125 カルチャーナイト (アイスランド)
ストーリー:
レイキャビクのカルチャーナイトはレイキャビクに市場を開く権利が与えられた8月18日(レイキャビク市民は、この日をレイキャビクの誕生日として捉えている)を記念して、18日がある週の土曜日に開催される。2017年は8月19日に開催された。レイキャビク市議会の発案で1996年から始まり、今では10万人の集客に成功している(アイスランド全体の人口は31万人で、レイキャビク大都市圏(Capital Region)の人口は20万人)。現在ではアイスランド国内でも最も人気のあるイベントとなっている。
レイキャビクの都心部がそのイベントの舞台となり、都心部の各地で同時多発的に様々な「文化」関連のイベントが行われる。「文化」という括りで捉えられるものであれば、その展示内容はそれほど問われていないが、基本的に美術館やコンサートは皆、無料であるだけでなく、この日はバスまで無料で乗車できる。このような大盤振る舞いのイベントにすることができる背景として、その主催者が市役所で、基本、市民で運営されていることが挙げられる。そのスローガンは「come on in」(どうぞお入り下さい)というもので、これはアイスランド人のホスピタリティを表現しようとしたコピーである。レイキャビクのカルチャーナイトは、また、レイキャビクの文化施設(美術館、劇場等)の年度初めの時期でもある。
この日のレイキャビクは、まず午前中の市民マラソンから始まる。このマラソンは正式にはカルチャーナイトのイベントではないが、多くの市民を都心部に集める素晴らしいイベントである。マラソンはフルマラソン、ハーフマラソン、10キロマラソン、遊びのマラソン、子供マラソンと5つのコースが提供される。
そして、13時頃からコンサート・ホール「ハーパ」でのアイスランド・シンフォニー・オーケストラ、オペラ、ビッグ・バンドなどが上演をし、都心部のミニ劇場で演劇の上演が開始される。引き続いて、市民参加のカラオケ・ショーやクラブ・パーティーが広場や公園で開催され、20時から、このイベントのクライマックスである屋外コンサートが、アーナホール公園にて上演される。そして、コンサートが終了した23時から花火大会が開催され、カルチャーナイトは終了する。
また、このようなイベントだけでなく、道路もキャンバスとして市民に提供される。この日は都心部のイベント開催地区においては自動車の流入は禁止されており、道路が子供達のチョークでのいたずら書きのために提供されたり、また、道路沿いに地元住民の描いた絵が設置されたり、さらには坂道にウォータースライドを敷いて子供達に滑らせるようなエンタテインメントも提供されている。
キーワード:
都心再生, イベント
カルチャーナイト の基本情報:
- 国/地域:アイスランド
- 州/県:Capital Region県
- 市町村:レイキャビク市
- 事業主体:Visit Reykjavik (レイキャビク市)
- 事業主体の分類:自治体
- デザイナー、プランナー:レイキャビク市議会
- 開業年:1996年
ロケーション:
都市の鍼治療としてのポイント:
アイスランドの首都レイキャビクは人口12万人。日本のスケールで捉えれば地方の小都市である。しかし、夏の観光シーズンにレイキャビクは日本の人口100万都市をも凌ぐような賑わいをみせる。特に、レイキャビク最大の夏のイベント、カルチャーナイトはレイキャビクの都心部を舞台に、市民マラソン、野外コンサート、花火大会といった様々なイベントが一日に集中的に詰め込まれて行われる。短い北国の夏を思い切って楽しむといった貪欲さのようなものが、このイベントを魅力的にしているようにも感じられる。
文化は都市においてつくられる。そして、アイスランドには10万人以上の都市はレイキャビクしかない。その都市文化を盛大に祝うことは、レイキャビクという都市を祝すだけでなく、アイスランドという国家を祝することでもある。そして、そのためにも「文化」を主人公としたイベントを、アイスランドにおいては絶対的な都市であるレイキャビク、しかも、その中心部において実施することは理に適っている。そして、イベント開催中は、完全に自動車を遮断し、しかもお金もかからないようにして、都市・文化・人を祝祭するような時空間をつくりあげている。
このイベントに参加していると、都市においていかに文化が大切であることかが理解できると同時に、文化の創造においても都市という器、システムが重要であることが理解できる。そして、そのためにも最高の文化を提供しようと工夫をしているところが、大変、好ましい。例えば、この野外コンサートはアマチュア・バンドが出演している訳ではなく、しっかりとしたプロ(例えばSvala)のミュージシャンが出演しているのだ。それを、誰でも無料に入れる公共空間であるアーナホール公園で開催されていることは、何かそれだけでうきうきさせられる。このイベントは、多くの市民が参加し、お金をかけずに楽しむといった、都市への愛着、そして所属意識を高めるような素晴らしいイベントである。さらに、このイベントを目当てにして多くの観光客が世界中から訪れている。都市のプロモーション企画としても秀逸な事例であると捉えられる。
類似事例:
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323 バイロイトのリヒャルト・ワグナーを活用したまちづくり
・ 瀬戸内国際芸術祭、直島等(香川県)
・ ドクメンタ、カッセル(ドイツ)
・ ヴェネチア・ビエンナーレ、ヴェネチア(イタリア)
・ 中之条ビエンナーレ、中之条町(群馬県)
・ 大地の芸術祭の里、十日町市(新潟県)