新しい仕組みに関する事例
(ドイツ連邦共和国)
ドイツのバーデン・ビュルテンブルク州にあるカールスルーエ市は路面電車(トラム)と都市鉄道という二つの異なるシステムを初めて共同運行させた自治体として知られる。このシステムのポイントは、郊外部では郊外鉄道のスピードという長所を活かし、都心部ではトラムの柔軟性という長所を活かすということである。共同運行が実施されたことで、乗客は中央駅で乗り換えずに市街地にそのまま入ることができるようになり、利便性が著しく向上した。
(デンマーク王国)
コペンハーゲンのアブサロン教会は、閉鎖されたのち実業家の夫婦に買い上げられ「大規模なリビングルーム」として生まれかわった。毎夕18時から開催される、廉価で質のよい食事が提供される夕食会には老若男女が集い、見知らぬ同士が関係性を構築させる機会を生んでいる。そこはすべての人が受け入れられる空間である。
(大韓民国)
ソウル市北部にある「北村」(Bukchon)の韓屋保存地区。市役所と住民が協働して守る家並みの魅力に惹かれて、今日も多くの観光客が訪れる。都市的な伝統的空間の保全をするうえで多くの示唆を与えてくれる素晴らしい事例である。
(日本)
「伝泊」は奄美大島、加計呂麻島、徳之島にある宿泊施設・複合施設。「伝統的・伝説的な建築と集落と文化」を次世代に伝えることを目的とし、奄美の建築家、山下保博氏によって計画された。空き家などの「負」の地域資産を再活用し、地域アイデンティティを掘り起こした創造的な事業として高く評価され、2020年ジャパン・ツーリズム・アワード(国土交通大臣賞、倫理賞、ダブル受賞)など数々の賞を受賞している。
(日本)
「さるぼぼコイン」は、岐阜県の飛騨市、高山市、白川村のみで利用できる電子地域通貨である。2023年4月30日時点でユーザー数は約29,300名、加盟店数は約1,930店、そして累計決済額は約82億円にまで達している。飛騨市では市民の4人に1人がユーザーであり、市役所では納税や行政手続き等の手数料を「さるぼぼコイン」で支払うことができる。
(日本)
大阪市城東区にある蒲生四丁目の一画は「がもよん」の名称で親しまれている。近年、地元不動産会社の斬新なアプローチによって、それまで老朽化して使われていなかった古民家が次々に再生され、新しい街の賑わいが生まれるなど、空き家活用の先進事例として注目されている。
(日本)
駅前の一等地に、それまで下北沢の街に不足していた、緑に囲まれた遊歩道と野原が美しく広がる。世田谷区と小田急電鉄、そしてこの街を愛する住民達との見事なコラボレーションによって誕生した素晴らしい空間である。
(ブラジル連邦共和国)
クリチバの北東部・バカチェリ地区で操業していた煉瓦工場の跡地につくられたアウトドアのフード・コート。再開発にあたってはサステイナブルな面が意識されており、店舗はコンテナを再利用したものとし、通路もリサイクルした建材を使っている。家族連れ、カップル、若者など、皆が楽しめるような空間づくりを目指している。「都市の鍼治療」提唱者であるジャイメ・レルネル氏も「素晴らしい空間」と高く評価した。
(ブラジル連邦共和国)
クリチバの街を移動していると、ランドマーク的な場所で印象的な壁画を見ることができる。ナポレオン・ポティグアラ・ラザロット(Napoleon Potyguara Lazzarotto, 1924-1998)の作品である。彼の壁画によって、そこに住む人々にとっては自分達の日々が客観化され、都市や人々と自分の関係性が確認される。そして、外からの訪問者には、クリチバという都市の理解を促進させる効果がある。都市における壁画というメディアの有効性を我々に気づかせてくれる。
(日本)
急斜度で知られる長崎市の住宅地を、定員2名のまさに電話ボックスのような箱が分速15メートルで移動する。乗車できるのは地元住民のみで、専用のカードが必要。利用は無料だ。移動スピードは歩いているようなものであるが、長い階段を登らなければならない高齢者にはまさにオアシスのように思われるのではないだろうか。
(ドイツ連邦共和国)
ドイツ、ザクセン・アンハルト州のハレ市。南部に位置するグラウハ地区では、人口減少→社会問題の増加→空き家の増加→文化的遺産の損失、といったマイナスのスパイラルに悩んでいた。とはいえ、トップダウンの対策ではなく、地元に精通した人達によるボトムアップ的なアプローチが重要であることをハレ市はよく理解していた。そして考えられたのが「地主調停者」という仕組みであった。この「地主調停者」こそが、グラウハ地区を大きく変える重要な役割を担ったのである。
