263 関宿の景観保全(日本)

263 関宿の景観保全

263 関宿の景観保全
263 関宿の景観保全
263 関宿の景観保全

263 関宿の景観保全
263 関宿の景観保全
263 関宿の景観保全

ストーリー:

 亀山市の関宿は三重県の鈴鹿山脈の山裾に位置する。古代からの交通の要衝として位置づけられ、江戸時代にはここに旧東海道江戸日本橋から47番目の宿場が置かれる。関宿は東では伊勢別街道、西側で大和街道が分岐するという交通結節点であり、旅人も多く、江戸時代には大いに賑わったと言われる。
 旧中山道と異なり、旧東海道の宿場の大半は戦後、近代化の波に呑まれ、その姿が失われた。しかし、東海道線や名神高速道路のルートから外れた関宿は江戸時代の宿場町を彷彿させる町並みが残された。そのような中、1980年に地元住民を中心とした「町並み保存会」が結成され、関町(現在は亀山市に合併)はそれを受けて「関町伝統的建造物群保存地区保存条例」を同年に制定する。そして、1981年には「関町関宿伝統的建造物群保存地区保存計画」を策定し、1982年には保存地区を都市計画決定する。これらの動きに文化庁も動き、1984年には同地区を「重要伝統的建造物群保存地区」に選定する。
 重伝建の保存地区は旧東海道の東の追分から西の追分に至る街道に沿った約1800メートルの町並みと、その北側に接する社寺を含む合計25ヘクタールの地区になる。地区内にある建物のうち、江戸・明治につくられたものが200軒あまりと約半数を占め、また第二次世界大戦前のもので約7割を占める。建物の保存状況も良く、宿場の歴史的風致を今にしっかりと伝えられている。
 関宿では「生活をしながらの保存」をテーマとしており、伝建地区で暮らしを続けていくための工夫や配慮を積み重ねてきており、無理をしないで、町並みを守るというスタンスだ。地域に根付いてきた文化もしっかりと継承し、景観を単なる建物のファサードの美しさではなく、生活の表層として顕れるものとして捉えている。
 伝建地区においては、亀山市伝統的建造物群保存地区保存条例第四条により、現状を変更する行為を行う場合は、あらかじめ市長および教育委員会に申請を行い、認可を受ける必要がある。現状変更行為許可の申請を必要とする行為は次のようなものだ。
・建築物等の新築、増築、改築、移転または除却
・建築物等の修繕、模様替えまたは色彩の変更でその外観を変更すること
・宅地の造成その他土地の形質の変更
・木竹の伐採
・土石類の採取
・水面の埋めたてまたは干拓
 亀山市は、建築物等および伝統的建造物群と一体をなす環境を保存するため、特に必要と認められる物件の管理、修理、修景または復旧についてその経費の一部を補助している。
 関宿はさらに伝建地区だけでなく、その周辺の旧市街地において関宿周辺景観形成推進地区を指定している。この地区はほとんどが低層の個人住宅であるが、細街路が多く、沿道には瓦葺き勾配屋根の木造住宅が多く立地していて、伝建地区の歴史的町並みとの調和性が高い。しかし、近年では色彩的に従来の町並みと不協和音を響かせるような色彩を用いた建築物の立地がみられるようになっている。そのため、これらの地区においても、関宿の歴史的町並みに配慮した高さ、形態意匠、色彩といった景観的配慮を求めるようにしている。加えて、関宿の周辺に立つ建築物・工作物等については、地形条件等を考慮したうえで、関宿からの眺めに配慮した配置、高さとして、東海道沿道の歴史的町並みの連続性を阻害しない景観形成を図るようにしている。
 関宿は、1986年には「日本の道100選」に選ばれている。

キーワード:

アイデンティティ,道路,伝統的建造物群保存地区,景観

関宿の景観保全の基本情報:

  • 国/地域:日本
  • 州/県:三重県
  • 市町村:亀山市
  • 事業主体:東海道関宿まちなみ保存会
  • 事業主体の分類:自治体 市民団体
  • デザイナー、プランナー:N/A
  • 開業年:1984年(重要伝統的建造物群保存地区選定)

ロケーション:

都市の鍼治療としてのポイント:

 関宿は東海道五十三次の宿場町で唯一、国の「重要伝統的建造物群保存地区」に選定されている。つまり、関宿が今のように伝建地区に選定されるだけの状態になかったら、我々は江戸時代の東海道をイメージすることができない。これだけで、その貴重さが分かる。
 関宿は1890年に関西鉄道が開通したことで、宿場町としての位置づけが失われ、東海道新幹線、東海道本線、名神高速道路とがすべて関ヶ原のルートを通ることになり、東海道としての役割もなくなったことで近代化の波にも吞まれず、第二次世界大戦での被災も受けなかったことで、奇跡的に昔の姿を残すことができた。ただ、そのような奇跡も、それを奇跡だと住民が認識しなければ早晩、失われてしまう。幸い、関町(今の亀山市)は町長がそのようなことを理解し、また住民の有志もそれを保存しようと動き始めたこともあって、伝建地区への選定にこぎ着ける。
 他の伝建地区のように、関宿でも当初は町並み保存に関して賛成派と反対派がいて議論が重ねられた。しかし、伝建地区に指定され、その価値が広く世論が支持していることが理解されると、反対派の声は小さくなっていった。
 関宿で感心することは、その景観をそこでの住民の生活の表層として捉えていることである。関宿の町並みがしっかりと保存されているのは、それを大切に思い、次世代へと継承していこうという意思が景観にも表れているからではないだろうか。それに加えて、単に関宿の伝建地区だけでなく、それを取り囲む周辺の地区にも調和を求めるような政策を打ち出していることも評価できる。関宿は、元東海道宿だけでなく町の背景となる鈴鹿山脈の山々が見事な景観をつくりだしている。この雄大な山の裾野にあるという立地環境が、町並みだけでなく、その周辺を含めて見事なランドスケープを形成している。それは、この宿場町が隆盛を誇った江戸時代にタイムスリップしたかのような錯覚を覚えさせるのと同時に、関宿はこの亀山市関町地区において、それが単なるテーマパーク的な観光地ではなく、しっかりと腰を据えた近代生活を送りつつも、維持できる生活の場であることを意識させる。そのような姿勢がある限り、関宿は50年後も100年後も、多少の変更はあったとしても東海宿としてのアイデンティティを維持し、その美しい町並みを保存することができているのではないだろうか。

【参考資料】
亀山市『亀山市景観計画』(2011)
亀山市ホームページ(閲覧2022.04.28)
https://www.city.kameyama.mie.jp/docs/2014112303445/denken_tetuduki.html
文化庁ホームページ(閲覧2022.04.28)
https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkazai/shokai/hozonchiku/pdf/r1392257_049.pdf
飛田裕彰「関宿重要伝統的建造物群保存地区における修理修景事業に対する行政支援」『都市計画学会論文集』No.45-3 (2010)
関宿町並み
https://matinamigurashi.com/hozon-20210127

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