270 自由が丘のサンセットエリアのまちづくり協定(日本)

270 自由が丘のサンセットエリアのまちづくり協定

270 自由が丘のサンセットエリアのまちづくり協定
270 自由が丘のサンセットエリアのまちづくり協定
270 自由が丘のサンセットエリアのまちづくり協定

270 自由が丘のサンセットエリアのまちづくり協定
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270 自由が丘のサンセットエリアのまちづくり協定

ストーリー:

 自由が丘駅の北にあるサンセットエリアとよばれる一画。ここは、お洒落な敷石の歩行者道路があり、楽しげに買い物や散歩に楽しむ人達で溢れている。ビルも一階の部分が通り抜けでき、この地区のそぞろ歩きの楽しみに貢献している。街路樹はないが、ちょっとした空間に鉢植えが置かれており、目を楽しませてくれる。自由が丘がお洒落な街として人気があることも頷ける。
 さて、しかし、この洗練された空間は昔から自由が丘にあった訳ではない。いや、1970年代に「オカジュー」と呼ばれていた頃から、自由が丘はどちらかというとお洒落なイメージは有していた。しかし、そのイメージを元に、それをさらに強化したからこそ、現在の洒脱なヒューマン・スケールの空間が実現されているのだ。
 自由が丘のサンセットエリアにあるビル・オーナー達が現状に危機感を覚え始めたのは、二子玉川の開発が進展し、集客力を高めつつあったからである。その危機意識をきっかけに2006年頃から、勉強会が開催されるようになった。まちづくりとは何か、という大きなテーマのもと、勉強会は二ヶ月に一回のペースで行われた。勉強会では「売れるまちづくり」「パブリックスペースの活かし方」「自由が丘らしさを捉える」「自由が丘をこうしたい」「現況を読み解く」「新たなまちづくりへの姿勢」「まちづくりのポイントと手法」といった講演がなされた。そして最後の8回目には、自由が丘サンセットエリアの将来の方向性について議論がされ「継承するべきもの」として「周遊する楽しさ」、「お洒落なイメージ」、「ごみの少なさ」が確認され、「改善すべきもの」として「放置自転車」、「歩行者空間の確保」、「電線・電柱」、「銀杏の石畳の歩きにくい舗装」が挙げられた。さらに今後「つくっていくべきもの」として「(現状ではない)緑地帯」、「ベンチ」、「(まったくない)パブリックスペース」が挙げられた。
 これらをまとめた将来像のイメージがつくられ、それを具体化するための方策が検討された。そして、この方策がまとめられたのが「自由が丘サンセットエリアまちづくり協定」である。これがつくられたのは2010年で、ほぼ同時期に同地区の地区計画も策定される。
 同協定では「用途」、「細街路・女神通り」、「パブリックスペース」、「ストアフロント」、「緑」、「屋外広告物」、「その他」に関しての協定事項が整理されている。
 「用途」では、「女性や家族連れを主な客層とした商業空間」とするために「落ち着いた品のある雰囲気をつくり、クリーンでお洒落なイメージのまちづくり」を推進するために宿泊施設、ガソリンスタンド、カラオケボックス、風俗営業店舗等は制限をかけている。「細街路・女神通り」では、歩行環境を確保するために「歩行者を最優先し、安全で快適な歩行環境を確保」することとし、「連続した歩行空間」をつくることを推奨している。さらに、細街路への駐車を禁止し、車やオートバイの進入を抑制することに言及している。さらに「ねこみち」という、建物の裏側、建物内を人が通れるようにつなぎ、アクセスを可能にすることで、路面店を増やす細街路を創出することを提案している。「パブリックスペース」では、様々なパブリックライフを生み出すパブリックスペースの創出に努めようと提案しており、歩行者が快適に楽しく地区内を回遊できるよう歩行者が留まることができ、また沿道に楽しさや活気を演出する「のきさき広場」というコンセプトを積極的に設けることを推奨している。「ストアフロント」では、魅力的なストアフロントを創出することや、バリアフリー化を進めること、さらに賑わいが連続するよう自家用車庫や倉庫などを可能な限り敷地の奥に設置するよう工夫することが提案されている。「緑」では、街路樹を設置するスペースがない中、地区内を緑化するために沿道建物低層部の軒に設けられた緑化空間で、緑豊かな印象を演出する「のき線緑化」を提唱している。「屋外広告物」では、街のスケールに合わない巨大な屋上看板の設置を禁止している。
 これらの協定のもと、地区内で建築等の計画を行う場合は、サンセットエリア会ヘの届け出が必要となっている。また、届け出の前に事前相談も必要となっている。そして、サンセットエリアまちづくり委員会との協議を経て、計画が不適切な場合には計画の変更等の申し入れをし、そうでなければ行政手続きへ進むというプロセスを取ることになる。
一方の地区計画においては7つのルールがつくられ、まちづくり協定と連動して望ましいまちづくりの具体化を進めようとしていることが理解できる。これら7つのルールとは「建築物の用途の制限」、「建築物の敷地面積の最低限度」、「建築物の容積率の最高限度」、「壁面の位置の制限」、「壁面後退区域における工作物の設置の制限」、「建築物の高さの最高限度」、「建築物の形態または色彩その他意匠の制限」である。まちづくり協定と掲げられた協定事項を、実際ルールとしてつくりあげていくよう、まさにクルマの両輪のように位置づけられている。
 このように、望ましいまちづくりの方針を明示し、また、それから大きく逸脱しないようにルールを制定し、また開発のマネジメントをするという丁寧なアプローチをとることで、現在の魅力的な自由が丘の空間は形成されているのである。

