151 オックスフォード・カバード・マーケット (イングランド)
ストーリー:
オックスフォードの都心にある公設市場。公式には1774年の11月に開設され、本日にまで至っている。この市場ができるまではオックスフォードのメイン・ストリートにて露天でものが売られていたが、衛生面での問題から、これを解消するためにつくられることになった。そして、新たにマーケット設立委員会がつくられ、委員の半数が市民、残りの半数が大学関係者から選ばれた。建築家のジョン・グィンが計画を策定し、ハイストリートを含む4方面に入り口のある20の肉屋店のための市場をここに建設することになった。すぐに20の新しい肉屋店が立地し、肉はこの市場内でしか販売できない規則がつくられた。そして、これを核に市場は発展し、野菜、乳製品、魚などもここで売られるようになる。
現在でも、この市場は多くの市民が日常品を買う場所として賑わっている。さらに、最近ではパン屋、サンドウィッチ店、カフェなどが出店するようになっている。市場内はハイストリート側を短辺とする細長い長方形の形をしており、ハイストリートと垂直に4つの通路が配置され、それらを繋ぐようにそれらと直行する通路が3本ほど通っている。
現在では約52店がここに店舗を出している。市場は基本的には個店にしか出店させないというポリシーがあるため、ほぼすべての店舗が個店であり、そのうちの数軒は何世代も引き継がれていたりする。営業時間は月曜日から土曜日は午前8時から午後5時30分までで、日曜日は午前10時から午後4時までである。テナントの多くが個店であるという特徴から、この市場はオックスフォードの都市アイデンティティを発露している。2017年5月、同市場にチャールス皇太子とコーンウォール公爵夫人が訪れて、同市場は「王室の承認(The royal seal of approval)」を授与された。
キーワード:
市場,歴史的建築物,都市アイデンティティ
オックスフォード・カバード・マーケット の基本情報:
- 国/地域:イングランド
- 州/県:オックスフォードシャー州
- 市町村:オックスフォード市
- 事業主体:オックスフォード市
- 事業主体の分類:自治体
- デザイナー、プランナー:John Gwynn
- 開業年:1774年
ロケーション:
都市の鍼治療としてのポイント:
ジャイメ・レルネルが『都市の鍼治療』で指摘しているように、魅力ある市場がある都市はその魅力を大きく発現することができる。また、凡庸なイメージを有している都市であっても、その市場は活力を有している場合が多い。ただ、その活力を魅力、さらにはその都市のアイデンティティにまで昇華させるには、建築的な工夫、管理の工夫などが求められる。オックスフォード・カバード・マーケットには250年の歴史という時間の積み重ねといった重みに加え、基本的に個店しか立地できないルールをつくることで、その独自性、アンチ・ショッピングセンター化を指向してきた。そして、それが、このマーケットの揺るぎないアイデンティティ形成に寄与してきたのである。
ただし、2012年度にオックスフォード市議会はテナントの賃料を値上げする。値上げはテナントによっては50%以上にも及び、テナントは猛反対をしたが強行された。その結果、あるデリカテッセンが閉店し、二年ほど空き店舗であったが、その後、ナショナル・チェーンのカード屋が入居する。これは、それまで個店だけというマーケットの暗黙の掟に反したもので、多くのテナントはこの展開に随分と憂慮している。そういうこともあって、基本的には個店が入っているのだが現状では100%個店という状況ではない。また、2017年にはオックスフォード市議会は160万ポンドをかけて、同市場の柱、屋根や看板、舗装などを補修することを発表した。
これまでオックスフォードの町のシンボルでもあったカバード・マーケットであるが、現在は曲がり角にあるといえよう。都市のアイデンティティといった重要性から、これからも、このマーケットのシンボル的価値をしっかりと維持させることが必要である。しっかりと維持させることこそが「都市の鍼治療」として重要なアプローチであると考えられる。
類似事例:
005 パイク・プレース・マーケット
006 バロー・マーケット
073 ボケリア市場
153 フェスケショルカ
172 ハッケシェ・ヘーフェの改修
179 出町座
182 鶴岡まちなかキネマ
214 ヴィクトアーリエンマルクト
251 杭瀬中市場の再生
292 オールド・マーケット・ホール
・ ユニオン・スクエア・ファーマーズ・マーケット(ニューヨーク、アメリカ合衆国)
・ クリチバ公設市場、クリチバ(ブラジル)
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・ アルト・マルクト、デュッセルドルフ(ドイツ)
・ グランド・バザール、イスタンブール(トルコ)