016 チョンゲチョン(清渓川)再生事業(大韓民国)

016 チョンゲチョン(清渓川)再生事業

016 チョンゲチョン(清渓川)再生事業
016 チョンゲチョン(清渓川)再生事業
016 チョンゲチョン(清渓川)再生事業

016 チョンゲチョン(清渓川)再生事業
016 チョンゲチョン(清渓川)再生事業
016 チョンゲチョン(清渓川)再生事業

ストーリー:

 チョンゲチョン川は、ソウル市内を東西に縦断するように流れ、漢江に注ぎ込む総延長10.92kmの都市河川である。このチョンゲチョン川は、頻繁に大氾濫を起こし、その治水事業は朝鮮王朝時代からの大きな課題であった。20世紀初頭には衛生問題などから、その暗渠化が検討され、1971年には遂にソウル市内からその姿を消してしまう。さらに、その上には高架道路を通され、ソウル市の空間から、そしてソウル市民の記憶から忘れ去られてしまった。

 しかし、2005年10月1日、その川の上を覆っていた高架道路が撤去され、暗渠化していた蓋が取られ、チョンゲチョン川はその姿を再び現したのである。その後、大統領になったイ・ミョンパク氏が2002年にソウル市長選に出馬した時の選挙公約として、このチョンゲチョン川の復元を掲げた。総事業費は387億円。その事業費は、なんと市役所の職員の給料をカットしたことで捻出したと言う。従って、この事業を遂行するうえで市民の負担はゼロ。一方でその効果は絶大である。

 まず、高架道路が撤廃されて、川が復元してから、ここを訪れた人は初年度で3000万人。東京ディズニーランドの2倍弱である。ただの川の復元であるのに、なぜこれだけの人が集まったのだろうか。まず、公共空間としてのデザインが相当優れている。特に夜のライトアップは美しく、デート・スポットとしては傑出しているだろう。実際、訪れた時も、京都の鴨川を上回るカップル密度の高さであった。あと、ロケーションがいい。ソウルの都心のど真ん中を横断している。東京でいえば日本橋川といった感じか。とりあえずチョンゲチョン川を訪問して、そこから明洞、景福宮、東大門、南大門、徳寿宮、ソウル市役所と足を伸ばすことができる。

 そして、何より、この川はソウルという都市のランドマークとして人々を惹きつけた。それは完成すると同時に、ロンドンのハイド・パーク、ニューヨークのブルックリン橋、シドニーのオペラ・ハウス、パリのシャンゼリゼ、リオデジャネイロのコルコバードの丘、サンフランシスコの金門橋、バルセロナのサグラダ・ファミリアといった世界の都市の優れたランドマークと肩を並べるような位置づけを獲得したのである。それにしても、人工河川がこのような優れたランドマークとなり得たソウルという都市は随分、幸せではないだろうか。

キーワード:

ウォーターフロント,アクセス,アイデンティティ,歴史保全,都市観光

チョンゲチョン(清渓川)再生事業の基本情報:

  • 国/地域:大韓民国
  • 州/県:ソウル特別市
  • 市町村:鐘路区(チョンノグ)と中区(チュング)
  • 事業主体:ソウル特別市
  • 事業主体の分類:自治体 
  • デザイナー、プランナー:イ・ミョンパク(グランド・デザイン)、Mikyong Kim Design(公共プラザのランドスケープ)など
  • 開業年:2005

ロケーション:

都市の鍼治療としてのポイント:

 チョンゲチョン川の周囲の地価は高騰しているそうだ。それはそうであろう。今までは高架道路という周辺地域からはアクセスが難しいが、騒音や排気ガスを撒き散らし、しかも日陰をつくり、景観的にも最悪な巨大な土木構造物があったのが撤去され、その代わりに水辺が緑で彩られた河川が現れたのだから。騒音の代わりに川のせせらぎ、排気ガスの代わりに水辺の植物がはきだす酸素、醜い土木構造物の代わりに詩情溢れる渓流の景観が現れたのであるから、土地の価値は高まるのは当然だ。さらに、このチョンゲチョンという東西の軸を面的にも展開させようとする都市再生計画が策定された。これは、昌徳宮と南山とを結ぶ南北の軸を幅100メートルの緑道として整備するもので、これが完成すると、ソウル市はそれまではスポット的に存在していた緑がネットワーク化されることになり、随分と自然溢れる都市になると考えられる。まさにアジアを代表する環境都市が誕生したのである。
 チョンゲチョン川の事業は、都心にアメニティ空間を創造したこと、観光スポットとして人々を集客したこと、周辺の地価を上昇させたこと、など多くの成果を実現したが、チョンゲチョン川の最大の功績は、ソウルの都市の埋もれてしまった記憶を蘇らせたことである。つまり、ソウル市のアイデンティティともなる分断されていた歴史の流れを再び呼び起こし、現代へと紡いだことである。このような時間の積み重ねという縦の軸をしっかりと発現させた都市というのは非常に強い。チョンゲチョン川の再生は、ソウルの都市の失われたアイデンティティを発露することに成功したのである。この功績こそがチョンゲチョン川の事業において、最も重要で価値のあることである。ちょっと、規模は大きいが、これを「鍼治療」と言わずして何という、という感じである。レルネル氏もその著書『都市の鍼治療』で、チョンゲチョンが実現される前の計画をみて、次のような感想を述べている。「それらのプロジェクトには明確な意図が明記されている。将来の都市像を示した図面は明確であり、周辺の山々、そして復元された川などが示されている。将来の都市の姿は彼らの頭の中にある。私は、これらの総てのプロジェクトが近い将来実現されることに疑いを持たない。」
 まさに、ジャイメ・レルネルがクリチバにおいて「花通り」の歩行者専用道路という一大事業で、市民の心をつかみ、その後の都市改造に成功したのと同様に、ソウル市は、このチョンゲチョン川を契機として、ソウルの都市を飛躍させようとしている。チョンゲチョン川広場に「スプリング」と呼ばれる巻き貝のお化けのようなオブジェがある。これは、チョンゲチョン川の復元一周年を記念してつくられたものだが、これからのソウルの跳躍を表現しているそうだ。

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