(日本)
住民参加がなぜ必要なのか。それをする意義はどこにあるのか。このような質問に見事に回答してくれるのが「さいき城山桜ホール」である。逆境を乗り越えるために市民参加を徹底的に推し進めた結果、魅力あふれる市民の広場が実現した。2021年、国土交通省「都市景観大賞」受賞。
(日本)
松山市の西部に位置する三津浜地区では、人口減少や高齢化によって空き家が増え始め、商店街でシャッターを閉じている店舗が6割と半数を越えるような状況になってしまった。このような中、住民が主体となった「三津浜地区まちづくり協議会」が発足。空き家・空き店舗を改装し、新規出店・移住による新たなにぎわい創出を図っている。
(日本)
NPO法人金澤町家研究会は、金沢市内にある木造の歴史的建築物「金澤町家」の継承・活用に民間の立場から取り組んでいる。現在、市内には約6千棟の金澤町家が現存するが、毎年100棟以上が消滅している。しかし、金澤町家研究会が存在しなければ、町家はもっとハイペースで消滅していたであろう。
(日本)
冷泉荘は福岡市の上川端商店街に1958年に建築されたレトロなビル。レトロではあるが、古さは感じられないこのビルこそ、福岡発のリノベーション・ブームを牽引してきた吉原住宅が手がけた代表的なビルであり、ビル単体だけでなく、周辺にもプラスの効果をもたらした事例である。
(ブラジル連邦共和国)
シティズンシップ・ストリートは、バス・ターミナルに設けられた複合公共施設である。日本の鉄道事業者も「駅ナカ」というコンセプトで駅に商業施設を中心とした店舗を設けることになったが、クリチバはそのような動きに先んじて、バス・ターミナルにおいて、収益事業だけではなく、公共的な事業・サービスを提供したという点に、この都市の創造性、問題解決能力の高さを感じる。
(ブラジル連邦共和国)
レルネル元市長のもと、世界トップクラスの公園都市へと変貌したクリチバ市。しかし、その公園の芝生を管理する予算がなかった。ブレイン・ストーミングを市役所でしたら、ある職員が羊にやらせればいい、と提案した。
(イングランド)
世界で最初の田園都市であるレッチワースは、田園都市を提唱していたエベネザー・ハワード自らが建設したコミュニティ。このコミュニティ運営の範囲は都市計画や住民組織への補助・扶助といった、通常の自治体が有するような内容も含まれているという点で、極めてユニークな特色を有している。
(日本)
ねこじゃらし公園に行くと、なんかホッとするような気持ちになれる。それは、意図的なデザインの押しつけのようなものを全く感じないからだと思う。この公園には手作り感が溢れている。ただ、この素晴らしく魅力的な公園空間だけがこの公園の価値ではなく、これをつくり、そして管理するうえで形成された地域のネットワーク、地域の関係性が築けたことこそが、ねこじゃらし公園の真に評価すべき点であると思う。
(日本)
鳥取県の江府町、日野町。多くの過疎集落を抱え、買物難民が生まれるような条件をほぼ満たしている地域である。しかし、ここではそのような問題は深刻化していない。なぜなら、安達商事という一民間企業が「ひまわり号」という移動販売を提供しているからだ。
(日本)
まず空き家所有者は空き家を10年間低額で公社に貸し付けをする。そして、公社は空き家を10年間借り受け、空き家を改修し、維持管理業務をし、入居者募集をして、選定、入居手続き業務をする。
(ルワンダ共和国)
ルワンダのコミュニティは大虐殺によって、そのメンバー間の絆はずたずたにされた。その絆を再び、取り戻すのは、コミュニティの人達が自発的にする以外、方法はない。そのために、現大統領のポール・カガメ氏が採用したのは、伝統的にルワンダのコミュニティが行ってきたウムガンダという手法であった。
(オーストラリア)
マレーニは、オーストラリアのクイーンズランド州のサンシャイン・コースとのそばにある人口1500人の小さな町である。このマレーニは1987年10月、地域通貨のレッツを導入する。このレッツを導入したのが、マレーニに信用組合や生協を設立したジル・ジョーダンである。
(ブラジル連邦共和国)
ブラジルの環境都市として知られるクリチバは、1989年にジャイメ・レルネル氏が三期目の市長として当選してから、「環境都市」を施策目標として掲げる。そして、低所得者層が多く住んでいたフェベラ地区のごみ問題の解決策として「ゴミ買いプログラム」を導入し、見事、大きな成果をあげる。
