208 クリチバの植物園(ブラジル連邦共和国)
ストーリー:
ブラジル・パラナ州の州都クリチバの都心からほど近いところにゴミ捨て場となっていた保健省の土地があった。環境都市宣言をした当時、市長であったレルネル氏は、このゴミ捨て場をどうにかしたいと常々、頭を悩ませていた。一方、クリチバは人口100万人を越えた大都市になったにも関わらず、植物園を有していなかった。そこで、この土地を植物園として整備しようと考えた。保健省の土地に隣接していたのは、フランス人の大地主が有する土地であった。そこで、この大地主から土地を寄付してもらい、この二つの土地に植物園をつくることになった。
植物園を設計するうえでは、このフランス人の大地主に敬意を表するためにベルサイユ宮殿のような幾何学状の刈り込みをして、そこに花壇を入れた。強烈な色を持つサルビアとマリゴールドを花壇に植えた。また、温室は地元の建築家アブラーオ・アサードによって設計された。この温室は一目瞭然、ロンドンのクリスタル・パレスを模したことが分かる。この温室は植物園の入り口からみることができ、まさにこの植物園の象徴的なランドマークとなっている。いや、現在では、クリチバ市のランドマークとしても非常に市民に親しまれており、結婚式の記念写真の人気撮影スポットとなっている。
温室で展示される植物は、クリチバ周辺の自生の植物とした。また、レルネルの要望に応えるために、夜に内部からライトアップすることになる。植物は24時間、光が当たるとあまりよくないという意見をレルネルは「それは本来的な問題ではない」と却下する。この温室は、温室としては、ほとんど意味はないものである。規模も小さい。そのような問題に対応するために、ランドスケープを担当した中村ひとし氏は後ろに苗をつくる半円形の温室をもつくっておいた。温室で展示している植物が弱ってくると、この後ろに設置された温室に避難できるようにしていた。植物園は1991年につくられ、現在ではクリチバの有数の観光施設にまでなっている。
キーワード:
ランドスケープ, 植物園
クリチバの植物園の基本情報:
- 国/地域:ブラジル連邦共和国
- 州/県:パラナ州
- 市町村:クリチバ市
- 事業主体:クリチバ市
- 事業主体の分類:自治体
- デザイナー、プランナー:Abrão Assad(建築)、中村ひとし(ランドスケープ)
- 開業年:1991
ロケーション:
都市の鍼治療としてのポイント:
「都市の鍼治療」のコンセプトを提唱したジャイメ・レルネル氏。彼が市長をしていたクリチバ市は、この「都市の鍼治療」的なアイデアが凝縮されたプロジェクトに溢れている。私はレルネル氏とは、彼がパラナ州知事を務めていた1997年に初めて会うが、それから20回以上はいろいろとお話をさせていただく機会をいただいた。その彼が、口癖のように言うのは「問題は解決である(Problem is a solution)」ということであった。
この「問題は解決である」という仮設が正しいことを証明するような事例もクリチバには溢れているが、それらの中でもこの植物園は特筆するのに値する。「ごみ捨て場」という人々から忌諱されていたような土地が、クリチバを代表するランドマーク、そして観光地にメタモルフォーゼしてしまったのだから、それは「クリチバ・マジック」、「レルネル・マジック」(個人的には日系ブラジル人の中村ひとし氏の秀逸したランドスケープ・デザインを評価しているので「ひとし・マジック」と思っている)と刮目し、感嘆するようなプロジェクトであった。
この植物園がつくられた保健省の土地の周辺はファベラ(スラム街)であった。ここを植物園とするには、治安の問題とかを懸案する職員などもいたのだが、案の定、植物園ができてすぐ、破壊行為に遭う。しかし、その犯人を捕まえた当時、クリチバ市の環境局長であった中村ひとし氏は、「仕事がなくて面白くなく、破壊行為をするぐらいなら植物園で仕事をしないか。仕事なら教えてやる」と申し出て、彼らを雇うことにする。これによって、破壊行為は当然なくなるのだが、このエピソードは良質なる「都市の鍼治療」的なアプローチは単に空間的な問題だけでなく、社会的な問題をも解決させるということを理解させる。
類似事例:
019 針金オペラ座
057 オーガスタス・F・ホーキンス自然公園
105 エスプラナーデ公園
109 オスカー・ニーマイヤー博物館
110 バリグイ公園
238 タングア公園
290 チングイ公園(Parque Tingui)
環境市民大学、クリチバ(ブラジル)
パサウナ公園、クリチバ(ブラジル)
ラビレット公園、パリ(フランス)
キュー・ガーデン、ロンドン(イングランド)
オペラ・ハウス、シドニー(オーストラリア)