048 グリーン・テンプレート(オランダ王国)
ストーリー:
ティルブルグ市は、生物多様性を意識した都市計画を実践しており、生物多様性の政策を2010年に策定した最初のオランダの自治体でもある。同市は北ブラバンド州に属し、人口20万人ほどである。ティルブルグ市はそもそも自然保全に熱心な自治体であった。しかし、単なる自然保全ではなく「生物多様性」という観点を採り入れたのは、「生物多様性」を有した自然が、より「質が高い」自然であるからだ。
ティルブルグ市における生物多様性の具体的な政策として、グリーン・テンプレート(緑の鋳型)が作成されている。これは、都市空間計画のガイドラインとしての役割を果たすべく、生態系の構造がどのように市域において分布されているかを示したものであり、同市の生物多様性プロジェクトの核となるものである。このプロジェクトが最優先する目的は、環境保全そして生物多様性保全をすることで、ティルブルグ市の自然遺産を保全し、さらに発展させることである。自然地域を増やすことで生息環境の質を改善させ、さらにそれらの環境のネットワーク化を図ることで、同市は生物多様性の劣化を防ごうとしているのである。
グリーン・テンプレート・プロジェクトのもとで、幾つかの市域内における豊かな生物多様性を有する地区が整備されつつある。同プロジェクトを実践することで、ティルベルグ市は新たな住宅開発、オフィス開発に起因するいかなる自然の喪失をも補填することを自ら課している。すなわち、喪失した自然に相当するものを復元させるために、土地を確保し、そこに新たな生息地を創出するようにしているのだ。
ティルベルグ市はこのグリーン・テンプレートに指定された地区の生物多様性のモニタリングをするために、エコロジカル・マップを開発している。エコロジカル・マップはデータベース、そしてGISとして機能することになる。これは、市役所の職員だけでなく市民も閲覧することができ、同市の生物多様性の状況を理解し、都市計画をするうえでの一つの重要な判断材料となっている。
キーワード:
生物多様性,環境保全
グリーン・テンプレートの基本情報:
- 国/地域:オランダ王国
- 州/県:北ブラバンド州
- 市町村:ティルブルグ
- 事業主体:ティルブルグ市
- 事業主体の分類:自治体
- デザイナー、プランナー:不明
- 開業年:2010
ロケーション:
都市の鍼治療としてのポイント:
ティルブルグの生物多様性に関してのアイデアが凝集されているのが、ドゥンゲ川渓谷のプロジェクトである。ドゥンゲ川渓谷は、ティルブルグの西側にある広大なニュータウン(計画人口45000人)が開発された地域で、開発するにあたってドゥンゲ川に沿った150メートルの幅の緑地を自然保全地区として指定したものである。このドゥンゲ川はこのニュータウンの北部と南部にある豊かな生物多様性を結ぶ回廊として位置づけられ、その結果、これらの地域に生息する絶滅種を含む動植物の移動が確保できている。このドゥンゲ川では、河川へのアクセスは網が敷かれていて規制されている。これは、自然環境の保全を優先しているためだが、一方でベンチが置かれたり、生態系の解説が記された説明板が設置されたりするなど、それを鑑賞し、学習する機会は提供されている。生物多様性を意識した都市開発というものの一つの事例としては、極めて優れた事例である。
ティルブルグのグリーン・テンプレートは地球環境問題が深刻化への一途を辿っていく中、生物多様性を都市においても分断せずに、しっかりとその生態系のネットワークを維持させていくことは、「都市の世紀」である21世紀における環境問題を克服していくための一つの指針を提供すると考えられる。それは、都市構造や都市システムといった都市の仕組み事態をドラスティックに変革させる可能性を包含している考え方である。それは都市と環境とのあり方に新たな視点を提供する、優れた「都市の鍼治療」的な考えである。
類似事例:
030 エコロニアの環境共生まちづくり
210 ウエスト・ポンド
230 港北ニュータウンのグリーン・マトリックス
243 コウノトリと共生するまちづくり
・小雀公園、横浜市(神奈川県)
・徳島園地「水郷トンボ公園」、潮来市(茨城県)
・梅小路公園「いのちの森」、京都市(京都府)
・新宿中央公園「ビオトープ」、新宿区(東京都)
・ベイリッジ・トレイル、バークレイ市等(カリフォルニア州、アメリカ合衆国)
・デービス・グリーンウェイ、デービス市(カリフォルニア州、アメリカ合衆国)
・ボルダーのグリーンベルト、ボルダー市(コロラド州、アメリカ合衆国)