヨーロッパ大陸では最大を誇るまでとなった。1907年には4000人以上の労働者がここで働いていた。さらに、そこは単に工場だけでなく、従業員の住宅、庭、幼稚園などが併設され、一つの町のように機能していた。
 ここでは、ベルリンの壁が倒壊した時点でも1650人が働いていたが、1992年にこの工場はドイツ再統一後に競争力の無さから閉鎖されることになる。すべての従業員は解雇され、9ヘクタールにも及ぶ空間が放置された。1993年にケルンに本拠地を置く会社がこの土地を買収するのだが、2000年から買い手を探し始める。
 そして、そのポテンシャルを認識した有限会社「Leipziger Baumwollspinnerei Verwaltungsgesellschaft mbH」が、この土地を2001年7月に購入する。この土地に関しては、銀行は一切、投資する意向を示さなかった。そして、60の空間を主に芸術家を対象に貸し出すことにした。建物は構造がしっかりとしていたために、改修費用と運営コストは高くない。その結果、家賃を低く抑えることができ、若い芸術家が借りることができるようにした。
 最初にここに住み込んだアーティストの一人が国際的にも著名なネオ・ラオホであった。彼がここにスタジオを設けたことは、他のアーティストを引き入れるのに大きく貢献した。そして、100以上のアート・スタジオがここにつくられることになる。アーティスト以外にも、音楽家、舞踊家、工芸作家、建築家、印刷業者、小売業者、デザイナーなどがここに店舗を開いたり、スタジオを設けたりした。さらに2004年頃から市内のギャラリーの関心を引き寄せることになり、2005年には6つのギャラリーがここに開設した。そのうちの一つは、蒸気エンジンが設置されていた空間をギャラリーへと変容させた。現在では14のギャラリーが、シュピネライにて開業している。建物は徐々に、そこに住む人達によって修繕されている。 
 このようにして、放置されていた工場がライプチッヒの文化と芸術の中心的な役割を担うことになり、多くのアトリエやギャラリー、レストラン、映画館、オフィス、アート・ショップなどが立地する仕事場、生活の場、さらには観光の場として「芸術の小宇宙」のような空間が創造されたのである。

キーワード:

産業遺産,アイデンティティ,アート,リノベーション

シュピネライの基本情報:

  • 国/地域:ドイツ連邦共和国
  • 州/県:ザクセン州
  • 市町村:ライプチッヒ市
  • 事業主体:Leipziger Baumwollspinnerei Verwaltungsgesellschaft mbH
  • 事業主体の分類:民間
  • デザイナー、プランナー:Regina Lenk 等
  • 開業年:2001年

ロケーション:

都市の鍼治療としてのポイント:

 ライプチッヒ市から西に行ったプラークヴィッツ地区。ドイツ再統一後は、住宅の質が高くなかったこともあり、空き家も多かった同地区であるが、現在ではライプチッヒ市でも若者にも人気のある文化ゾーンへと変容している。その大きなきっかけとなったのが、このシュピネライである。
 ライプチッヒ市はそもそも芸術都市であり、芸術関係には強い。芸術大学もあるし、サブカルチャー都市としても有名である。そのような都市のブランド・イメージや芸術的資源を、このシュピネライはうまく共振させることに成功した。このようなポテンシャルがあったにもかかわらず、2000年当時、ほとんどの銀行がお金を出さなかったことは、この芸術都市というライプチッヒ市のポテンシャルをしっかりと理解できなかったのではないかと推察される。当時は、「旧東ドイツ」、「大きな古い工場」、「アーティスト」という言葉には、銀行はこぞって拒絶反応を示したそうである。
 シュピネライを訪れると、芸術にそれほど関心がない人でも、数時間は費やされるようなちょっとしたアート・テーマパークのような場所となっている。ギャラリーが興味深いのはもちろんだが、資料室、映画館、文房具屋、図書館、ガーテン・レストランなどもある。ギャラリーでは、実際の作家が併設しているスタジオで作業をしたりしているので、直接、話をすることもできる。工場の歴史が分かる博物館も併設されている。また、ここでは地ビールもつくったりして、とてもクリエイティブな空気に溢れている。
 シュピネライは、最近では国際的にも知られるようになっており、多くの外国の芸術家を引き寄せている。イギリスの新聞『ガーディアン』は、ここを「地球上でもっとも熱い場所(the hottest spot on earth)」と形容した(2007年2月1日)。確かに、ここにいると何か創造したくなるような気分にさせられる刺激的な場所である。放置されていた工場が、見事に都市の魅力を創出する空間へと変容した、素場らしい「都市の鍼治療」事例である。

類似事例:

009 ツォルフェライン
013 ローウェル・ナショナル・ヒストリック・パーク
020 ニューラナークの再生
096 カルチャーセンター・ディーポ、ドルトムント
130 ヴァルカン地区再開発
160 ザリネ34
183 ドルトムンダーUタワー
195 ギャルリ・サンテュベール
255 リノベーション・ミュージアム冷泉荘
279 京都国際マンガミュージアム
283 京都芸術センター
296 がもよんの古民家再生
309 BLOX
・ 北野工房のまち、神戸市(兵庫県)