245 大分いこいの道(日本)
ストーリー:
大分市は廃藩置県の後、耕地整理を遂行することで、都市開発に必要な土地需要に対応したが、そこに緑地を計画的に配置することはなかった。その後、第二次世界大戦で米軍の激しい空襲で大分市の中心部は焼け野原となり、本格的な土地区画整理計画が策定され、府内城から遊歩公園というグリーンインフラが整備されたりしたが、既成市街地内の緑は相変わらず整備されず、都心部における緑の需要は満たされないままであった。
その後、大分における新産業都市計画が進捗する中で、都市中心部を南北に分断していた日豊本線を高架化し、大分駅周辺総合整備構想を策定することになる。そして幅100メートル、長さ444メートルのシンボル・ロードを都市軸として設ける計画をたてた。そして、都心部の貧弱な緑の状況を改善するために、そこを緑地とすることを提示する。これは市民の大きな支持も得て、推進されることになった。
その整備方針は「ゆったりとした緑豊かな通りと広場の形成」、「植栽や修景等により個性と風格ある美しい通りの景観の創出を図る」。2013年2月にこのシンボル・ロードは開通し、同年7月にはその愛称は「大分いこいの道」に決まった。
その整備方針に沿って、広場全体には約2.5ヘクタールの芝生を敷き詰め、植栽も約200本の多様な樹木が植えられた。そして、これらの緑が隣接する上野の丘の緑や庄の原佐野線の高規格道路と連続するように計画され、都心にこれら周縁部の緑を引き込むような役割をも果たしている。また、土地の起伏をゆるやかにすることで死角をなくし利用者の安全に配慮したり、歩行者が自由に広場を散策できるような動線上の工夫も行った。「大分いこいの道」の幅員構成は、広場部分約70メートル、車道部分20メートル、歩道部分10メートルである。隣接する「ホルトホール大分」と広場部分とには道路を設けず、一体的な空間利用ができるように配慮した。そのために、車道はホールとは反対側に集約された。広場は三つのゾーンに分けられ、それぞれに設置されているイベント広場は貸し出しが可能となっている。ここは、災害時における避難場所にも使えるように設計されており、ヘリポートとしても利用できる。
また、市民植樹祭を開催して、市民との協働作業を図った。このような作業を通じて、市民はこの広場の所有者としての意識が高まり、積極的にそれを維持管理するための「大分いこいの道協議会」が組織された。大分いこいの道の整備とほぼ前後して、隣接して複合文化交流施設(JCOM: ホルトホール大分)、大分駅前の南北広場が供用を開始し、大分駅ビルも完成し、このゾーンは新たな大分の象徴的な都市空間となったのである。
大分いこいの道は、2014年には第1回九州まちづくり賞(ホルトホール大分と大分いこいの道の一体的整備によるにぎわいの創出)、2019年には景観大賞(大分駅南地区)を受賞した。
【取材協力】佐藤誠治氏(2021年5月)
【参考文献】
佐藤誠治「大分いこいの道とグリーンインフラ」『区画整理』2020年5月号
キーワード:
緑道,シンボル・ロード,歩道,プロムナード
大分いこいの道の基本情報:
- 国/地域:日本
- 州/県:大分県
- 市町村:大分市
- 事業主体:大分市
- 事業主体の分類:自治体
- デザイナー、プランナー:西村浩(ワークビジョンズ)等
- 開業年:2013
ロケーション:
都市の鍼治療としてのポイント:
大分いこいの道は、100年に一度の大事業といわれてきた、大分駅周辺総合整備事業の目玉事業の一つとして構想された。そういう意味では、これは「大手術的」な都市整備事業であり、「都市の鍼治療」ではないのではと指摘される方もいるであろう。しかし、この事業のポイントは、緑道の歩道空間を確保するために、4車線・幅20メートルの車道を西側に集約配置させて、隣接する「ホルトホール大分」とを広場空間によって結節させることで、広大なる芝生広場と合わせて広大なる人間空間を創造することに成功したことにある。
そして、このデザイン的工夫によって、駅前という一等地において市民が憩える緑の広大なる芝生広場をつくることに成功しただけでなく、そこへの駅や周辺の文化施設からの安全、快適なアクセスを獲得することを可能とした。その「歩行空間」を自動車交通より優先させたアプローチこそが、この事業を上手く軌道に乗せる「鍼治療」と捉えたのである。すなわち、一般的なシンボル・ロードでみられるように、車道の中間分離帯を大きく取って、その分離帯には緑はあっても、そのアクセスの悪さゆえに、人々があまりその緑の分離帯を歩行したり、利用しないといった状況を回避した、そのデザイン的知恵こそ、「鍼治療」的な賢さがあると考察したのだ。
それがどの程度、素晴らしいかが理解できない人は、他の県庁所在都市の中央駅を考えるとよい。ほとんどの場合、歩行者より自動車動線が優先された空間づくりがなされていることを理解できるであろう。
「大分いこいの道」には大分市役所職員の思い、デザイナーの知恵、そして市民の意見を汲み取り、その理解を促すための丁寧な市民参加があった。「大手術的」な都市整備事業の中でも、都市のつぼをしっかりと見極めた公共空間づくりであると考えられる。
類似事例:
050 マドリッド・リオ
053 ハイライン
105 エスプラナーデ公園
136 プロムナード・プランテ
187 セーヌ河岸のパリ・プラージュ
222 リージェント運河の歩道整備
230 港北ニュータウンのグリーン・マトリックス
235 用賀プロムナード
253 ロープウェイ通りの空間再構築
295 象の鼻パーク
シャンゼリゼ通りのリノベーション、パリ(フランス)
ビッグ・ディッグ、ボストン(マサチューセッツ州、アメリカ合衆国)
コモンウェルス・アヴェニュー、ボストン(マサチューセッツ州、アメリカ合衆国)
アヴェニーダ・パウリスタ、サンパウロ(ブラジル)
アヴェニーダ・ダ・リベルダージ、リスボン(ポルトガル)
オーチャード・ロード、シンガポール(シンガポール)
アンドラーシ通り、ブダペスト(ハンガリー)
イースタン・パークウェイ、ブルックリン(ニューヨーク州、アメリカ合衆国)