168 アンドレ・シトロエン公園 (フランス共和国)
ストーリー:
アンドレ・シトロエン公園はパリ15区、エッフェル塔の1キロメートルほど南、セーヌ川沿いのジャヴェル地区そばにつくられた公園である。約14ヘクタールの規模を誇り、これはパリにつくられた公園としてはこの100年では最大規模を誇る。
この公園はシトロエンの自動車工場跡地にパリ市がつくったものである。シトロエンは1915年にここに工場を建設し、それは1970年代まで操業されていた。操業が終わった後、工場の24ヘクタールが空き地となり、パリの都市計画においてもその跡地計画が検討された。そして、パリ市が1972年にこの土地を購入する。
1979年にはこの土地は包括的開発地区(Zone d’Am?nagement Concr?te)に指定され、1985年にはこの土地のうち14ヘクタールの部分を都市公園とする国際コンペを行う(残りの10ヘクタールは病院、オフィス、住宅として再開発がされた)。その目的は、パリ市らしい公園であると同時に、世界的なトレンドにも合致させるというものであった。国際コンペには世界中から約60社の応募があり、その中から二案が選出され、両方の案を採用することにした。この建設費は7.4億円で、公園は1992年に開園した。
シトロエン公園は、白の公園、黒の公園、そして中央公園の3つの公園から構成されている。これらのうち、中央公園は11ヘクタールを占めており、白の公園と黒の公園は、中央公園と道路を隔てたところにあり、白の公園が北側、黒の公園は南側に位置している。
中央公園は幾何学的な秩序だった空間と、それとは真逆の自然のままの有機的な空間から成る。
幾何学的な公園の中心には273メートル×85メートルの広大なる芝生がある。この広大なる芝生空間は周辺の高密度なパリ市街地とは強烈なコントラストの印象を来たものに与える。芝生の東には巨大な二つの温室が設置されており、この温室は冬にはパリ市民には格好の憩いの空間となっている。芝生と温室の間には噴水のあるコンクリートの広場が存在している。芝生の南には「メタモルフォーゼの庭」と呼ばれる運河とグラナイトの壁によって空間の境界が演出されており、そこには渡り廊下が通っている。芝生の中央には巨大な気球(32メートルの高さ)が置かれている。これは1999年から開始されたサービスで、この気球に乗って300メートルの高さからパリ市内を展望することができる。そして、この空間の最も重要なデザイン要素は、隣接するセーヌ川に全面的に開放されていることである。
自然なままの公園は、幾何学的な公園の周縁部に位置し、そこには6つのテーマの異なる小庭園が配置されている。これらの庭園は色の名前を与えられており、それぞれにテーマの異なる、金属、曜日、惑星、水の状態、感覚をコンセプトにしている。例えば青の庭園は「銅、金星、金曜日、雨、臭覚」であり、緑の庭園は「錫、木星、木曜日、湧き水、聴覚」、赤色の庭園は「鉄、火星、火曜日、滝、味覚」である。土曜日(土星)のテーマは外されている。
白の公園は児童が遊べるプレイグランドもあり、また中央には高い塀で囲まれたちょっとした庭園もつくられている。黒の公園は針葉樹などの暗い印象を与える樹木が植えられており、ちょっとした迷路のような庭園となっている。
公園内の施設はレジャーやリラクセーションのために使われることを意図している。子供達は、ここで球技をしたり、卓球テーブル上で卓球をしたりすることができる。芝生でも自由に遊ぶことができるが、これはパリ市内の公園の芝生では極めて例外的であるそうだ。
キーワード:
ランドスケープ, ガーデン, 公園, 庭園
アンドレ・シトロエン公園 の基本情報:
- 国/地域:フランス共和国
- 州/県:イル・ド・フランス地域圏
- 市町村:パリ市
- 事業主体:パリ市
- 事業主体の分類:自治体
- デザイナー、プランナー:Gilles Clément, Alain Provost (ランドスケープ・アーキテクト), Patrick Berger, Jean-François Jodry, Jean-Paul Vigui
- 開業年:1992年
ロケーション:
都市の鍼治療としてのポイント:
世界都市の筆頭格パリ。その都市の魅力は議論を差し挟む余地もないほど絶対的なものがある。しかし、グローバリゼーションが展開している中、パリのような都市でも魅力を常に更新していくことが求められている。そして魅力的であることそれ自体がアイデンティティーであるようなこのパリという都市は、その点も痛切に自覚していると思われる。1950年代後半に計画されたラ・デファンス再開発地区、1980年代につくられたラ・ヴィレット公園、ポンピドゥー・センターなど、伝統的な都市の魅力を維持しつつも、新たな都市の魅力を創造させる都市政策を続けてきた。
そして、このアンドレ・シトロエン公園である。この公園内には2,000本の木が植えられ、アスファルト、コンクリートだらけの大都市において貴重な緑を提供することにも成功した。それ以前はここが工場であったことを考えると、都市のアメニティという観点からすれば、大きなマイナスが大きなプラスへと転じたのである。
シトロエン公園はジャヴェル駅に近く、パリのように圧倒的に土地に対する需要が高い大都市においては、ビジネス的には喉から手が出るほど欲しい、幾らお金を出しても買いたい、と思う企業がいくらでもいたであろう。それを敢えて、そのような商業的な土地利用をせずに、公園として広く人々が活用できる公共空間として整備をした。しかも、そのセールスポイントは広大なる芝生である。それはパリ市民が求めていた空間を提供しただけでなく、パリの都市の魅力をさらに高めることにも成功した。それこそが都市経営であり、しっかりとした土地利用計画であると思われるのだ。このような公園が整備できるところにこそ、パリの都市としての格の高さがあり、日本の都市が(一部を除いて)なかなか一流になれないところの違いなのではないだろうか。
【出典】Andre Tate “Great City Parks”
類似事例:
044 フィニックス・ゼー
045 ユルバ・ブエナ・ガーデンス・エスプラナーデ
098 あさひかわ北彩都ガーデン
105 エスプラナーデ公園
110 バリグイ公園
139 パイオニア・コートハウス・スクエア
176 ブライアント・パークの再生事業
188 ブルックリン・ブリッジ・パーク
190 MFOパーク
334 ラ・ヴィレット公園
・ ラビレット公園、パリ市(フランス)
・ ベルシー公園、パリ市(フランス)
・ ベルヴィル公園、パリ市(フランス)
・ ジョルジュ・ブラッスンス公園、パリ市(フランス)
・ グエル公園、バルセロナ市(スペイン)
・ ラベット・パーク、ライプツィヒ市(ドイツ)