人口減少への対応に関する事例
(ポーランド共和国)
ウッチはポーランドの国土のほぼ中心に位置する都市。工業都市であったウッチを彩る建築群のアイデンティティは強烈で明確だ。過去の工業の栄光はもう戻らないであろう。しかしそれらを忘却させるのではなく、工業都市の遺産を活用することでこそ都市の未来が拓かれる。廃墟と化していたEC1だが、今は都心部の明るい将来を示すかのようにリフォームされ、多くの人々が訪れている。
(ポーランド共和国)
ブウキエンニツァ・ストリートはウッチの暗黒面の象徴とも言われていた。そこは売春が横行し、禁止されていたアルコール類のやり取りもされていた。それが、現在では見違えるようになっている。廃屋のような建物は、改修され、カラフルな色にペンキで塗られ、ビフォア・アフターの写真を見ても、同じ場所だとはとても思えない。
(日本)
神奈川県の南西部に位置する真鶴町。相模湾に向かって傾斜する土地の起伏が生み出す景観が美しい。30年ほど前に制定された、一定規模以上の開発を抑制する「美の条例」によって、建築物と周囲の地形とが織りなす風景が守られ、近年も移住する人が増えている。
(日本)
「伝泊」は奄美大島、加計呂麻島、徳之島にある宿泊施設・複合施設。「伝統的・伝説的な建築と集落と文化」を次世代に伝えることを目的とし、奄美の建築家、山下保博氏によって計画された。空き家などの「負」の地域資産を再活用し、地域アイデンティティを掘り起こした創造的な事業として高く評価され、2020年ジャパン・ツーリズム・アワード(国土交通大臣賞、倫理賞、ダブル受賞)など数々の賞を受賞している。
(日本)
「さるぼぼコイン」は、岐阜県の飛騨市、高山市、白川村のみで利用できる電子地域通貨である。2023年4月30日時点でユーザー数は約29,300名、加盟店数は約1,930店、そして累計決済額は約82億円にまで達している。飛騨市では市民の4人に1人がユーザーであり、市役所では納税や行政手続き等の手数料を「さるぼぼコイン」で支払うことができる。
(日本)
大阪市城東区にある蒲生四丁目の一画は「がもよん」の名称で親しまれている。近年、地元不動産会社の斬新なアプローチによって、それまで老朽化して使われていなかった古民家が次々に再生され、新しい街の賑わいが生まれるなど、空き家活用の先進事例として注目されている。
(日本)
鹿児島市名山町の「バカンス」。周りに近代的で大きな建物が林立している中、この周囲だけはまるで時間が止まったかのように昭和レトロな雰囲気が漂っている。1階はキッチンスペース、2階は4畳半の小さな空間であるが、そこは狭い路地ゆえに「再建築不可」の空き家がつくりだした、奇跡的なパブリックな場所である。
(日本)
長崎県の五島列島最大の島、福江島に位置する玉之浦町。人口減少の激しい集落であるが、2022年1月、ここに「鶴田商店」が開業した。玉之浦教会のそばにある空き家であった木造二階建てを、所有者から借りて改装したものだ。現在、ここでは地元で捕獲した鹿肉を使って開発をした「ジビエバーガー」や「ジビエカレー」などを販売している。
(日本)
熊本市の中心街である上通のアーケードに、ちょっとセットバックをした空間がある。幅6メートルと間口は決して広くはないが、光が差し込む居心地のよい空間は、人口縮小時代に悩まされ閉塞状況にある商店街に新鮮な空気を送りこんでいるかのように見える。
(日本)
急斜度で知られる長崎市の住宅地を、定員2名のまさに電話ボックスのような箱が分速15メートルで移動する。乗車できるのは地元住民のみで、専用のカードが必要。利用は無料だ。移動スピードは歩いているようなものであるが、長い階段を登らなければならない高齢者にはまさにオアシスのように思われるのではないだろうか。
(日本)
住民参加がなぜ必要なのか。それをする意義はどこにあるのか。このような質問に見事に回答してくれるのが「さいき城山桜ホール」である。逆境を乗り越えるために市民参加を徹底的に推し進めた結果、魅力あふれる市民の広場が実現した。2021年、国土交通省「都市景観大賞」受賞。
(アメリカ合衆国)
デンバー市の都心部にあるラリマー広場は、同市で最も歴史ある商業地区。1960年代、再開発によって建物の取り壊しが計画されたが、ボストンから移住したディーナ・クローフォードという不動産業を営む女性の努力によって歴史的建築物の保全が実現した。
(日本)
茅葺の宿場町として知られる福島県の大内宿では、「売らない、貸さない、壊さない」の三原則を住民憲章に記し、地域住民の手による町並み保存の活動が行なわれている。電信柱を移し、アスファルト舗装を剥がすなど、江戸時代を彷彿させる伝統的な風景を取り戻そうとしている。
(日本)
