127 下北沢カレーフェスティバル (日本)
ストーリー:
下北沢カレーフェスティバルとは毎年10月に10日間、カレーの街シモキタで開催される1年に1度のカレーのお祭りである。2012年に開始されたので、まだ歴史は浅いのだが、年々注目度も高まり、今では相当の集客力を有する地域イベントとなっている。
そもそもは2011年に知り合いが4人ほど集まって、身内のカレー王座決定戦を始めたことがきっかけである。会場は30人ぐらいしか収容できないお店であったのだが、そこに200人が集まった。これは下北沢のイベントにできるのではないかと、その後、世田谷区議選に出馬した下北沢の住民、岩井ゆうき氏が仕掛け、それをI LOVE下北沢というプロジェクトを手がけていた西山友則氏が、それまでの活動から構築したネットワークを活用して参加店を募って実現したのが、この下北沢カレーフェスティバルである。
最初の年に参加したのは46軒であったが、その後、増加していき、2017年は149軒が参加している。参加者数も着実に伸びていき、1年目は1万人、2年目は5万6千人、3年目が10万人、4年目が12万人、5年目が12万人となっている。10日間で12万人というのは、年間換算だと435万人。これは上野動物園(2015年度は367万人)や沖縄美ら海水族館(同年度は340万人)といった日本で最も集客力のある動物園、水族館よりも多い数字である。
この成功の要因はいろいろと考えられる。まず、下北沢は東京の西部地区では確かにカレー屋の集積は多く、カレーフェスティバルを開催するだけのコンテンツが街に充実している。そして、相対的にカレー屋の店舗数が街の全店舗数に占める割合も高い。そして、下北沢は自動車が通り抜けられるような道路が中心部に実質的にはないに等しいので、人々はあたかもテーマパークや遊園地の中にいるように自動車を気にせずぶらぶら歩きができる。食べ歩きにはもってこいの環境を有している。さらに、この下北沢カレーフェスティバルはITの技術をふんだんに使っており、それによって、カレーの食べ歩きがより楽しめるような工夫が為されている。
これは、I LOVE下北沢というプロジェクトを運営していたのが、株式会社パイプドビッツというIT企業であったためであり、「I LOVE下北沢」というアプリを活用して、フェスティバル中に参加店のスタンプ集めをしたり、利用シーンに合わせた店を探したり、またグーグルマップで参加店を探すことができる。しかも、このような他の地域アプリと比較しても、断然、お洒落感において優れており、その使い勝手の良さと併せて、ITによるまちづくりの可能性を大きく広げることに成功した。
この下北沢カレーフェスティバルは、2016年の場合は下北沢の商店会の一つである下北沢東会とI LOVE下北沢が中心となった「下北沢カレーフェスティバル2016実行委員会」が主催者となった。下北沢商店連合会にも協力してもらい、実際のカレー屋との参加交渉はI LOVE下北沢が行っている。株式会社パイプドビッツの社員であった西山氏は、2017年3月に設立されたパイプドHDグループの連結子会社となる新会社「株式会社アイラブ」の社長となって、下北沢カレーフェスティバルの運営を始めとして、地域密着型Web サイト・アプリ「I LOVE 下北沢」の提供等を行っている。
キーワード:
イベント,コミュニティ・デザイン
下北沢カレーフェスティバル の基本情報:
- 国/地域:日本
- 州/県:東京都
- 市町村:世田谷区
- 事業主体:I Love 下北沢
- 事業主体の分類:その他
- デザイナー、プランナー:岩井ゆうき
- 開業年:2012年
ロケーション:
都市の鍼治療としてのポイント:
下北沢は小田急線が2013年に地下化して以来、線路跡地や駅前のターミナル工事などが延々と続けられている。また、補助54号線という幅26メートルにも及ぶ道路のための土地収用も行われているために、店舗は歯抜けになっており、街中の魅力が大きく損なわれている。そのような状況にあるからだろうか、下北沢駅の乗降客数はピーク時に比べて15%ほど減ったそうだ。
そのような厳しい逆風の中、下北沢はソフトの魅力で街に人を呼び込もうと考え、数々のイベントを実施している。「下北沢音楽祭」、「納涼盆踊り大会」、「下北沢一番街阿波踊り」、「シモキタハロウィン」、「シモキタクエスト」、「下北沢映画祭」、「しもきた天狗祭り」、「下北沢ビートルズ・フェス」、「あおぞらマルシェ」、「コロッケ・フェスティバル」、「いか祭り」、「下北沢大学」、「下北沢演劇祭」、「下北将棋名人戦」、「しもきた天狗まつり」などである。これらの多彩なイベント群が、下北沢の街の魅力を形成している。その中でも、シモキタを象徴しているようなイベントが、下北沢カレーフェスティバルである。
まず、その始めたきっかけがいい。思いつきで仲間内でやってみたら楽しかったので、街レベルでやってしまおうという、「街を自らが楽しもう」という街の人の意識。さらには、それにIT技術を活用しようという、新しいものに挑戦する創造性。そして、そのような企画に乗っかる店舗群の腰の軽さ。このカレーフェスティバルに参加している店舗数は149軒であるが、これは下北沢にあるカレー店の数よりも多い。つまり、カレー屋ではない店もこのカレーフェスティバルに参加して、臨時のカレーを提供している。この柔軟性が楽しい。一方で、個人的には特別に美味しいと思う店は参加していなかったりする。そのような頑固な店があるのも、またちょっと下北沢の個性であるとも感じる。多様であり、個性的であり、柔軟であり、頑固である、という下北沢のアンヴィバレントな特徴がこのフェスティバルを通じて見えてくる。
また、何よりこのフェスティバルを他の類似事例と一線を画させているのは、「I LOVE 下北沢」という地域アプリである。これによって、スタンプラリーのイベントなどの魅力が大幅に向上している。個人的にこのようなアプリを他の自治体で推奨したことがあるが、組織内でアプリに関してのアレルギーのようなものがあり、導入を見送られた経験がある。そのような組織と比べると、下北沢のチャレンジ精神というのはなかなかのものだと思う。イベントの企画も下北沢らしい素晴らしいものであると思うが、それをここまで成功に導いたのは、若者達に広く普及しているアプリを上手く活用したという手法にもあると思う。
【取材協力】
株式会社アイラブ代表取締役社長 西山友則氏
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