134 アカデミー・モント・セニス(ドイツ連邦共和国)

134 アカデミー・モント・セニス

134 アカデミー・モント・セニス
134 アカデミー・モント・セニス
134 アカデミー・モント・セニス

134 アカデミー・モント・セニス
134 アカデミー・モント・セニス
134 アカデミー・モント・セニス

ストーリー:

 アカデミー・モント・セニスは、ルール地方にあるヘルネ市のモント・セニス炭鉱跡地につくられた研修施設を中核とした複合機能施設である。そこには、研修者向けの宿泊施設(300床)、さらには図書館、地域センター、オフィス、そしてヘルネ市の派出所などが入っている。
 モント・セニス炭鉱は1978年に閉山した。その26ヘクタールにも及ぶ跡地利用としては、ショッピング・センターがつくられることが検討されたが、ノルトライン・ヴェストファーレン州は、その研修施設をここに移転することにし、それに宿泊機能、ビジネス機能、サービス機能を付加することにしたのである。そして、この施設の周辺は地域公園として整備することにした。
 1990年にはIBAエムシャー・パークのプロジェクトして、国際コンペを行うことにした。その結果、フランス人の建築家エレーヌ・ジョルダとジル・ペラウダンが選定された。そのコンセプトは、ロンドンの1851年万博でつくられたクリスタル・パレスであり、奥行き180メートル、幅75メートル、高さ15メートルの巨大な長方形のガラスの構造物の中に複数の建物がつくられることになった。このガラスの構造物の内部は微気候が管理されており、雨の心配などがないため、内部の建物は極めて簡易な木造のものがつくられることになった。このガラスの構造物に守られていることもあり、建物が消費するエネルギーは通常の場合の50%以下になっており、また、屋根は3200枚の太陽光パネル(1メガワットの出力)によって覆われているため、この建物は消費するエネルギーの2倍のエネルギーをつくりだすことに成功している。同施設は1999年にヨーロッパ・ソーラー賞、同年にノルドライン・ヴェストファーレン州の木造建築賞などを受賞した。

キーワード:

アイデンティティ,産業遺産,歴史保全,都市公園

アカデミー・モント・セニスの基本情報:

  • 国/地域:ドイツ連邦共和国
  • 州/県:ノルトライン・ヴェストファーレン州
  • 市町村:ヘルネ市
  • 事業主体:IBAエムシャーパーク(ノルドライン・ヴェストファーレン州、エムシャーパーク地方の自治体、民間企業等による協議体)
  • 事業主体の分類:その他
  • デザイナー、プランナー:HHS Planer + Architekten AG, Jourda & Perraudin Architectes
  • 開業年:1999年

ロケーション:

都市の鍼治療としてのポイント:

 IBA(国際建設展)という名称の都市再生プログラムがドイツにある。ドイツにおいては以前から大規模なイベントを開催することで、対象地区の空間の大幅な更新、良好なるイメージの創出、認知度の向上、起動時における民間に対する再開発の動機づけの提供などを意図してきたが、IBAはストレートにその本来の目的を掲げるために、その都市づくりにおける効果そして意義は大きいと考えられている。IBAが特に都市・地域開発手法として内外に知られるようになったのは1980年代以降、ベルリンのクロイツブルク地区を対象とした頃からであるが、さらにその評判を決定的にしたのが1988年から10年という区切りをもって開催されたIBAエムシャー・パークであろう。これは、ドイツのルール工業地帯に流れるエムシャー川流域800キロ平方メートルを対象とした120余りのプロジェクトの総称であり、それが提示したボトムアップ、協働、環境への視点、そして成長という考えとの訣別、といった点はドイツだけではなく多くの先進国の都市・地域開発にも影響を与えることになる。また、それは「都市の鍼治療」の事例の宝庫でもあり、実際、エッセンのツォルフェライン、ドルトムントのディーポ、デュースブルクのランドシャフツ・パークなどもこれまで紹介してきたが、今後も取り上げていきたい。
 このアカデミー・モント・セニスもまさに、IBAエムシャー・パークのプログラムからつくりだされた事例である。その優れた点は、まず印象的なランドマークとしての建築物を出現させたことであろう。ヘルネ市のゾーディンゲン地区の住民にとって、経済的にもランドマーク的にもその地区の象徴であった炭鉱がなくなるということは、未来への大いなる不安を与えることになる。経済的には、同じエネルギーではあっても炭鉱ではなく、太陽光への転換の象徴として、プラス・エネルギー・ハウスをつくることにした。この建物は消費するエネルギーの倍のエネルギーをつくりだすことができる。
 そして、ランドマークとしても巨大な囲いのような建物をつくることで、炭鉱がなくなったボイド空間を埋めると同時に、快適な内部空間を創出し、また、その建物がなかなかの存在感を主張しつつも、ガラスということで透過性もあり、その巨大さが圧迫感を与えないで周辺と調和させることに成功している。
 そして、市場経済に左右されない州の研修施設を移転させた。利便性には劣るかもしれないが、このような公共的機能をもたらせることは、単に補助金を落とすことより、その地域にとっては有効なのではないだろうか。
 既に建物がつくられてから20年近く経つが、まったく古さを感じさせない。衰退した地区の新しいイメージを創出するうえでも多くの貢献をした優れた事例であると思われる。

類似事例:

001 ガス・ワークス・パーク
009 ツォルフェライン
013 ローウェル・ナショナル・ヒストリック・パーク
023 ランドシャフツ・パーク
144 センター・フォア・アルタナティブ・テクノロジー
183 ドルトムンダーUタワー
194 テトラエーダー
209 ノルドシュテーン・パーク
217 ハルデ・ラインエルベ
317 ウッチのEC1科学・技術センター
・ ハーバー・アイランド、ザーブルッケン(ドイツ)
・ ギルゼンキルヘン・サイエンスパーク、ギルゼンキルヘン(ドイツ)
・ センター・フォア・オルタナティブ・テクノロジー、マッキンリス(ウェールズ)
・ オーデュボン・ハウス、ニューヨーク(ニューヨーク州、アメリカ合衆国)
・ ソーラーリビング・センター、ホップランド(カリフォルニア州、アメリカ合衆国)
・ プレシディオ、サンフランシスコ(カリフォルニア州、アメリカ合衆国)
・ エデン・プロジェクト、セイント・アウステル(イングランド)