279 京都国際マンガミュージアム(日本)

279 京都国際マンガミュージアム

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279 京都国際マンガミュージアム

ストーリー:

 京都市の烏丸御池駅という京都屈指の一等地に京都国際マンガミュージアムは立地する。京都国際マンガミュージアムはそのコンテンツのユニークさでも、さらには優れた小学校校舎の跡地利用としても注目されているプロジェクトだ。
 京都国際マンガミュージアムは、京都市と京都精華大学の共同事業である。マンガというコンテンツの特性上、そこは単に博物館的機能だけでなく、図書館的な機能も有している新しいタイプの文化施設である。
 この京都国際マンガミュージアムが開園したのは2006年。その建物は、昭和初期に建てられた龍池小学校の校舎であった。龍池小学校は京都の「番組小学校」の一つであった。番組小学校とは、明治初期に教育熱心な地域住民の寄付で建設された64の小学校である。そのような歴史を有する龍池小学校は、長い間、地元のシンボルであったのだが、少子化が進んだこともあり1995年に閉校する。
 その跡地利用の検討が始まったのは2000年である。その活用方針を検討する際、地元の人たちは、あくまでも地域住民のコミュニケーションの場としての役割を担うことを求めた(『廃校再生ストーリーズ』、p.113)。一方のプレイヤーである京都精華大学はマンガ研究の先駆的位置づけにあった。1973年に美術科にマンガクラスを設置し、2000年には芸術学部マンガ学科へと昇格させる。そのような流れの中で、長年にわたって蓄積されたマンガに関する教育と研究の諸成果を社会還元すべく、マンガ研究のための拠点をつくる必要性を考えていた。
 京都精華大学が京都市にマンガミュージアム構想を提案したのは2003年4月である。当初は京都市は公共性のない民間への借用は想定しないと回答するが、大学側は公民共同をコンセプトに、京都市が建物と土地を提供してくれれば、施設運営の実践と経費は大学側が負担をすることを提案した。加えて、その事業成果として、新たな学術文化情報発信ならびに生涯学習の拠点が市内に形成できること、マンガに関する新産業創出と人材育成が期待できることを説明した。さらに、地元住民・地元企業との連携案も提案する。京都市はそれを評価し、その実現に協力することで基本合意するのが同年12月である。そして、龍池小学校の校舎跡地をその候補地とする。
 京都精華大学の熱心なプレゼンテーションによって、地元の人たちもそれに可能性を感じ、京都市、京都精華大学、そして地元(学区)との三者間協議が繰り返しもたれるようになる。そして、2004年に合意に至る。ただ、地元住民の中には依然として不安を抱いているものもいた。そのような状況を改善するために、大学側も繰り返し説明をしていたのだが、そこで大きな転換点となったのは、故河合隼雄文化庁長官が京都でのシンポジウムで「国がつくる博物館美術館と異なり、地元の方が親しんできた小学校がミュージアムに変わるというところが京都らしい」と発言したことがきっかけであったろうと、京都国際マンガミュージアムに大学側から関わった吉村和真氏は筆者との取材に回答した。これで、地元住民の意志は固まった。
 そして、改修設計施工が始まり、地域活動のためのスペースや消防設備など、ここが地域コミュニティの拠点として機能するために必要なものを設置し、2006年11月に開館する。当時の館長は養老孟司氏であった。博物館でもあり、コミュニティ拠点でもあるため、ここでは地域住民が使う会議室があり、グランドではゲートボールの練習や地元の人たちの運動会が行われたり、選挙時には投票所として使われたりする。
 博物館としての事業はマンガ関連資料の収集・保存・公開を中心に、展示・講演・ワークショップなど、各種イベントの企画立案も実施している。蔵書数は、明治時代の雑誌や戦後の貸本などの歴史資料や世界各国の名作を含め、開館時の20万点から2017年には約30万点までに増加している。
 開館してからの最初の1年間では、予想していた数の5割増しの22万7千人が訪れた。2008年には建築が国の登録有形文化財に登録される。2010年には来館者100万人を記録し、2017年には300万人を記録する。外国人の訪問客も多く、フランス、中国、アメリカをはじめとした100カ国を越える国・地域から訪れており、京都市の『京都観光総合調査』では外国人の市内訪問先トップ25にランクインしている。これは、全国の大学関連施設の中でも群を抜いた利用者数である。また、来館者の7割が成人である。マンガに関する国際的かつ先端的な研究拠点としても、しっかりと機能しており、2016年には「10年にわたり博物館と図書館の両面からマンガ文化に貢献した活動」に対して朝日新聞社「第20回手塚治虫文化賞特別賞」、また2012年に「漫画文化への貢献」に対して「第41回日本漫画家協会特別賞」など、多くの賞を受賞するなど、社会的にも高い評価を得ている施設である。

