087 郡上八幡の空き家プロジェクト (日本)

087 郡上八幡の空き家プロジェクト

087 郡上八幡の空き家プロジェクト
087 郡上八幡の空き家プロジェクト
087 郡上八幡の空き家プロジェクト

087 郡上八幡の空き家プロジェクト
087 郡上八幡の空き家プロジェクト
087 郡上八幡の空き家プロジェクト

ストーリー:

 郡上八幡は岐阜県北部にある郡上市内の長良川の支流、吉田川沿いに発展した風光明媚な街である。以前は八幡町であったが、2004年に郡上郡の7町村で合併して郡上市となる。古くから郡上郡の政治・商業の中心地であり、今も市役所が存在するなど郡上地域の中心的な役割を担っている。日本三大盆踊りの郡上踊りが開催されることでも知られている。
 この郡上八幡では人口の減少や建物の老朽化によって、空き家が増えており、2016年現在、およそ350件の空き家がある。そこで、郡上市から委託を受けた郡上八幡産業振興公社では、空き家を有効活用する方策として、家主から空き家を借り受けて改修し、移住者に貸し出す取り組みを2015年から開始した。 
 空き家対策のチームは「チームまちや」と命名された。郡上八幡の街づくりに市役所職員の立場からずっと取り組んできた武藤隆晴を中心に、公社から2名、新たに採用した若者1名と合計4名で取り組んでいる。観光資源でもある郡上八幡の「町家」を維持することで、情緒溢れる美しい街並みを保ち、人口の増加、町の活性化に繋げたいと考えている。
 その背景であるが、空き家が目立ち始めた1996年から八幡町は空き家の実態調査を始めた。その後、調査をするたびに空き家が増えていく状況に武藤氏は危機感を募らせ、公共事業としても空き家対策をしないとまずい、と考えるようになった。このまま空き家を放っておくと、八幡が崩壊してしまう可能性があると武藤氏は考えたのである。空き家の所有者もできれば、それを処分したい。しかし、なかなか需要を個人で見つけるのは困難である。結果、放置されるのだが、それらは町を癌細胞のように蝕んでいってしまう。
 本来であれば、空き家対策は市場が解決すべきことである。しかし、その市場経済が機能しない。公共事業として空き家対策を積極的に取り組む必要が生じているのである。そして、2001年からそれら空き家の利活用を検討しはじめ、2002年には空き家の町家を店舗にする事業の支援をするようになる。その流れを受けて、空き家対策に必要な即断・即決というスタイルは市役所には馴染まないため、公社を設立するようになり、チーム空き家事業を2015年4月から開始することにした。決裁権は公社が有している。
 そのスキームを説明すると、まず空き家所有者は空き家を10年間低額で公社に貸し付けをする。そして、公社は空き家を10年間借り受け、空き家を改修し、維持管理業務をし、入居者募集をして、選定、入居手続き業務をする。加えて、家賃徴収や苦情、トラブル対応もする。空き家所有者は残存物整理費用や税金、火災保険などは負担をするが、事務的な手間は公社がほとんど対応してくれる。オーナーが困っていることはすべて公社が引き受ける、ということで空き家の利活用をするインセンティブを最大限にまでつくるようにしている。また、郡上市は公社へ改修工事費、空き家対策業務費用、空き家対策職員の人件費などを補助してくれている。郡上市は2015年に4900万円を拠出し、郡上八幡産業振興公社の100万円とあわせて、この空き家対策の基金を創設したのである。2015年4月から開始したが、この1年で5件修繕をして、5件の賃貸に成功している。これからも年間で5件ほどを目標にしていると考えているそうだ。

キーワード:

空き家,人口減少,街並み保全,建物保全

郡上八幡の空き家プロジェクト の基本情報:

  • 国/地域:日本
  • 州/県:岐阜県
  • 市町村:郡上市
  • 事業主体:郡上八幡産業振興公社(チーム空き家)
  • 事業主体の分類:市民団体
  • デザイナー、プランナー:武藤隆晴
  • 開業年:2015年

ロケーション:

都市の鍼治療としてのポイント:

 2013年の住宅・土地統計調査によれば、空き家率は過去最高の13.5%にまでなっていた。全都道府県で空き家率がもっとも高いのは山梨県の17.2%である。これは、旧東ドイツの縮小地域と比べても遙かに高い。空き家問題は、随分と深刻な問題となりつつある。
 空き家所有者が困っていることは、「家屋の保持・維持管理」「老朽空き家の改修費用負担」「空き家利用者の募集・選定」「家賃回収業務」「入居者近隣トラブル調整」「売却価格設定・買い主選定」「残存物処理」などである。空き家を所有していることと、それを利活用することとを比べると、上記の利活用の問題を考えると面倒くさくなってしまう気持ちになるのは理解できる。所有者が高齢であれば尚更である。
 空き家問題の対策として、よく知られているのが空き家バンクである。これは、主に自治体が定住を促すために空き家を紹介する制度であるが、それほどメリットはないという。というのも、空き家の所有者は上記のような問題を抱えているのと同時に、空き家を借りる側としても、細かい問題を解決しなければ動けないからである。郡上市でも市域全体に空き家バンクがあるが、上手くいっていない。「チームまちや」は八幡の市街地だけを対象にしているが、順調に事業は進んでいる。貸し手・借り手のニーズをしっかりと組むことによって、都市の深刻な課題を解決し、郡上八幡の美しい街並みを維持させる。
 筆者は勝手に、郡上八幡を「日本のシエナ」と呼んでいるのだが、コミュニティがしっかりしていること、そして優れた行政感覚を持つ公務員がいることが、この郡上八幡の貴重な資源を次代に繋ぐことに成功している。この「チーム空き家」の試みも、郡上八幡ならではの素場らしい取り組みであると思うと同時に、空き家問題に頭を悩ませている他の自治体にも参考になる点が多いプロジェクトであると考える。
(取材協力:武藤隆晴氏)

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