081 フンデルトヴァッサー・ハウス (オーストリア共和国)

081 フンデルトヴァッサー・ハウス

081 フンデルトヴァッサー・ハウス
081 フンデルトヴァッサー・ハウス
081 フンデルトヴァッサー・ハウス

081 フンデルトヴァッサー・ハウス
081 フンデルトヴァッサー・ハウス
081 フンデルトヴァッサー・ハウス

ストーリー:

 フンデルトヴァッサー氏は、1928年にウィーンに生まれ、本来画家であったが、幼い頃から建築にあこがれていた。25歳の時に作品を発表し、29歳になると農場を買いエコロジーに係わる仕事を始める。1958年にはシンポジウムで「建築の合理主義に対するカビ宣言」を発表し、この中で直線を使った近代建築を批判する。これがきっかけとなり、建築に人間性を取り戻したいというフンデルトヴァッサーの挑戦が始まった。
 フンデルトヴァッサー氏の様々な提案が最初に具体化して形になったのが、ウィーン市営住宅「フンデルトヴァッサー・ハウス」である。ウィーンの下町、レーベル通りとの交差点にこの52戸の市営住宅は建設された。建築家ジョセフ・クラヴィーナとピーター・ペリカンの協力を仰ぎ、1978年から83年にかけて設計が行われ、1986年に完成した。直線を拒否し、波打つような壁面は赤、黄、白の色彩で彩られ、窓の大きさも不規則である。ベランダや屋上に250本に及ぶ樹木が植えられ、富と幸福の豊かさを象徴するという玉葱形のタワーがのぞいている。それはアントニ・ガウディ、シュヴァルの理想宮、ワッツ・タワーなどと同じ文脈で捉えられる建築であろう。
 現在、それは52戸の住宅、4つの店舗、16の私有そして3つの共有のバルコニーとから構成される。
 フンデルトヴァッサー氏の友人であった当時のウィーン市長であったグラーツ氏がこのプロジェクトを具体化させるために尽力した。建設当時は、ウィーンの法的基準に合わない部分があることなどから、この作品は痛烈に批判された。この住宅は計画当初は、排泄物の再利用などの「エコロジー住宅」を意識したが、結果的にはそれらは実現されず、部屋の配置、建物の基本構造も従来の住宅とは根本的に異なってはいない。しかし、集合住宅として、ゆとりをもった設計や人と緑との接近などが実現され、今後の集合住宅のあり方、または人間と自然との共存について学ぶべき点は多くある。
 そして、何よりフンデルトヴァッサーのユニークな意匠は、この都市の素場らしいランドマークとなっている。公共施設というと画一的、つまらない、凡庸、予定調和などのイメージがつきまとうかもしれない。しかし、本来であれば、このフンデルトヴァッサー・ハウスのような民間ではチャレンジすることに尻込みするような建築を公共施設としてつくることで、大きく都市の様相さえも変えることができる。住宅、建築、環境とは何かを考えさせてくれる興味の尽きない公共施設であると同時に、建築の力を感じさせてくれる公共施設である。

キーワード:

フンデルトヴァッサー,環境共生住宅,公共住宅

フンデルトヴァッサー・ハウス の基本情報:

  • 国/地域:オーストリア共和国
  • 州/県:ウィーン州
  • 市町村:ウィーン市
  • 事業主体:ウィーン市
  • 事業主体の分類:自治体 
  • デザイナー、プランナー:フリーデンスライヒ・フンデルトヴァッサー、ジョセフ・クラヴィーナ、ピーター・ペリカン、レオポルト・グラーツ
  • 開業年:1986年

ロケーション:

都市の鍼治療としてのポイント:

 ウィーンの街並みを、フンデルトヴァッサー・ハウスを探して歩く。それは、普通の中層の集合住宅が建ち並ぶ街並みに忽然と姿を現す。その異質ともいえる建物が、なぜかウィーンの住宅街に調和をもって共存している。
 建築の内部には入れないが、そのコートハウスの空間に一歩足を踏み入れると、地面が平らでないことや、曲線で空間が定義づけられていることに、違和感を覚える。しかし、それはどこか懐かしさを覚える違和感だ。エコロジー的な試みとしては、先駆的であったこともあり、必ずしも実りは多くはなかったが、屋上緑地など、緑と共生するようなつくりはエコロジー住宅のイメージを実現させてはいる。
 そして、何より、フンデルトヴァッサーのデザインは楽しく、その周辺、そして都市をわくわくさせる力を有している。直線を嫌う、その絵画的なデザインは、自然の造形からのインスピレーションにもとづき、そのカラフルな色彩はあたかも建築に生命を吹き込んでいるかのごとく映る。最初の建築作品をつくるまでには随分と時間がかかったが、このフンデルトヴァッサー・ハウスが完成し、実物を観た人達は、その素晴らしさに納得し、以後、オーストリアは勿論のこと、ドイツにて多数、フンデルトヴァッサーの作品が建築されることになる。日本も大阪市環境局舞州工場が彼のデザインによる。都市を楽しくさせてくれる、まさに『都市の鍼治療』のような建築をつくりあげることができた希有のアーティストであった。

類似事例:

055 ビルバオ・グッゲンハイム美術館
085 マグデブルクの「緑の砦」
109 オスカー・ニーマイヤー博物館
111 ハッピー・リッツィ・ハウス
203 デンバー美術館(ハミルトン・ビルディング)
254 グエル公園
286 ポティの壁画
303 トンデムン・デザインプラザ(東大門デザインプラザ)
305 遷都1000年記念モザイク壁画
323 バイロイトのリヒャルト・ワグナーを活用したまちづくり
・ 大阪市環境局舞州工場、大阪市(大阪府)
・ ヴァルトシュピラーレ集合住宅、ダルムシュタット(ドイツ)
・ クンストハウス・ウィーン、ウィーン(オーストリア)
・ クッヒルバウアー塔、アーベンスベルク(ドイツ)
・ ロナルド・マクドナルド・ハウス病院、エッセン(ドイツ)