114 ホロコースト記念碑 (ドイツ連邦共和国)

114 ホロコースト記念碑

114 ホロコースト記念碑
114 ホロコースト記念碑
114 ホロコースト記念碑

114 ホロコースト記念碑
114 ホロコースト記念碑
114 ホロコースト記念碑

ストーリー:

正式な名称は「虐殺されたヨーロッパのユダヤ人のための記念碑」。ベルリンのポツダム広場、そしてブランデンブルグ門のすぐそばに位置する。敷地面積は1.9ヘクタール。そこには2711のコンクリートの石柱の碑が墓標のように林立している。この石柱は、幅は0.95メートルから2.38メートル、また高さは0.2メートルから4.8メートルのものまであり、南北に54、東西に87とほぼ垂直に直交する行列から構成されている。
 このプロジェクトの東端には、情報センターが設置されている。これは訪問者、とくに若い世代の人々が過去をしっかりと理解するためには、ホロコーストの具体的な知識が不可欠であると考えられたためである。ここでは、ナチのユダヤ人絶滅政策の展開が示され、犠牲者の遺品や、強制収容所での生活の状況が展示されている。
 建築家のアイゼンマンによれば、この場所は人々を不安にし、困惑させ、林立する彫刻群は秩序あったシステムが人の手によって変形させられてしまったことの表現を意図している。アイゼンマンはこのランドマークを表現するうえで、いかなる記号的要素をも排除した。
 このような施設をつくるべきかどうかは、1980年代後半から議論されるようになった。施設の建設を主張したのは、テレビ・ジャーナリストのリー・ロッシュ、歴史家のエベルハルト・ジェッケルであった。2人ともユダヤ人ではなかったが、多くの寄付を集めることに成功し、アイデアが具体化されることになった。
 2005年に開業されてから2年後の2007年には100万人の訪問客がここを訪れた。2009年には累計で200万人の訪問客が訪れた。夏には一日当たり2000人がここの情報センターを訪れるなど、悲惨な歴史の記憶を継承させる施設であるが、そこはベルリンの観光資源としても重要な位置づけを有するランドマークとなっている。
 建設費はおよそ2500万ユーロ。

キーワード:

記念碑, 記憶装置, ランドマーク

ホロコースト記念碑 の基本情報:

  • 国/地域:ドイツ連邦共和国
  • 州/県:ベルリン州
  • 市町村:ベルリン市
  • 事業主体:Foundation Memorial to the Murdered Jews of Europe
  • 事業主体の分類:
  • デザイナー、プランナー:ピーター・アイゼンマン、ブーロ・ハッポルド
  • 開業年:2005年

ロケーション:

都市の鍼治療としてのポイント:

 この記念碑が表現しているのは、未来に警鐘を鳴らす過去である。ベルリンというドイツの首都の中心に建立されたこの広大なモニュメントは、訪れる人に想起や瞑想を促す空間となっている。ドイツの歴史の暗部を、このように自国においても最も重要な場所に立地することは、ドイツが再統一後も、旧西ドイツの理念を継承し、ナチズムに対して批判的な認識を政治的なアイデンティティの中核に据えていくことを内外に示すことになった。
 都市はメディアでもある。そのメディア的特性をいかに上手く活かすかは、都市政策による。ベルリン、パリ、ロンドン、バルセロナといった都市はそのようなメディア的特性を活かすことに長けており、それはまたお金をそれほどかけなくても都市のブランドを高める格好の「都市の鍼治療」でもある。ホロコースト記念碑は、ドイツにとっては暗く忌まわしい過去であり、多くのドイツ人にとっては思い出したくない歴史の恥部でもある。
 しかし、そのような歴史を直視し、その記憶を継承することを積極的に意思表示することで、初めて周辺諸国と和解することができる。真摯に謝罪をする人に対して、人は寛容となる。そして、そのような記憶装置は、都市というメディア的特性に長けているところほど、その周知効果が高くなる。そして、実は都市も、そのような発進力のあるコンテンツを有することで都市としての魅力を増していくのである。東西ドイツが1990年に再統一され、ベルリンがドイツ最大の都市として、広くそのアイデンティティを改めて再編させていく中、当記念碑やユダヤ博物館など、ナチスというドイツの忌まわしい歴史を展示し、再発信させていく機能を集積させたことには、遠望なる都市戦略が含まれていると思われる。それは、単に都市観光の集客施設として機能するだけでなく、過去の悲劇に立脚しつつ、新しい時代ノドイツが進むべき道を宣言する役割をも担っている。
 そして、ホロコースト記念碑はベルリンの都市としての魅力、多様性を大きく向上させることに寄与していると思われるのである。

類似事例:

033 ジェノサイド・メモリアル
152 森の墓地(スコーグシュルコゴーデン)
158 ベルリン市立ユダヤ博物館
216 いわき震災伝承みらい館
221 平和の鐘公園
266 石巻市震災遺構大川小学校
・ テロのトポグラフィー(ベルリン市、ドイツ)
・ アウシュヴィッツ=ビルケナウ強制収容所(オシフィエンチム市、ポーランド)
・ 大島青松園(高松市、香川県)
・ 長島愛生園(瀬戸内市、岡山県)
・ 原爆ドーム(広島市、広島県)
・ ベトナム・ワー・メモリアル(ワシントンDC、アメリカ合衆国)
・ ホロコースト歴史博物館(エルサレム市、イスラエル)