078 インナー・ハーバー (アメリカ合衆国)
ストーリー:
インナー・ハーバーは、アメリカ東海岸の大都市ボルティモアの都心再開発プロジェクトであり、1980年代にアメリカだけでなく世界中の大都市で行われたウォーターフロントの再開発プロジェクトの嚆矢ともなった成功事例である。プロジェクトの計画自体は1950年代後半から検討され、市も土地の買収などは完遂していた。しかし、計画はなかなか進まず、フェスティバル・マーケットの父と呼ばれるジェイムス・ラウスがボストンで手がけたファニュエル・ホールのような商業施設を加えた新しいインナー・ハーバーの再生プランを提案することによって、事業の採算に見通しが立ち、計画が実行に向けて動き出すことになったのである。
再生されたインナー・ハーバーは、洒落たプロムナードで動線が確保され、舗装やベンチ、街灯などのストリート・ファーニチャーも凝ったデザインが施された。水族館、フェスティバル・マーケット、帆船、新しい駐車場などの整備は、多くの周辺地域の人々を集客することに成功し、隣接してコンベンション・センターやホテルが立地していることから、観光客もこのインナー・ハーバーに訪れるようになった。また、近隣の就業者も昼休みやアフター・ファイブにここをよく利用する。
商業床面積は二つのパビリオンを合わせて142000平方フィートで、ちょっと前のデータであるが、49のレストラン、20の食料品小売業、36のスペシャリティ・ショップ、2つの花屋、35のプッシュカート・ベンダーが営業している。
1980年のオープン時に180万人を集客し、床面積当たりの売り上げはボストンのファニュエル・ホールを凌いだ。また、ボルティモア市は不動産税として300万ドルの収入が入り、2500の新しい雇用を創出した。この雇用のうち3分の1は、それ以前は失業者だったものによって埋められた。
アメリカ建築家協会は、インナー・ハーバーを「アメリカの大スケールでの都市デザイン、都市再開発の最も成功した事例」と評している。現在でも開発は進展しており、年間で650万人の観光客が訪れている。
キーワード:
ウォーターフロント,フェスティバル・マーケット,アイデンティティ,集客施設
インナー・ハーバー の基本情報:
- 国/地域:アメリカ合衆国
- 州/県:メリーランド州
- 市町村:ボルティモア市
- 事業主体:ボルティモア市、ラウス・カンパニー等
- 事業主体の分類:自治体
- デザイナー、プランナー:ジェイムス・ラウス
- 開業年:1980年
ロケーション:
都市の鍼治療としてのポイント:
フェスティバル・マーケットの父といえば、ボストンのファニュエル・ホールや、このボルティモアのインナー・ハーバーを手がけたジェイムス・ラウスであることは異論を待たないであろう。数多くあるラウスのフェスティバル・マーケットプレイスであるが、おそらくこのインナー・ハーバーが一番成功した事例であろう。ニューヨークの都市プランナーであるアレキサンダー・ガービン氏も彼の著書でそのように指摘している。これは、ラウスがこの周辺に長く住んでいた地元住民であったこととも関係があるだろう。その場所の特性をよく理解した上での計画であったのである。
また、素晴らしい水族館や、オフィス街であるチャールス・センターなどがシナジー効果を発揮させて、この地区の魅力を高めるよう協調するような都市デザインがされたことも成功した要因であろう。
使用されなくなったブラウンフィールドであるウォーターフロントを見事に再生させ、ボルティモア市は税収が増え、市民は魅力的な消費空間が提供され、さらに失業者には雇用が創出されるなど、誰もがメリットを生じることになった。都市の鍼治療というには、大胆で大規模な再開発プロジェクトではあるが、その精神性では通じる点があると考え、ここに紹介させてもらう。
類似事例:
027 ギラデリ・スクエア
058 チャーチストリート・マーケットプレイス
059 サード・ストリート・プロムナード
101 観塘プロムナード
142 グランヴィル・アイランド
192 ファニュエル・ホール・マーケットプレイス
250 ノイハウン(Nyhavn)の歩行者道路化
325 バターシー・パワーハウス・ステーション
・ クリチバ・ショッピング・エスタソン、クリチバ(パラナ州、ブラジル)
・ ユニオン・ステーション、セント・ルイス(ミズーリ州、アメリカ合衆国)
・ アンダーグランド、アトランタ(ジョージア州、アメリカ合衆国)
・ フレモント・ストリート・エクスペリエンス、ラスベガス(ネバダ州、アメリカ合衆国)
・ リバーセンター、サンアントニオ(テキサス州、アメリカ合衆国)
・ 博多キャナル・シティ、福岡市(福岡)
・ ホートンプラザ、サンディエゴ(カリフォルニア州、アメリカ合衆国)