155 ストックホルム市立図書館 (スウェーデン王国)

155 ストックホルム市立図書館

155 ストックホルム市立図書館
155 ストックホルム市立図書館
155 ストックホルム市立図書館

155 ストックホルム市立図書館
155 ストックホルム市立図書館
155 ストックホルム市立図書館

ストーリー:

 ストックホルムのスヴェア通りとオーデン通りの角に立つストックホルム市営図書館。スウェーデンを代表する建築家エーリック・グンナール・アスプルンドが設計し、1928年に完成した作品である。
 スウェーデンでは19世紀末期に自由教会運動、禁酒運動、社会民主主義労働運動などに代表される「国民運動」(folkr?relse)が起き、政治の民主化への要求が高まった。これらの国民運動は、図書館、集会所、公園などの様々な公共空間を形成していき、それらを場とする集会、娯楽活動、学習活動、自助活動を展開していく。この市営図書館も、この国民運動の流れの中に位置づけられる労働運動の図書館としてつくられていった。
 そのように歴史的には、同図書館は極めて民主性の高い公共空間であるが、立方体の建物に円柱の筒が真ん中に屹立している赤茶がったオレンジ色のその建築は、ストックホルム都心におけるランドマークとしても一際、強烈な存在感を放っている。この図書館に隣接している公園もアスプルンドの手により3年後に設計されたのだが、そのような理由もあって表玄関だけでなく、公園側の裏玄関からも図書館の建物はしっかりとランドマークらしく望むことができる。また、インテリアもその外観に劣らず素晴らしく、特に吹き抜けのエントランスホールでは圧倒的である。それは360度、本に囲まれた空間となっており、本好きにはたまらない空間であろう。この円形ホールの書架は3階まであり、凄まじい本の量に圧倒される。実際、この図書館には200万冊の図書、240万の音響CDが収蔵されている。加えて、カフェなどの公共的な広場空間がしっかりと付設されているところもこの図書館の魅力であると考えられる。
 この図書館はスウェーデンでは初めての開架式の公共図書館であった。この考えは、アスプルンドが図書館の設計中に、アメリカへ視察をしたことで得たアイデアであるそうだ。また、図書館内の家具は、空間の機能ごとに個別にデザインされている。この図書館は、アスプルンドの最も重要な作品として捉えられており、彼の作風が古典主義から機能主義へと徐々にシフトしていったことを示している。
 歴史という時間の流れの中でのメルクマールとして、また、ストックホルムという都市という空間的な位置づけの中でのランドマークとしても、極めて重要な位置づけを有する建築物である。

キーワード:

図書館, 公共施設

ストックホルム市立図書館 の基本情報:

  • 国/地域:スウェーデン王国
  • 州/県:ストックホルム県
  • 市町村:ストックホルム市
  • 事業主体:ストックホルム市
  • 事業主体の分類:自治体 
  • デザイナー、プランナー:エーリック・グンナール・アスプルンド
  • 開業年:1928年

ロケーション:

都市の鍼治療としてのポイント:

 図書館という公共施設には、何か不思議な力が潜在的に宿っている。しかし、その力を発現できていない、または発現させようとする意図さえ感じられない図書館がいかに巷には多く溢れているか。
 図書館の持つポテンシャルを我々に最近、知らしめてくれた事例としては、佐賀県武雄市の武雄市図書館がある。図書館という名称ではあるが、実際は複合施設であり、スタジオアキリの設計による洗練された屋内空間、スタバや蔦屋が併設されるなどの人々のニーズへ対応した取り組みなどは、多くの注目を浴びた。公共施設としてはどうなのか、といった観点からは批判も多いが、図書館って面白くできるじゃない、と人々の認識を改めさせた点では大きな功績があったと考えられる。少なくとも、武雄市が注目する機会は提供した。他にも、せんだいメディアテークやぎふメディアコスモスなども、おもに建築的な魅力から、その都市におけるランドマークのような存在となっている。さらに、世界を見渡せば、都市の魅力の構成要素となっている図書館は少なくない。コペンハーゲンの運河沿いに建つデンマーク王立図書館、エジプトの新アレキサンドリア図書館、シュツットガルト市立図書館、ロスアンジェルスのパウエル図書館などである。
 しかし、その象徴性、さらには都心における立地、そして空間の素晴らしさなどを鑑みると、ストックホルム市立図書館ほど、その都市の魅力に資する事例は多くないと思われる。
 インターネットの普及は、ある意味で図書館的アーカイブ情報を個人化させることを実現させた。しかし、人が集まる集会の場としての図書館の重要性は現代においても減じていない。いや、むしろアーカイブ的情報を個人化できることが可能となったことで、図書館はより広場的な機能が求められているような印象を受ける。そして、ストックホルム市立図書館は、まさに人が来たくなるような空間的魅力に溢れている。
 北欧近代建築の礎を築いたスウェーデンの建築家アスプルンドは、世界遺産となった「森の墓地」を始め、その作品のほとんどがスウェーデン国内にある。この事実も、ストックホルム市立図書館がストックホルムという都市に特別な意味をもたらしていると考えられる。

類似事例:

092 知識の灯台
200 世田谷美術館
225 ニューヨーク公共図書館本館
271 ヘルシンキ中央図書館(Oodi)
309 BLOX
・ 舟橋村立図書館、舟橋村(富山県)
・ 武雄市図書館、武雄市(佐賀県)
・ デンマーク王立図書館、コペンハーゲン(デンマーク)
・ せんだいメディアテーク、仙台市(宮城県)
・ ぎふメディアコスモス、岐阜市(岐阜県)
・ 新アレキサンドリア図書館、アレキサンドリア(エジプト)
・ パウエル図書館、ロスアンジェルス(カリフォルニア州、アメリカ合衆国)