194 テトラエーダー (ドイツ連邦共和国)

194 テトラエーダー

194 テトラエーダー
194 テトラエーダー
194 テトラエーダー

194 テトラエーダー
194 テトラエーダー
194 テトラエーダー

ストーリー:

 テトラエーダーはIBAエムシャーパークの事業として、ボットロップ市のバーテンブロック地区の丘に1995年につくられたものである。それは鋼鉄でできた一辺60メートルの三角錐の建築構造物であり、底面は地面から9メートルの高さに浮いている。
 それが建っている場所は、ルール地方を展望するにはもってこいの高台に位置しており、周囲からは90メートルほど高い産業時代のごみ捨て山(ぼた山)であった。周辺が平坦な地形ということもあり、隣接するエッセン市の中央駅からも、この構造物はみることができる。
 テトラエーダーとはドイツ語で四面体である。正式名称はHaldenereignis Emscherblickであり、これは「エムシャー展望のぼた山体験」とでも訳すべきものであるが、テトラエーダーという名称で人々に親しまれている。
 ここは1963年から1980年までぼた山として産業ごみのごみ捨て場となっており、1990年にエムシャーパークのプロジェクトに位置づけられ、企画コンペがなされ、1995年にはこの構造物が完成し、さらに1997年にはアクセス用の長大な階段(387段)がつくられた。
 ぼた山として周辺から目立つ存在であったが、さらにこの幾何学的な意匠の目立つ構造物が頂上につくられたことによって、このテトラエーダーはボットロップ市のランドマークとして強烈な存在感を放つことになる。
 また、この建物は地面から50メートルの高さに展望台がつくられているのだが、ここからはまさに360度のルール地方の展望を得ることができる。90メートルの高さのぼた山からでもその展望は見事なものであるが、さらに50メートルプラスされたことで、そこからの光景はよりダイナミックなものとなっている。
 この構造物は、以前の「都市の鍼治療」でも紹介したエッセン市のツォルフェライン(都市の鍼治療データベースNo.009)やデュースブルク市のランドシャフト・パーク(都市の鍼治療データベースNo.023)のようにルール地方の産業遺産ルートのプロジェクトに組み込まれている。

キーワード:

ランドマーク, アイデンティティ

テトラエーダー の基本情報:

  • 国/地域:ドイツ連邦共和国
  • 州/県:ノルドライン・ヴェストファーレン州
  • 市町村:ボットロップ市
  • 事業主体:IBAエムシャーパーク
  • 事業主体の分類:その他
  • デザイナー、プランナー:ウルフガング・クリスト(Wolfgang Christ)、クラウス・ボリンジャー(Klaus Bollinger)
  • 開業年:1995年

ロケーション:

都市の鍼治療としてのポイント:

 ボットロップ市はルール地方を構成する11の独立都市としての一つであるが、人口は約11万7000人(2018年)で最小であり、面積的にはボットロップ市より小さいところは3つあるが、そのどれよりもボットロップ市の人口密度は少ない。
 それに加えて、ボットロップは交通の便が悪い。ルール地方の鉄道の大幹線はデュッセルドルフーデュースブルクーエッセンーボーフムードルトムントを結ぶ路線である。その次に重要なのは、デュースブルクーオーバーハウゼンーゲルゼンキルヒェンードルトムントを結ぶ路線である。そして三番目に重要なのは、デュッセルドルフーヴッパータルーハーゲンードルトムントを結ぶ路線であろう。ボットロップはこれらの路線の沿線上にない。ボットロップ市のイメージが弱いのは、都市規模の小ささだけではなく、地理的に重要なネットワーク上にないこともその要因であろう。
 同市は19世紀後半から石炭産業で栄え、1921年には独立都市となり、ルール地方の一躍として繁栄するが、1970年頃からその主要産業である石炭産業はルール地方のご多分に漏れず、衰退し、1980年頃には、ボットロップ市の将来展望は非常に厳しいものと認識されるようになった。
 そこで、ボットロップ市が期待したのが、IBAエムシャーパークである。IBAエムシャーパークは1989年から1999年の10年間に及んだ地域再生事業であり、その方法論としては、マスタープランつくらずにプロジェクトを展開することで、徐々に状況を改善させていくというアプローチが採用された。
 IBAエムシャーパークの大きなコンセプトは、ルール地方の新しいイメージをつくりあげることである。都市イメージが弱いボットロップ市において、このコンセプトはまさに渡りに船であった。ぼた山というどちらかというとネガティブな存在を「展望台」というポジティブな存在へと転換し、それをデザインの力で人々の耳目を集めることに成功させた。また、そのアプローチも長大な階段という優れたランドスケープ・デザインで演出することで注目を浴びることになった。まさに見事な「都市の鍼治療」であるといえるだろう。
 さらに付け加えるならば、大きく炭鉱都市の脱皮を図るために戦略的な政策を展開させているボットロップ市は、この数十年間、大企業ではなく中小企業を誘致することに力を入れてきたこともあり、現時点の失業率は6%とルール地方では相当、低いものとなっており、また他のルール地方の自治体に比べると人口減少率も極めて少ない。スマート・シティという新しいコンセプトでの先進的な都市づくりを現在は展開中であり、小都市でありながら、またこの「都市の鍼治療」で紹介したくなるようなプロジェクトを成功させるような期待を抱かせる都市である。

類似事例:

004 エンジェル・オブ・ザ・ノース
009 ツォルフェライン
023 ランドシャフツ・パーク
134 アカデミー・モント・セニス
217 ハルデ・ラインエルベ
・ ラインエルベ・スラグヒープ・スカルブチャー・フォレスト、ゲルゼンキルヒェン(ドイツ)
・ シューレンバッハ・スラグヒープ、エッセン(ドイツ)
・ シュヴェリーン・スラグヒープ、カシュトロップ・ラウクセル(ドイツ)
・ ギルゼンキルヘン・サイエンスパーク、ゲルゼンキルヒェン(ドイツ)