キーワード:

図書館, マンガ, 跡地利用, リノベーション

京都国際マンガミュージアムの基本情報:

  • 国/地域:日本
  • 州/県:京都府
  • 市町村:京都市
  • 事業主体:京都市、京都精華大学
  • 事業主体の分類:自治体 市民団体 大学等教育機関
  • デザイナー、プランナー:株式会社類設計室
  • 開業年:2006

ロケーション:

都市の鍼治療としてのポイント:

 文部科学省が公表したデータによれば、2002年度から2020年度に発生した廃校の延べ数は8,580校である。これは、毎年450校ぐらいの廃校が生じている状況である。その背景には市町村合併と少子化が挙げられる。そして、これらのうち、施設が現存している廃校数は7,398校。そのうち活用されているものは74%である。
 これら廃校は、その地域において貴重な資源となり得る。特に京都市のように地価が高い一等地に生じた廃校は、上手く活用することで、その都市の魅力をさらに高めることができる。そして、学校には通常の跡地利用にはない特徴がある。それは、学校は地域の象徴であるということだ。加えて、その地域で育った人たちのほぼ全員が共有する記憶、思い出の場所でもある。したがって、学校という機能をなくしたとしても、その地域の象徴性を活かした廃校活用が強く求められるし、それができるかどうかで、地元の人の支持が得られるかどうかが決まると言っても過言ではない。
 京都市は歴史的に小学校と地元学区の住民との連携が強い。さらに、超一等地にある籠池小学校の跡地。この土地を京都市が売れば、どれだけの収入になったかは分からない。特に赤字行政の京都市としては、現金収入は喉から手が出るほど欲しかったであろう。しかし、自治体はデベロッパーではないし、土地転がしでもない。自治体が、その土地を有しているということは、未来永劫、それを公共的に利用し、都市の公共性を高めるという使命を有している。
 京都市は、廃校活用においてのプロポーザルをするうえでも、地域住民の了承を得ることを要件としている。そして、そこで選定された事業者は、京都市および地域住民との三者協議会で同意を得られなければ本契約は締結できない仕組みがつくられている。
 そのような中、意表を突くような廃校利用案を出しつつ、それを丁寧に地元住民に説明をしていった京都精華大学の人たちの粘り強さは驚くものがある。烏丸御池駅という市営地下鉄の結節点のすぐそばという好立地に、国際マンガミュージアムというコンセプト。しかし、それは結果的に京都市の都心地域の再生に資するという目的を達成し、文化芸術都市・京都のブランド力にも大きく貢献した。京都市は、この国際マンガミュージアムだけでなく、他にも学校跡地に高齢者福祉施設、こども未来館、芸術センターなどを整備している。
 廃校という都市においての大きな損失のダメージを最小限にし、それが有していたコミュニティ機能を維持しつつ、さらには貴重な歴史的な建築も壊さずに新しい命を吹き込んだ素晴らしい「都市の鍼治療」事例であると考える。

【取材協力】
吉村和真氏(京都精華大学副学長)

【参考資料】
『廃校再生ストーリーズ』伊藤総研編集主幹、株式会社美術出版社、2018年
「学外施設「京都国際マンガミュージアム」による社会連携・社会貢献」「大学評価研究第16号」
吉村和真、2017年10月

【参考ホームページ】
京都国際マンガミュージアムのホームページ
https://kyotomm.jp

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