101 観塘プロムナード (香港特別行政区)
ストーリー:
観塘プロムナードは香港の観塘地区に新たにつくられたウォーターフロント公園である。2010 年に第一フェーズ、2015年に第二フェーズが完成した。それはまた、啓徳空港跡地を含む320ヘクタールの巨大地区の再開発計画(Kowloon East: 九龍東)の最初のオープン・スペースのプロジェクトとしても位置づけられた。その長さは1キロメートル弱であり、観塘(ホイブン)バイパス道路の高架下も含まれる。
九龍東地区は啓徳空港が使用されていた時は、香港の工業の中心地区であった。空港が市の西側に移転した後は、ここは香港の新しい経済拠点として位置づけられ、そのための開発計画が策定されている。観塘プロムナードは、この開発計画の中では10のパイロット・プロジェクトの一つとして位置づけられており、同開発計画の開発コンセプトで掲げられている歩行者優先の人間に優しい空間形成の一翼を担っている。
この地区は、以前は再生紙処理場として使われていた。第1フェーズでは、フェリー埠頭寄り(南側)の200メートルがプロムナードのための用地として2009年に接収された。これが公園とされたのは2010年である。その後、ウォーターフロントと市街地の障害物となっていた下水道局の施設を地下化するなどして、プロムナードのアクセスを改善することを試みた。
さらに、その北側も九龍倉庫に当たるまでの750メートル部分がプロムナードとして整備され、2015年5月に一般にも公開された。
この長さ約950メートル、幅約44メートルといった極めて細長い回廊状の公園(面積は4.1ヘクタール)は次のような機能を有している。公開広場、子供のための遊び場、健康器具、ランドマークとなる塔、芝生、広場、トイレ、展望パビリオン等。この公園は24時間公開されている。
現在でも観塘(ホイブン)バイパス道路が走っており、視覚的にはこれがウォーターフロントと市街地との障害とはなっているが、高架下の透過性を改善すること、物理的なアクセスを確保することで、それまでは市街地と隔離されていたウォーターフロントが身近なものとなっている。
キーワード:
ウォーターフロント,歩行空間
観塘プロムナード の基本情報:
- 国/地域:香港特別行政区
- 州/県:香港特別行政区
- 市町村:観塘区
- 事業主体:香港市、Kai Tak Office
- 事業主体の分類:自治体
- デザイナー、プランナー:香港市
- 開業年:2010年(第一フェーズ)、2015年(第二フェーズ)
ロケーション:
都市の鍼治療としてのポイント:
このプロムナードから展望する啓徳空港跡地、そしてその背景にある香港島の高層ビルの景観は素晴らしいものがある。ノーマン・フォスター&パートナーズが設計したクルーズ・ターミナル、そしてその背景に広がるビクトリア湾と香港島の高層ビル群。このような景観は、ここが再生紙処理場として使われていた時にはまったく人々はアクセスができなかった。それらを移転する交渉は容易なものではなかったが、香港市民、そしてここを訪れる観光客にとっては、ここが公共空間として利活用することができたことの便益はすこぶる大きなものがあったのではないだろうか。
ジョギングをしている人、ギターの演奏をしている人、運動器具でシェイプアップしている人、散策をしている人、パーゴラの下で読書をしている人などを見るにつけ、優れた公共空間を整備することで都市生活はかくも豊かになるのだな、ということを改めて確認する。
香港の九龍東地区は、世界でも最も人口密度の高い都市空間の一つである。そのような都市空間においては、いかにアメニティを確保させるかが、そのサステイナブル性を維持させていくうえでは極めて重要である。ビクトリア湾という広大なるヴォイド空間をうまく活かすためにも、そのような空間へのアクセスを確保させること、そして、その空間を自由に活用できるよう公共性を担保させることは都市戦略上も重要であろう。興味深いのは、この空間を設計、計画したのはすべて香港市の職員であるということだ。最近では、日本ではすぐ公共空間の設計を外注してしまい、場合によってはその選考作業までをも外注する傾向があるが、香港市では良質な公共空間を確保し、整備するうえで公務員が最後まで責任を有している。これは、香港市のように土地の希少価値が極めて高いところでは、都市計画の失敗が許されないという事情もあるかもしれないが、その事実に驚く筆者に、取材をした香港市職員が当然でしょう、と述べたことがより驚きを増した。
日本人も多くのことが学べる鍼治療事例ではないかと考えられる。
【取材協力】Tracy Wong、香港市役所
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・ トム・マッコール・ウォーターフロント・パーク、ポートランド(オレゴン州、アメリカ合衆国)