309 BLOX(デンマーク王国)
ストーリー:
コペンハーゲンのヴェスター・ヴォルゲー通りと運河との交差点に新たに2017年につくられた複合機能ビル。主なテナントはデンマーク建築センター(Danish Architecture Center)であるが、それ以外にカフェ、レストラン、そして賃貸用のオフィスと住宅、さらには広大なる地下駐車場から構成される。
その建築コンセプトとしては、なるべく多機能な役割を一つのビルに持たせるということである。そして、このビルと新たにつくられるオープン・エリアによって、この場所に活き活きとした都市活動をもたらし、それによってコペンハーゲンの都心部と、運河との結びつきを強化させることを意図している。
ゾーニング(土地利用計画)的には、BLOXは都心部の歴史地区と都市再生地区の境界に立地している。これは、BLOXがこの二つの異なるキャラクターの土地をスムーズに融合させる役割を都市戦略的に担うことは、宿命であるということだ。BLOXがつくられた場所は、それがつくられる前までは空間的アイデンティティを欠いていた。道路によって運河とは遮断され、都心部とこの場所を結ぶヴェスター・ヴォルゲー通りは裏道として使われていて、都市的な活動も不活性化していた。それが人々を都心部とウォーターフロントを結ばせる役割は果たしていなかった。この場所は、開発前は駐車場として使われているような状況であり、コペンハーゲンのウォーターフロントの魅力を発現させるような役割はまったく果たしていなかった。特に、この場所からウォーターフロントへのアクセスの悪さは大きな課題であった。
この課題を解決するために、BLOXは都心部から人々を運河へと誘導するための集客装置としてだけでなく、さらには運河沿いを走る交通量の多い道路の上を跨ぐようにビルをつくることで、ビル内の地下空間と上部空間で運河と接続させ、人々をウォーターフロントに自然とアクセスできるような工夫をしている。
このような工夫によって、BLOXはこのウォーターフロント・エリアに新たな目的地性を与え、正方形的な形状は建物の正面性を喪失させ、灯台のように全方位からランドマークとして際立つようにつくられている。これによって、北のキルケゴール広場は国立図書館の建物とBLOXに挟まれることでエンクローズドされた、より広場的な空間へと変貌し、そして、それまでアクセスが難しかった運河には、新たなる公共的な活動の場へと変化しつつある。
その床面積は27,000㎡。BLOXは、それ自体が集客施設であると同時に、そこは人々の移動のハブとしても機能し、周辺の都市空間を再定義させるような影響を発現させている。
キーワード:
レム・クールハウス,ランドマーク,ウォーターフロント
BLOXの基本情報:
- 国/地域:デンマーク王国
- 州/県:デンマーク首都地域
- 市町村:コペンハーゲン
- 事業主体:コペンハーゲン市役所
- 事業主体の分類:自治体
- デザイナー、プランナー:レム・クールハウス、エレン・ファン・ルーン
- 開業年:2017年
ロケーション:
都市の鍼治療としてのポイント:
コペンハーゲンの運河沿いに新たに出現した、レム・クールハウスが設計したBLOXの建物は、都市の文脈を上手く掴んで、その課題を建築によって解決しようとする大胆で見事な試みである。
この場所の最大の課題は、運河というウォーターフロントへのアクセスが自動車通りによって遮断されていたことである。それを道路の両側に架かる建物をつくることによって、そしてその建物の地下階をつくることによって、見事に繋ぐことに成功した。
コペンハーゲンの運河周りでは数多くの都市開発が進んでいる。多くの自転車・歩行者橋が架橋されている(都市の鍼治療「No.276 インナーハーバー橋」「No.038 サイクルスランゲン」なども参照)。そのような開発によって、それまでどちらかというと見過ごされていたウォーターフロントが、新たな都市の魅力を生み出す場へと変貌しつつある。そして、BLOXは1999年に開館したデンマーク王立図書館に並んで、このウォーターフロントの場所に集客する理由を提供しているのだ。
そして都市計画的には、この建物によってウォーターフロントと市街地の境界の定義が明瞭となったことが大きい。前田愛はその著『都市空間のなかの文学』で、「境界とはAでもあり、非Aでもありうる両義的な領域なのである」(p.41)と述べているが、まさにBLOXはウォーターフロント的でもあり、市街地的でもあり、その両義性を持たせることで、その境界性を顕在化させている。強烈なランドマークであることで、そこに空間的分断(ゾーニングという点では制度的分断)があることを如実に示すことで、周辺の都市空間に秩序を生み出しているのである。
そしてBLOXの主要テナントにコペンハーゲンのユニークさを示すデンマーク建築センター(Danish Architecture Center)が入っているところが、この建物の魅力を倍加させている。デンマーク建築センターは、デンマークの建築・都市デザインの博物館的な施設であり、この施設があるおかげで、デンマークがどのような都市開発・都市デザインを計画し、遂行しているかがよく分かる。筆者がコペンハーゲン周りの「都市鍼治療」事例を調査するうえには、大変、心強い施設であり、今回の記事を書くうえでも取材をさせていただいた。そのような市民やコペンハーゲンの都市デザインに関心のある人々に、しっかりとした情報提供をするような施設が、この新たに再生を図るウォーターフロントにつくられたBLOXにテナントで入っていることは示唆的である。コペンハーゲンの建築関係者もこのBLOXがウォーターフロントと都心部の結び付きを強化させるゲーム・チェンジャーになることを期待しているのではないかと思われる。
【参考資料】
デンマーク建築センターのホームページ
https://dac.dk/en/knowledgebase/architecture/vester-voldgade-2/
デンマーク建築センターでの取材
類似事例:
027 ギラデリ・スクエア
045 ユルバ・ブエナ・ガーデンス・エスプラナーデ
065 シュピネライ
155 ストックホルム市立図書館
189 ポンピドー・センター
190 MFOパーク
225 ニューヨーク公共図書館本館
271 ヘルシンキ中央図書館(Oodi)
279 京都国際マンガミュージアム
283 京都芸術センター
335 マルセイユ旧港広場の天蓋(オンブリエール)
・ デンマーク建築センター 、コペンハーゲン(デンマーク)
・ デンマーク王立図書館、コペンハーゲン(デンマーク)