キーワード:

ねこみち, オープン・スペース

自由が丘のサンセットエリアのまちづくり協定の基本情報:

  • 国/地域:日本
  • 州/県:東京都
  • 市町村:目黒区
  • 事業主体:自由が丘サンセットエリア会
  • 事業主体の分類:民間
  • デザイナー、プランナー:株式会社UG都市建築
  • 開業年:2004年

ロケーション:

都市の鍼治療としてのポイント:

 以前、「都市の鍼治療 No.79(自由が丘の九品仏川緑道のベンチ)」でも書かせていただいたことと重複するが、中学時代に自由が丘のそばに住んでおり、今もそのそばに住んでいるので、その街の変遷は比較的、個人的体験として知っている。自由が丘というと、お洒落な街というイメージがあり、日本を代表するデベロッパーである東急電鉄の東横線、大井町線の二線の乗換駅ということで、企業の力によって華やかな街づくりが展開されているような印象を持っている人も少なくないと思われる。しかし、それは、地元の人達がボトム・アップ的に地味な努力を絶えず積み重ねて、つくられた街である。それは街の持続的な魅力は、企業ではなく個店・個人がつくるということを私に確信させてくれた街でもある。「都市の鍼治療 No.79(自由が丘の九品仏川緑道のベンチ)」は、まさにそのような地元の人達が街をよくしようとした試みであったが、自由が丘のサンセットエリアの歩行者に優しいヒューマン・スケールの空間づくりも地元の人達が取り組んだものであった。
 自由が丘のサンセットエリアは、自由が丘の北側にある商店街の一角である。補助46号線(すずかけ通り)を南の境界とし、東横線と並行に走る区道H98号線(女神通り)と区道2幹27号線(自由学園通り)とを東西の境界とし、北側は熊野神社の参道のある通りとで囲まれている上に長い台形のような形状の地区である。その総面積は約2.4ヘクタールである。その東西の中心をサンセットアレイ、南北の中心を補助127号線(カトレア通り)が通る。
 地区計画では、この部分をさらに「商業地区」(サンセットアレイの南側の6ブロック)、「近隣商業地区A」(学園通り沿いの一角)、「近隣商業地区B」(サンセットアレイの北側の4ブロック)に分けている。
 この事業で感心するのは、ボトムアップ的な地元の動きと行政の動きとが見事に連動していることである。地元で作成したサンセットエリアまちづくり協定の策定とほぼ同時に、2010年には「自由が丘サンセットエリア地区計画」が都市計画決定される。「地区計画」とは都市計画法に基づき、地区独自の「建替ルール」が定められる制度である。それに続いて、2011年には「自由が丘サンセットエリア地区計画の区域内における建築物の制限に関する条例」が施行された。これによって、地区計画区域内において建築物の新築・改築・増築・用途の変更などの行為を行う場合には届け出が必要となった。
 この地区計画で設定された目標は「細街路に建ち並ぶ店舗の自由で個性的な演出の工夫が活きる魅力的な街並みの創造」である。これは、現在の魅力的な商業関係を将来に発展的に継承しつつも、土地の合理的な利用を促進させ、安全で快適な歩行環境を確保し、さらには、歩行者が楽しめ憩えるような魅力的な空間の創造を図る、というものである。
 サンセットエリアのビル・オーナーの人達の思いがしっかりと行政的なルールに落とし込まれていることが分かる。そのために、通常の地区計画には入れないような「高さの最高限度」といった細かいものまで入っている。この事業に深く関わった都市デザイナーの後藤良子氏によれば、この地区計画は東京都に協議にいった際に担当から「私が知る中ではこれまでで一番、革新的な地区計画ですね」と言われたそうだ。
 そして、街づくりがうまく行っている背景として理解すべきこととしては、まちづくり協定を結ぶための合意形成を丁寧にやったことである。起動時から、みなが同じ価値観を共有していた訳ではない。「勉強会」という場を数回設けることで、議論を通じた合意形成を図っていき、ビジョンを共有していった。これは、街づくりを継続的に進ませていくうえで重要なプロセスであったと考えられる。
 自由が丘サンセットエリアのまちづくりは、企業が仕掛けるまちづくりと地元が仕掛けるまちづくりの違いを明瞭に表している。企業が仕掛けるまちづくりは、それが完成した時点では素晴らしいものがある。しかし、それを維持し、その価値を継続させるための努力や思いが、時間が経つとどうしても希薄化してしまう。それは、企業はものをつくるまでのエネルギーと力を結集することに長けているが(それによって利益を確保できるため)、経済効率がよくない維持・管理にはどうしてもエネルギーが不足してしまうからだ。そして、異動や定年などもあり、街への思いはどうしても地元の住民とは大きな格差が出てきてしまう。それに対して、地元はそのまちから逃げることはできないし、極めて自分事となる。そのため、必然的にその思いは強く、またビジョンは長期的なものとなる。
 自由が丘サンセットエリアのまちづくりを調べ、改めて、地元がつくるまちづくりの優れた点を確認することができた。

【取材協力】
株式会社URBANWORKS 後藤良子氏(2022年6月)

【参考資料】
目黒区のホームページ

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