320 コペンヒル(デンマーク王国)

320 コペンヒル

320 コペンヒル
320 コペンヒル
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320 コペンヒル
320 コペンヒル
320 コペンヒル

ストーリー:

 コペンハーゲン近郊の5つの自治体で運営するゴミ処理施設、コペンハーゲン南東部にあるアマー・リソース・センターは老朽化が進んでおり、それを建て替える必要があった。そこで、その建て替えのための設計コンペを2011年に行った。優勝したのは、コペンハーゲンの建築家ビャルケ・インゲルス率いるBIG事務所の案であった。提案されたアイデアは、高さ85メートルの丘のような巨大なごみ焼却発電所を建て、その屋上をスキー場にするという奇抜なものであった。そして、その建物の形状から、そこはコペンヒル(コペンハーゲンの丘)と呼ばれるようになる。建築の過程ではいろいろと課題が出てきたが、それらを一つ一つ解決させ、2019年10月に開業する。建築費用は約5億ユーロである。
 新しいゴミ処理施設は、コペンハーゲン市が2025年までにカーボンニュートラルを実現させるためのプロジェクトとして位置づけられており、廃棄物処理時に生じる熱を用いて発電などに利用できるようにしている。その結果、年間3万世帯分の電力と7万2,000世帯分の暖房用温水を提供できている。それに加え、市民のレジャー施設としての役割、そしてランドマークとしての役割をも担っているというのが、この施設のユニークなところである。その最上階はちょっとした展望広場のようになっており、カフェも併設されている。そこからはゴミ処理施設の屋根をゲレンデとしてスキーで滑降することができる。コペンハーゲンはほとんどが平地であるため、そこからはコペンハーゲンの街とエーレ海峡の素晴らしい展望を得ることができる。また、その脇には歩道が整備されており、ちょっとしたハイキング気分に浸ることができる。建物外壁には4つの難易度が異なるボルダリングのためのクライミングウォールも設けられているが、これは世界で最も標高差があるようだ。ゴミ処理発電施設という迷惑施設に、人々が訪れたくなるような魅力をこれでもか、とてんこ盛りに入れ込んだかのようである。
 コペンヒルはアマー東(Amager Øst)区の北端に位置しているが、ここは工場地区であった。しかし、西に隣接しているアマーブロ地区でジェントリフィケーションが進み、人口密度も市内で最も高いような状況になり、コペンヒル周辺も都心部への近接性といった立地面からは住宅需要が生じつつあった。しかし、ゴミ処理施設という迷惑施設のそばに住んでもいい、という人は滅多にいない。このような先入観をコペンヒルは大きく転換させた。ゴミ処理施設ではあっても、お洒落なレジャー機能があり、また外観も洗練された建物である。結果、コペンヒルの周辺に新築されたマンションは早々と完売したそうである。住宅不足が深刻な問題となっているコペンハーゲンであるということを差し引いても、この結果は驚きである。

キーワード:

ごみ処理施設,ランドマーク,ごみ発電,スキー場

コペンヒルの基本情報:

  • 国/地域:デンマーク王国
  • 州/県:デンマーク首都地域
  • 市町村:コペンハーゲン市
  • 事業主体:コペンハーゲン市
  • 事業主体の分類:自治体 
  • デザイナー、プランナー:BIG(ビャルケ・インゲルス・グループ)
  • 開業年:2019

ロケーション:

都市の鍼治療としてのポイント:

 コペンヒルの特筆すべき点は、ゴミ処理発電施設という迷惑施設を人々が受け入れる施設へと転換してしまったことである。都市のマイナス資源をプラス資源にしてしまった。レルネル氏が述べていた「問題は解決である」(A problem is a solution)をまさに地で行ったプロジェクトである。
 デンマークは最高標高が173メートルというペチャンコのような国土の国だ。当然、アルパイン・スキーができるスキー場は両手に数えるしかない。コペンヒルの高さ85メートル、全長約400メートル、幅60メートルというスロープは、日本のスキー場の規模と比較すれば、あまりにも小さいが、実はデンマーク全国にある12のスキー場では標高差は1番目、距離も3番目に長いのである。そういう意味で、日本人からすると大したことがないスキー・ゲレンデでもデンマーク人にとっては貴重である。夏は、グラス・スキーをすることができ、スキーというあまり馴染みのないスポーツをする機会をコペンヒルは提供しているのである。それだけで、スキーに関心のある人はここに来る価値があるのだ。コペンヒルの公式ホームページでも、「これまでコペンハーゲンでは出来なかったスポーツをする機会を提供している」と発信している。コペンヒルにはレンタル・スキーができるサービスも隣接していて、誰でもちょっとスキーを試せるようになっている。ちなみに一日券は150デンマーク・クローネなので、日本円だと3,000円ちょっとである。
 ただ、このコンセプトが提示された時は、ゴミ処理施設の屋根のスキー場などつくってもスキーをする人が果たしているのか、と疑問を呈した人も少なくなかったそうだ。それは当然、出てくるような疑問であろう。スキーをする人がほとんどいないところにスキー場をつくっても、と思うのは最もである。しかし、私はこの話を聞いた時、1960年代にコペンハーゲンの都心の一部から自動車を追いだした時の一部の人々の反応を思い出した。当時、都心の一部を歩行者専用空間にして、イタリアのようなオープン・カフェをつくったとしても、北欧の寒い気候で、そんなお店を利用する人はいないだろう、と批判されたりした。しかし、この歩行者空間であるストロイエが実現すると、夏はもちろんのこと冬でも歩行者が溢れ、カフェで人々はコーヒーを飲み始めたのである。そして、同じことは、このコペンヒルでも起きた。ほとんどのコペンハーゲン市民は、コペンヒルの頂上まで行き(これは無料である)、そのうちの一部はスキーにも挑戦した。
 このようなプラスの価値を生み出すことができれば、ゴミ処理施設についてまわる臭いというマイナスの要素も受け入れられるかもしれない(実際、コペンヒルの周囲はゴミ処理施設特有の臭いが漂っている)。そして、このような付加価値をつけたゴミ処理施設にしたために、住宅地としての価値を低減させることを極力、回避できている。それは、コペンハーゲンの都心部に近接したこの地区にとって、そして住宅不足が都市問題となっている同市にとっては朗報となっている。なぜなら、ゴミ処理施設の周辺に住宅を建設しても、そこに住んでもいいと考える人がいるからだ。
 こんなゴミ処理施設があれば、ゴミ処理への考え方も大きく変わるであろう。そして、ここにはしっかりと環境教育を学ぶような施設も併設されている。ゴミ処理施設の概念を大きく変えることになった凄い施設である。

【取材協力】
ニールセン北村氏(ジャーナリスト)

【参考資料】
コペンヒルの公式ホームページ
https://www.copenhill.dk/en/
Techture Magのホームページ
https://mag.tecture.jp/culture/20221213-79492/

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