330 ドレーブリュッケン広場(ドイツ連邦共和国)

330 ドレーブリュッケン広場

330 ドレーブリュッケン広場
330 ドレーブリュッケン広場
330 ドレーブリュッケン広場

330 ドレーブリュッケン広場
330 ドレーブリュッケン広場
330 ドレーブリュッケン広場

ストーリー:

 ハンザ同盟の盟主として栄華を誇った「ハンザの女王」と称されるリューベックの旧市街地は1987年に世界遺産として登録された。その旧市街地全域が対象である。第二次世界大戦で一部破壊されたりしたが、15世紀頃の街並みを今に伝えている。旧市街地はトラヴェ川とトラヴェ運河に囲まれた島であり、ウォーターフロントに囲まれている。旧市街地の再生事業がある程度進捗した後、リューベック市はウォーターフロント空間のアメニティ改善に取り組むことにした。そしてリューベック市は旧市街地の東側半分のウォーターフロント地区を対象に、そのオープン・スペースの計画的アイディアを検討し、その具体化プロジェクトを国際都市デザイン・コンペ「リューベック旧市街地の西側の縁の再開発」で募集した。その結果、イギリス(グラスゴー)のTGPランドスケープ・アーキテクツが一等となり、そのデザイン案が採用された。
 それによって最初に事業化が図られたのがホルステン橋の南側の一帯地区「アン・ダー・オーバートラーヴェ」であり、2003年から2007年にかけて工事が行われた。これは、旧市街地側のウォーターフロントを水面にアクセスできるようにテラスを設置するというものであった。自動車交通の減速化、静音化が図られ、野外レストランが開業した。このプロジェクトは市民に極めて肯定的に受け入れられ、経済的にも市のプラスとなり、さらにオープン・スペースの景観は大いに改善された。このプロジェクトの成功は、他の部分でもウォーターフロントのアメニティを改善する動きを後押しし、ホルステン橋の北側の部分の改修事業も手が付けられた。
 ドレーブリュッケン広場のリ・デザインはその改修事業の一つとして位置づけられ、前述した「リューベック旧市街地の西端再開発」プロジェクトのフェーズ2に相当する。フェーズ2では、この広場の整備事業とウンタートラーヴェ通りのリノベーション事業とが含まれている。全体的なデザイン・コンセプトは、先行して実施されたフェーズ1のオーバートラーヴェ地区のリ・デザインのコンセプト「もっと人々に空間を!」を継承している。特にドレーブリュッケン広場に関しては、親水性を高め、人々がウォーターフロント空間にアクセスし、それを楽しめることを目的としている。
 広場の面積は3,767平方メートルである。そのうち2,016平方メートルを舗装石が占めている。そこに7つのベンチ、6つのリクライニングしたベンチ、7つのゴミ箱、20台用の自転車ラック、3つの電灯が設置された。そして二つのトイレ(一つはバリア・フリーで乳児の着替え等もできる)、キオスクが入る建物が道路側に設けられた。
 この広場は、人々が港の雰囲気の中、ウォーターフロントを散歩したり、滞在したりすることを促すような効果を発揮することが期待されている。広場からウォーターフロントにかけては、ベンチとしても使える階段がつくられており、そこに人々は座って憩うことができる。この階段の段差は場所によって異なっており、その使用用途や使用者の身体差によって柔軟な使い方をすることを可能にしている。
 ドレーブリュッケン広場のリ・デザイン事業は2019年末に完了した。ドレーブリュッケン広場のリ・デザイン事業は560万ユーロほどかかったが、そのうち553万ユーロが連邦政府の都市開発基金によって賄われた。

キーワード:

アイデンティティ,ウォーターフロント,広場

ドレーブリュッケン広場の基本情報:

  • 国/地域:ドイツ連邦共和国
  • 州/県:シュレースヴィヒ・ホルスタイン州
  • 市町村:リューベック市
  • 事業主体:リューベック市
  • 事業主体の分類:自治体 
  • デザイナー、プランナー:TGP Landschaftsarchitekten
  • 開業年:2019年-2020年

ロケーション:

都市の鍼治療としてのポイント:

 リューベックはハンザ同盟の「女王」として、北ドイツに君臨してきた歴史都市である。バルト海に面し、その貿易で栄華を極めるが、ハンザ同盟の衰退と合わせて17世紀から弱体化していく。第二次世界大戦では空襲を受け、旧市街地の歴史的建築物もダメージを受ける。戦後、ドイツ連邦政府はドイツの歴史的旧市街地の再生を支援する制度を設立するのだが、そこで対象として念頭に置かれたのがバンベルク(バイエルン州)、レーゲンスブルク(バイエルン州)、そしてリューベックであった。バンベルクとレーゲンスブルクは戦災をほとんど受けてなく、歴史的建築物の保存状況が良好であったことを考えると、戦災を受けたリューベックがこれらの二都市と同じで捉えられたということは、いかにドイツという国にとってリューベックが重要な位置づけを有しているかが推察できる。
 リューベックが1960年代に戦後の復興開発を進めていくうえで重要視したのは、自動車交通をいかに円滑に処理するかであり、その結果、運河沿いのウェオーターフロントを豊かな公共空間として整備するといった考えは後ろに追いやられた。しかし、自動車から公共交通(バス)、歩行者、自転車へと旧市街地における交通モードの優先順位が変化したこと、旧市街地の再生事業がある程度、目処がついたこともあり、リューベック市は旧市街地を取り囲むウォーターフロントの空間アメニティを改善し、歩行者に優しい都市づくりを進めていくことにした。それは、旧市街地とそれ以外の市街地との境であるウォーターフロントのアメニティを高めることで、それらの接続性を強化することも期待された。
 ドレーブリュッケン広場のリ・デザインは、まさにそのような政策の中に位置づけられ、旧市街地の西岸を新たに公共空間としてリデザインする事業であり、旧市街地とウォーターフロントを再び結びつけ、それらの関係性を豊かなものにすることを具体化させることを意図した。
 ドレーブリュッケン広場はウォーターフロントへと階段状のベンチが設置されているのだが、それはあたかもウォーターフロントを舞台とした劇場の観覧席のようである。そして、このベンチの足下は微妙な角度で傾いており、その結果、様々な身長の人が自分に適切な高さの座る場所を見つけることを可能としている。これらのベンチは120センチ×60センチの床張り板が張られているため、その座り心地も快適である。人々の使い勝手のよさを優先したデザインは、この空間のアメニティを極めて良質なものとしている。
 この階段状のベンチに座りながら、キオスクで売っているフィッシュ・サンドイッチを食べ、運河の水の流れを感じ、さらに旧市街地にそそり立つ聖ヤコブ教会を望めば、「ハンザの女王」リューベックが積み重ねてきた時間を感じることができるだろう。それは、なかなかの体験であるが、この広場がなければ、ゆっくりとそれを体感することは難しかったかもしれない。そういう意味では、このドレーブリュッケン広場のリ・デザインは「アン・ダー・オーバートラーヴェ」に次いで、リューベックのウォーターフロントの魅力向上に多いに貢献したプロジェクトであると考えられる。

【参考資料】
Landezineのホームページ
https://landezine.com/the-drehbruckenplatz-by-tgp/
TGP Landschaftsarchitektenのホームページ
https://tgp-la.de/projekte/drehbrueckenplatz
リューベック市のホームページ
https://www.luebeck.de/de/stadtleben/tourismus/luebeck/sehenswuerdigkeiten/bruecken-von-luebeck/drehbruecke.html

類似事例:

012 パセオ・デル・リオ
021 大横川の桜並木
025 北浜テラス
116 ポルト・マラビーリャ
180 門司港レトロ
187 セーヌ河岸のパリ・プラージュ
188 ブルックリン・ブリッジ・パーク
237 長崎水辺の森公園
250 ノイハウン(Nyhavn)の歩行者道路化
335 マルセイユ旧港広場の天蓋(オンブリエール)
• アン・ダー・オーバートゥラーヴェのリ・デザイン、リューベック(ドイツ)
・ トムマッコール・ウォーターフロント・パーク、ポートランド(オレゴン州、アメリカ合衆国)