097 シュテルヴェルク60 (ドイツ連邦共和国)

097 シュテルヴェルク60

097 シュテルヴェルク60
097 シュテルヴェルク60
097 シュテルヴェルク60

097 シュテルヴェルク60
097 シュテルヴェルク60
097 シュテルヴェルク60

ストーリー:

 ドイツの自動車不要コミュニティの代表的な事例であるケルンの「シュテルヴェルク60」。1994年に企画が起ち上がり、2005年から開発が始まり、2006年に最初の住民が居住し、2010年の暮れに完成した450戸の自動車不要コミュニティである。100万都市ケルンの中央駅から2駅という好立地、鉄道やバスといった公共交通の利便性の高さもあって、人気のある住宅物件となっている。ニューヨークタイムズが驚きとともに絶賛した自動車不要コミュニティ「ファウバーン」を上回る、住民の80%が自動車を所有しない生活をしている。
 自動車不要コミュニティをつくる目的は、自動車が道路をはじめとした公共空間を占拠してしまい、生活空間を不快なものとしているので、せめて住まい周りは自動車を排除したいということと、そもそも自動車を所有していない人が多いのに、彼らも駐車場などの自動車関係のインフラの負担をさせられている状況を改善したいからである。
 現在、ケルン市街地に住んでいる半分くらいの世帯は自動車を所有していない。駐車場もない。そもそもケルンは人口密度が高く、土地がないので駐車場のスペースがない。すべての人が自動車を所有していたら都市が成立しない。
 しかし、ドイツでは賃貸であれば自動車を所有しなくても問題がないが、住宅を購入すると駐車場を設置しなくてはならないという法律がある。そのような状況を変えて、自動車を持てない人が得をするような住宅を供給したいとケルン市は考えた。少なくとも自動車を持たないことで損をしないような住宅プロジェクトを実現させたいと考えたのである。
 そして、このアイデアを実現させるために市民へのアンケート調査や交通調査を行った。これはケルン市が実施し、ヴェスト・ファーレン州が支援した。そこで、多くの市民が自動車不要というコンセプトに強い関心を持っていることや、ケルンの都心に流入している交通量は10年ほど前に比べると減少していることなどが分かった。徐々に政治家からの支援も受けいれられるようになった。
 次に、実際開発する候補地を決めなくてはならなくなった。まず、自動車不要コミュニティは個人ではなくコミュニティとして自動車と手を切ることで多くの効果が発現されることが期待できるので、戸数は300〜500は必要であると考えた。また、公共交通の利便性が高いことが必要であった。さらに既存の商業集積が周辺に存在しなくてはならない。4つの候補地を選定し、それから上記の条件から、このニッペス地区が決定された。これは、都心から近く、またライン川の西側にあったということが大きかった。ケルンの人達は、ライン川の西側の不動産を高く評価する傾向があるからだ。
 実際、開発をするうえでの問題は、この土地の所有者がドイツ鉄道であったことだ。ドイツ鉄道は、自動車不要といったコンセプトなどには全く関心を有していなかったので、なるべく土地の高度利用を図りたかった。そして、市の開発計画の数点を変更させたが、カーフリーというコンセプトは守ることに成功した。

キーワード:

自転車,マルチモーダル,自動車不要住宅

シュテルヴェルク60 の基本情報:

  • 国/地域:ドイツ連邦共和国
  • 州/県:ノルトライン・ヴェストファーレン州
  • 市町村:ケルン市
  • 事業主体:ケルン市
  • 事業主体の分類:自治体 
  • デザイナー、プランナー:BPD Immobilienentwicklung GmbH
  • 開業年:2010年

ロケーション:

都市の鍼治療としてのポイント:

 ドイツではこの5年ぐらいで、カーフリー住宅(オートフライ・ヴォーヌング)という新しいライフスタイルが注目されている。広く知られているのはフライブルクの郊外につくられたファウバーンであるが、ここシュテルヴェルク60の方が、コンセプト的には徹底した街づくりが為されている。
 日本の都市は、相当、自動車に依存しないで街づくりを進めてきたこともあり、このシュテルヴェルク60も日本的視点でみると、普通の集合住宅ではないかと思ってしまうが、これをつくるうえではケルン市、そしてノルトライン・ヴェストファーレン州は法制度まで変更するという大なたを振るって、その具体化を可能にしたのである。それだけ、自動車の依存度を低めたいというニーズが行政サイドにあり、また、そのような住宅街で生活をしたいという住民の需要があったのであろう。
 このシュテルヴェルク60で生活する人に取材をしたので、そこで得られた興味深い事柄を幾つか紹介したい。
 まず、住民はカーフリーの住環境は好きだが、自動車も好きであるということだ。すなわち、カーフリーとは自動車を住まいから見なくて済むということであって、自動車に乗らないということではないのだ。住民も必ずしも自動車嫌いが住んでいる訳ではなく、合理的なモビリティの考え方を有している人が多い。自動車の所有と不所有と関係なく、カーフリー環境は好まれているとはいえるであろう。住宅地としてのインナーデザインの優れているところが、何よりのセールスポイントであるということだ。
 とはいえ、自動車を所有したままでここに移り住んだ人の多くは、交通移動のパターンが変化している。自動車より、ここではむしろ自転車が重要となる。ここに住んでいると、自動車の必要性を考え直すきっかけになるようだ。
 全般的に、自動車不要というコンセプトに関しての住民の満足度は高い傾向にある。そして、他の住宅にみられるような破壊行為がないことなども特徴として挙げられる。コミュニティとして住民の所属意識が高まり、治安もよくなっている。
 自動車は便利である。しかし、いいことばかりではない。特に住宅環境に自動車が入ってくると、安全を脅かすし、歩行環境にとってはマイナスでしかない。4ヘクタールという規模ではあるが、自動車フリーゾーンをつくったということは、大きな社会実験でもあるし、その成果から鑑みると成功した事例なのではないかと考えられる。

類似事例:

232 ミュンスターの自転車プロムナード
・ ファウバーン、フライブルク(ドイツ)
・ ヴェスターパーク、アムステルダム(オランダ)
・ ヴェイセンブルク、ミュンスター(ドイツ)
・ ザーランドシュトラッセ・プロジェクト、ハンブルク(ドイツ)
・ リンカーン団地、ダルムシュタット(ドイツ)