347 アモス・レックス美術館の広場と隣接したラシパァツィ・ビルのリノベーション(フィンランド共和国)

347 アモス・レックス美術館の広場と隣接したラシパァツィ・ビルのリノベーション

347 アモス・レックス美術館の広場と隣接したラシパァツィ・ビルのリノベーション
347 アモス・レックス美術館の広場と隣接したラシパァツィ・ビルのリノベーション
347 アモス・レックス美術館の広場と隣接したラシパァツィ・ビルのリノベーション

347 アモス・レックス美術館の広場と隣接したラシパァツィ・ビルのリノベーション
347 アモス・レックス美術館の広場と隣接したラシパァツィ・ビルのリノベーション
347 アモス・レックス美術館の広場と隣接したラシパァツィ・ビルのリノベーション

ストーリー:

 ラシパァツィはヘルシンキのカンピ地区にある1936年に建てられた商業ビルである。それは数年後に開催されるヘルシンキ・オリンピックを意識して、仮設建築としてつくられたが、建築家は質の高い、また創造的な設計をした。そこのテナントとして入っていた映画館はヘルシンキ市で最大規模のものであり、また700人を収容できるレストランもあり、そのビルは多くの市民に親しまれていた。そして、このビルに隣接した広場は長らくヘルシンキのバス・ターミナルとして使われていた。
 しかし、戦後はパッチワーク的な修繕しかなされず、建設当時の魅力は徐々に失われていった。そして1970年代以降は、それを取り壊す案がたびたび出されるようになる。しかし、住民はその建物の再建案が発表されるたびに、それを壊すことに反対し、フィンランド博物館協会もその保全を主張した。隣接したバス・ターミナルの再整備の計画も、ラシパァツィの建物の再建計画が宙ぶらりんであったために実行に移されなかった。
 1980年代になると、ビルを倒壊するのではなく、そのオリジナルな個性を保全しつつ再活用するという方向へと転換にした。そして、1985年になると灰色で古びてみえていた壁は白のモルタルで置き換えられた。さらに1995年から1998年にかけてはオリジナルの特徴を再生することを意識したリノベーションが行われた。特に、戦後のオリジナルな要素を消すように施された改修をオリジナルに戻すようにした。そして、1998年に同ビルは文化・メディアセンターとして位置づけられることになった。その運営はヘルシンキ市の第三セクターがすることになった。
 しかし、改修後にテナントとして入ったテレビ局などはその後、移動してしまい、メディアセンターとして位置づけることがなかなか難しいことが判明した。一方、スウェーデン語を母語とするフィンランド人の文化団体であるフリエンニゲン・コンスツァムフンデ(Föreningen Konstsamfundet)は、アモス・アンダーソン美術館の別館(アモス・レックス)を探していた。そこで、同美術館とヘルシンキ市はヘルシンキ芝生広場不動産会社(Fastighets Ab Glaspalatset i Helsingfors)をつくり、ラシパァツィの建物はヘルシンキ市から同社へ譲渡された。2013年にフィンランドで民間では最大規模を誇るアモス・アンダーソン美術館の別館がつくられる計画が発表された。この計画は2014年5月に全会一致でヘルシンキ市議会にて承認された。ヘルシンキ芝生広場不動産会社はこの建物のオリジナル・キャラクターを維持しつつ、隣接した広場の地下にアモス・レックスのための6,000㎡の空間を新たにつくるという大規模な改修をした。ラシパラツィの建物と合わせると、美術館の総面積は13,000m²を超える。その設計はフィンランドの建築事務所JKMMアーキテクトが行った。この工事は2015年から2017年の期間に行われ、アモス・レックスは2018年8月に開館した。建設費は5,000万ユーロであった。
 またビルに隣接してあったバス・ターミナルであった場所は2005年までは使用されていたが、それは近くにあるカンピ広場の再整備においてその広場の地下に移動し、それ以降は使われていなかった。そこを美術館のためのリノベーションとともに、新たに起伏があり採光のための突起物が出ているようなユニークな空間デザインが施された広場へと再生させた。

キーワード:

美術館,集客施設,公共広場

アモス・レックス美術館の広場と隣接したラシパァツィ・ビルのリノベーションの基本情報:

  • 国/地域:フィンランド共和国
  • 州/県:ウーシーマ県
  • 市町村:ヘルシンキ市
  • 事業主体:Föreningen Konstsamfundet
  • 事業主体の分類:
  • デザイナー、プランナー:JKMM Architects, Pia Ilonen and Minna Lukander
  • 開業年:2018

ロケーション:

都市の鍼治療としてのポイント:

 アモス・レックス美術館はヘルシンキ中央駅すぐそばに立地する美術館である。2018年に開業した直後から高い集客力を誇っており、ほぼ年間25万人が同美術館を訪れている。この美術館の極めて特徴的なところは、その展示場は地下にあるのだが、その地上部分が公共広場になっていることである。そして、その広場のユニークな意匠はそこに単なるオープン・スペース以上の価値をもたらしている。
 この設計をしたJKMMアーキテクトはヘルシンキ市役所の都市計画部門の職員と協働して、このオープン・スペースがしっかりと公共広場的な役割を果たすと同時に、ラシパァツィのユニークな建物のファサードを楽しめると同時に、新たな美術館の屋根であることをデザイン的に上手く活かせないかと考えた。そして、屋根を極めて彫刻的なデザインのものとして採光のための突起物を設け、その起伏ある形状は、この広場空間を変化あるものとしている。それはガウディの建築を彷彿させ、人々を惹き付ける磁力のようなものを発している。
 また、美術館内にいると、この広場に設けられた採光のための天窓からは地上の建物のファサードを見ることができる。また、そこから入る自然光が地上と地下6メートルの空間を繋げているように感じさせる。そのため地下空間にいても圧迫感のようなものをあまり感じない。
 アモス・レックス美術館は、それがつくられたことで多くの波及効果をもたらした。まず、その地上部において、それまでバス・ターミナルとして使われていた空間がユニークな意匠の広場として再生された。さらに、美術館の入り口にあたるラシパァツィ・ビルが、そのユニークなオリジナル・キャラクターを尊重したリノベーションを施すことができた。このアール・デコ的な建物は取り壊し案が出るたびにヘルシンキ市民が反対をしてきた。そして、その結果、建物の外観を維持した改修が行われたのだが、現在、その特徴的な建物はカンピ地区の景観形成において極めて重要な役割を果たしていると考えられる。ヘルシンキは欧州の都市の中では歴史が浅く、都市アイデンティティも弱い。そのような都市において、しっかりと100年弱の歴史がある建物を維持できたことの意義は大きいと考えられる。そして、バス・ターミナルというアスファルトのせわしなかった空間に、人がゆったりと時間を過ごせるような場所がつくられたことの意義も大きい。
 
【参考資料】
Tomas Lauri (2021): Amos Rex Art Museum
「Amos Rex Museum」JKMM Architects 公式サイト(https://jkmm.fi/work/amos-rex-museum-interior/

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