インタビュー
(建築家・元クリチバ市長)
「よりよい都市を目指すには、スピードが重要です。なぜなら、創造は「始める」ということだからです。我々はプロジェクトが完了したり、すべての答えが準備されたりするまで待つ必要はないのです。時には、ただ始めた方がいい場合もあるのです。そして、そのアイデアに人々がどのように反応するかをみればいいのです。」(ジャイメ・レルネル)
(横浜市立大学国際教養学部教授)
ビジネス、観光の両面で多くの人々をひきつける港町・横浜。どのようにして今日のような魅力ある街づくりが実現したのでしょうか。今回の都市の鍼治療インタビューでは、横浜市のまちづくりに詳しい、横浜市立大学国際教養学部の鈴木伸治教授にお話を聞きました。
(福岡大学工学部社会デザイン工学科教授)
都市の鍼治療 特別インタビューとして、福岡大学工学部社会デザイン工学科教授の柴田 久へのインタビューをお送りします。
福岡市の警固公園リニューアル事業などでも知られる柴田先生は、コミュニティデザインの手法で公共空間をデザインされています。
今回のインタビューでは、市民に愛される公共空間をつくるにはどうすればいいのか。その秘訣を伺いました。
(地域計画家)
今回の「都市の鍼治療インタビュー」は、九州の都市を中心に都市デザインに携わっている地域計画家の高尾忠志さんへのインタビューをお送りします。優れた景観を守ための開発手法や、複雑な事業を一括して発注することによるメリットなど、まちづくりの秘訣を伺います。
(大阪大学名誉教授)
1970年代から長年にわたり日本の都市計画・都市デザインの研究をリードしてきた鳴海先生。ひとびとが生き生きと暮らせる都市をめざすにはどういう視点が大事なのか。
これまでの研究と実践活動の歩みを具体的に振り返りながら語っていただきました。
(クリチバ市元環境局長)
シリーズ「都市の鍼治療」。今回は「クリチバの奇跡」と呼ばれる都市計画の実行にたずさわったクリチバ市元環境局長の中村ひとしさんをゲストに迎え、お話をお聞きします。
(大阪大学サイバーメディアコモンズにて収録)
お金がなくても知恵を活かせば都市は元気になる。ヴァーチャルリアリティの専門家でもある福田先生に、国内・海外の「都市の鍼治療」事例をたくさんご紹介いただきました。聞き手は「都市の鍼治療」伝道師でもある、服部圭郎 明治学院大学経済学部教授です。
(龍谷大学政策学部にて収録)
「市街地に孔を開けることで、都市は元気になる。」(阿部大輔 龍谷大学准教授)
データベース「都市の鍼治療」。今回はスペシャル版として、京都・龍谷大学より、対談形式の録画番組をお届けします。お話をうかがうのは、都市デザインがご専門の阿部大輔 龍谷大学政策学部政策学科准教授です。スペイン・バルセロナの都市再生に詳しい阿部先生に、バルセロナ流の「都市の鍼治療」について解説していただきました。
(建築家・東京大学教授)
「本当に現実に向き合うと、(統計データとは)違ったものが見えてきます。この塩見という土地で、わたしたちが、大学、学生という立場を活かして何かをすることが、一種のツボ押しになり、新しい経済活動がそのまわりに生まれてくる。新たなものがまわりに出てくることが大切で、そういうことが鍼治療なのだと思います。」(岡部明子)
今回は、建築家で東京大学教授の岡部明子氏へのインタビューをお送りします。
(東京工業大学准教授)
今回の「都市の鍼治療インタビュー」は、東京工業大学准教授の土肥真人氏へのインタビューをお送りします。土肥先生は「エコロジカル・デモクラシー」をキーワードに、人間と都市を生態系の中に位置づけなおす研究に取り組み、市民と共に新しいまちづくりを実践されています。
(東京都立大学都市環境学部教授)
人口の減少に伴って、現代の都市ではまるでスポンジのように空き家や空きビルが広がっています。それらの空間をわたしたちはどう活かせるのでしょうか。『都市をたたむ』などの著作で知られる東京都立大学の饗庭 伸(あいば・しん)教授。都市問題へのユニークな提言が注目されています。饗庭教授は2022年、『都市の問診』(鹿島出版会)と題する書籍を上梓されました。「都市の問診」とは、いったい何を意味するのでしょうか。「都市の鍼治療」提唱者の服部圭郎 龍谷大学教授が、東京都立大学の饗庭研究室を訪ねました。
お話:饗庭 伸 東京都立大学都市環境学部教授
聞き手:服部圭郎 龍谷大学政策学部教授