015 ごみ買いプログラム(ブラジル連邦共和国)

015 ごみ買いプログラム

015 ごみ買いプログラム
015 ごみ買いプログラム
015 ごみ買いプログラム

015 ごみ買いプログラム
015 ごみ買いプログラム
015 ごみ買いプログラム

ストーリー:

 ブラジルの環境都市として知られるクリチバは、南半球は南回帰線上にある高原都市である。パラナ州の州都でもあり、その人口は180万人(大都市圏人口だと300万人強)である。
 クリチバは1989年にジャイメ・レルネル氏が三期目の市長として当選してから、「環境都市」を施策目標として掲げる。しかし、クリチバのファベラの環境状況は御多分に漏れず、悲惨な状態にあった。特にファベラは市のごみ回収車が入れるような道はなく、結果、ごみは回収されずに放っておかれた。そして、ごみの放置による伝染病の蔓延、河川へのごみ放棄による河川汚染などの問題が生じていた。
 そこで、環境局長である日系ブラジル人の中村ひとしは、どうにかしてごみを回収しなくてはいけない、と考えた。そして、ごみを回収することで、その報酬を与えるというアイデアを思いつく。ただし、報酬として金額を支払う訳にはいかない。市役所が持っていて価値のあるものとして、バス・チケットとごみを交換することにした。バス・チケットであれば市役所の判断で増刷することもできるし、配布することもできるからだ。
 そして、ファベラのリーダーと相談し、中村はこのリーダーに事業のアウトソーシングをするようにした。つまり、ゴミを集めさせるのもリーダー、その代わり報酬を配るのもリーダーというかたちでプログラムを進めるようにしたのである。すると、リーダーが信頼を集めていった。リーダーから報酬をもらっていると住民も思うようになる。そうするとリーダーを中心にまた住民達が集まりだす。このようにリーダーの機能をうまく利用していくことで1990年代には、78箇所くらいでごみ買いプロジェクトが実施されることになった。
 ごみ買いプログラムは非常に大きな成功を収めることになる。ごみが溢れていたファベラからは、ごみが一掃される。ごみがみつかったら、すぐ誰かが拾ってしまうのだから当然ではあるが、その結果、ファベラの人々もごみがないことはなかなか素晴らしいことであるということを理解するようになった。そうすると、さらにごみが拾われるようになる。素晴らしいプラスのサイクルが回転し始めたのである。

キーワード:

リサイクル,ジャイメ・レルネル,中村ひとし,ごみ問題,スラム,環境問題

ごみ買いプログラムの基本情報:

  • 国/地域:ブラジル連邦共和国
  • 州/県:パラナ州
  • 市町村:クリチバ市
  • 事業主体:クリチバ市
  • 事業主体の分類:自治体 
  • デザイナー、プランナー:中村ひとし(当時、クリチバ市環境局長)
  • 開業年:1989

ロケーション:

都市の鍼治療としてのポイント:

 クリチバはジャイメ・レルネルが市長として就任した1971年から、数々の斬新な都市政策・環境政策で世界から大きな注目を浴びることになるのだが、その中でも最も人々をその創造性でもって驚嘆させたものは「ごみ買いプログラム」であると思われる。この「ごみ買いプログラム」は、レルネルが3回目の市長に就任した時に行われた施策である。
 レルネル氏は自治体の環境局は、キャンペーンなどに精を出すのではなく、実際のごみ問題に先頭を切って取り組まないといけないと強く考えた。そして、局長の中村に先頭に立たせて、このファベラの難しい問題に取り組ませたのだが、中村が出したアイデアは、まさに一休さんの頓知のような創造性に溢れたアイデアであり、また多くの成果を得ることになる。この事業がうまく行くためには幾つか越えなくてはいけないハードルがあったが、その大きなものとして、これを実践させるためにファベラの住民達と腹を割って話し合わなくてはならなかったことが挙げられる。なにしろ、不法占拠をしているファベラの住民達にとって市役所は敵だ。誰もが尻込みをする中、中村は交渉に行くのだが、その時、中村はファベラのようなところを行政が管理しようとしてもほとんど無理であるから、ファベラのコミュニティが自治的な管理ができるように誘導することが必要であると考えた。そして、そのためのリーダーを的確に選び、彼にその管理を委ねなるようにしたのである。
 その創造性溢れるアイデアに関心がとらわれがちであるが、それを具体化するためには、組織や人を熟知した中村の戦略性が極めて重要な役割を果たしたのである。ここが、特に、この事例が「都市の鍼治療」として優れている点であると考えられる。
 クリチバのファベラは他のブラジルの都市に比べれば治安がはるかにいい。そのようになった大きな要因は、中村の創造性溢れる「ごみ買いプログラム」である。さらに付け加えれば、中村のファベラの住民達に対しての眼差しの暖かさであるとも考えられる。

類似事例:

002 オレンジ・グローブ・リサイクル・センター
028 緑との交換プログラム
1000 中村ひとし氏インタビュー
1003 ジャイメ・レルネル氏インタビュー
248 クリチバ市のユーカリ電信柱のリサイクル
・クリチバの「ごみとごみではないプログラム」、クリチバ(ブラジル)
・水俣市の「ごみ分別事業」、水俣市(熊本県)
・センター・フォア・オルターナティブ・テクノロジー(CAT)、マッキンレス(ウェールズ)