109 オスカー・ニーマイヤー博物館 (ブラジル連邦共和国)
ストーリー:
オスカー・ニーマイヤー博物館は、クリチバの都心部北部に位置する。それは視覚芸術、建築、意匠に関する展示を行う博物館で2003年に開業した。この博物館は35000平方メートルという広大な敷地に建てられている。二つの建物から構成されるが、両方ともオスカー・ニーマイヤーの設計である。巨大な目玉のような建物は2002年に同氏が95歳の時に設計された。オスカー・ニーマイヤーらしい大胆なカーブと彫刻のような形状、白いコンクリートと黄色いタイル、そして空を反射させるガラスといったシンプルな建材によるこの建物は、完成と同時に植物園とともにクリチバ市のランドマークとなり、クリチバ市の重要な観光資源となっている。
ただし、ここにオスカー・ニーマイヤーの博物館をつくるというアイデアが出てきたのは、この目玉の建物に隣接して建っていたオスカー・ニーマイヤー設計の建物があったからである。それは巨大な長方形の建築物で、広大なピロティを有していた。高等教育機関の施設として1967年に設計されたのだが利用されず、その後、州政府の法務局と総務局などの部署が利用していた。
その当時、パラナ州には美術系の博物館がなかった。それの候補地を検討していく中で、この施設が候補に挙がり、クリチバでは唯一のオスカー・ニーマイヤー設計の建物であるということで、博物館のコンセプトもオスカー・ニーマイヤーとして、隣接して新たに強烈なランドマークとしての建物を設計してもらえるようオスカー・ニーマイヤー本人に依頼をした。オスカー・ニーマイヤーは快諾し、人々に強烈な印象をもたらす新しい目玉部分をも設計したのである。それによって、クリチバは美術系の博物館だけでなく、その都市を代表するランドマークも得ることができたのである。
キーワード:
街路, アイデンティティ, 歩行者優先, 自動車排除, ジャイメ・レルネル
オスカー・ニーマイヤー博物館 の基本情報:
- 国/地域:ブラジル連邦共和国
- 州/県:パラナ州
- 市町村:クリチバ
- 事業主体:パラナ州
- 事業主体の分類:自治体
- デザイナー、プランナー:オスカー・ニーマイヤー
- 開業年:1967年、増築2003年
ロケーション:
都市の鍼治療としてのポイント:
オスカー・ニーマイヤーというブラジルの英雄的な建築家と関係がある都市というとブラジリア、ベロ・オリゾンテやリオ・デジャネイロなどが浮かぶ。クリチバとニーマイヤーは馴染みが薄い。これはクリチバ市民もそのようなイメージを抱いていたそうである。しかし、ニーマイヤーが設計した建物はクリチバにも存在したのである。ただ、それがニーマイヤーの設計したものだということを知るものが少なかったのである。
新たな美術系の博物館をパラナ州につくろうと考えた時の州知事はジャイメ・レルネル氏であった。レルネル氏はこの忘れられたオスカー・ニーマイヤーの建造物も同時に再生したいと考えた。それは、レルネル氏のオスカー・ニーマイヤーへの思いやり、そして、土地が有するポテンシャルを見事に活かしたプロジェクトである。
そして、ニーマイヤーはこのレルネル氏の思いやりに対して、見事な意匠の建物を設計することで答えたのである。それは、つくられた瞬間にクリチバのランドマークになるものであった。クリチバはブラジルの中ではつまらない都市という有り難くない評価が為されている。そして、観光資源も少ない。そのような中、その都市の象徴となるランドマークを手っ取り早くつくる方法としては、強烈な印象を与えられる建築をつくることである。ビルバオのフランク・ゲーリーのグッゲンハイム博物館、ヴォルフスブルクのザハ・ハディドの科学博物館などは、まさにそのような都市戦略のもとでつくられた。
クリチバのオスカー・ニーマイヤー博物館も同じような戦略として捉えられなくもないが、ここは更地に新しくつくった訳ではない。人々から忘れ去られていたニーマイヤーの建築物をも新たに再生するという意義も有していたのである。そういう意味でも、多くの効果が得られた見事な「都市の鍼治療」の事例であると考えられる。
類似事例:
081 フンデルトヴァッサー・ハウス
085 マグデブルクの「緑の砦」
132 ダイナミック・アース
189 ポンピドー・センター
191 ブラジリアの大聖堂
203 デンバー美術館(ハミルトン・ビルディング)
208 クリチバの植物園
238 タングア公園
290 チングイ公園(Parque Tingui)
323 バイロイトのリヒャルト・ワグナーを活用したまちづくり
・ ノイヤー・ツォールホフ・ビルディング、デュッセルドルフ(ドイツ)
・ ニテロイ現代美術館、ニテロイ(ブラジル)
・ グッゲンハイム美術館、ニューヨーク(ニューヨーク州、アメリカ合衆国)
・ 科学博物館、ヴォルフスブルク(ドイツ)
・ サグラダ・ファミリア、バルセロナ(スペイン)
・ ユダヤ博物館、ベルリン(ドイツ)
・ デンバー美術館、デンバー(コロラド州、アメリカ合衆国)
・ オンタリオ美術館、オンタリオ(カナダ)
・ EPM博物館、シアトル(ワシントン州、アメリカ合衆国)