松山市の西部に位置する三津浜地区では、人口減少や高齢化によって空き家が増え始め、商店街でシャッターを閉じている店舗が6割と半数を越えるような状況になってしまった。このような中、住民が主体となった「三津浜地区まちづくり協議会」が発足。空き家・空き店舗を改装し、新規出店・移住による新たなにぎわい創出を図っている。
(日本)
冷泉荘は福岡市の上川端商店街に1958年に建築されたレトロなビル。レトロではあるが、古さは感じられないこのビルこそ、福岡発のリノベーション・ブームを牽引してきた吉原住宅が手がけた代表的なビルであり、ビル単体だけでなく、周辺にもプラスの効果をもたらした事例である。
(日本)
兵庫県尼崎市の杭瀬市場は、個店の寄せ集めであり、それに起因する多様性、不確定性がもたらす魅力はショッピング・センターにはみられない。ここには風変わりな古本屋や、市場の食材を使った料理を提供する食堂、一階が和菓子屋で二階がレコード屋というユニークな店舗ミックスなどが具体化している。それは、市場マーケティングなどではとても出てこない、経営理論や経済理論を越えた現象である。
(日本)
京都府の北部にある丹後半島の東端に位置する伊根町。その景観には海、舟宿、道(にわ)、主屋、山といった漁村の豊かなエコシステムが見事に表現されている。それは日本人の原風景といってもいいような郷愁と懐かしさを喚起させる。2005年7月、漁村集落としては最初の国の重要伝統的建造物群保存地区(伝建地区)として選定された。
(日本)
JR黒磯駅から数百メートルほど北上し、那珂川を晩翠橋で越えると県道17号との交差点がある。この交差点から県道17号を那須岳の方へ向かうと両側には見事な赤松の林が広がる。その長さ、約2キロメートル。道路沿い100メートルという首の皮一枚のような指定ではあるが、国立公園の指定によって、その周辺部を含めて赤松林は見事に保全されることに繋がった。まさに「ツボ」を押さえた政策的判断であったかと思われる。
(日本)
駅前の渋滞・混雑に悩まされてきた由布院駅周辺は、ちょっとした一方通行の環をつくって自動車の動線を簡潔化することにより、人々のモビリティを大幅に向上させた。モータリゼーション以前に駅前空間を整備した観光都市などにおいては、大いに参考にする価値があると思われる。
(日本)
大阪市大正区のウォーターフロントに出現した複合商業施設「タグボート大正」は、人口減少に悩む地元のまちづくりを牽引する役割が期待されている。河川沿いの商業施設自体が日本では珍しいが、ここでは河川に係留された船が商業施設として利用されており、日本では初めてのケース。河川法を含め、多くの障害を乗り越えて実現に辿り着いたユニークなプロジェクトである。
(日本)
横浜市北部に1965年に横浜六大事業の一つとして計画された港北ニュータウン。その計画理念の象徴のような役割を果たしているのが「グリーン・マトリックス」である。これは地域の貴重な緑の資源を「緑道」と「歩行者専用道路」という二つの系統のフットパスで結ぶシステムであり、港北ニュータウンのアイデンティティをつくりだしている源でもある。
(日本)
大阪駅から徒歩で10分ほどの距離にある中崎町に、昭和のレトロ感溢れる喫茶店ニューMASAがある。この喫茶店は「譲り店(ゆずりみせ)」である。譲り店とは、昔からずっと営んできたお店のマスターが主に高齢などが理由で、そろそろ辞めようと考えた時、店を継いでもらうのでもなく、売るのでもなく「譲る」という発想で、新しいオーナーに店を引き継ぐというスタイルのお店である。
(日本)
松應寺横丁には、戦後の闇市発祥の商店街と木造のアーケード、狭隘な路地が残っており、それらが昭和30年代のレトロな雰囲気を醸しだし、訪れる人々に強烈な郷愁を誘う。しかし、同プロジェクトが開始される前は、ここはもはや崩れかける寸前のような状態であった。それを、地元のNPOが住民と丁寧なコミュニケーションを重ねることで、その問題をテキスト化し、人々に共通した問題意識を持たせることに成功した。
(ドイツ連邦共和国)
ドイツ・ルール地方に1970年代に建てられた社会賃貸住宅団地。空き家率の増加に直面した市と住宅公社は、大胆な減築を実行し、戸数を減らして団地全体のリニューアルに成功した。地区のイメージは改善されつつあり、改修の5年後には4年待ちのウェイティング・リストができるほどの人気となっている。
(日本)
このプロジェクトの面白いところは、それまでただ受動的に与えられていた、教室という空間に対して、学生達が能動的に関与し、それを創造する機会を提供できたことである。それによって、その空き教室に対しての学生達の見方がコペルニクス的転換を果たしたと考えられる。
(日本)
大阪のウォーターフロントである大正区の泉尾地区でも、近年、人口縮小という課題に直面しており、空き家が見られ始めている。一方で、大阪のアーティスト達にとって、大阪にはインキュベーター(孵化器)的な仕組みが不足していた。この二つの課題を解決し、さらに地域住民の交流を促すような目的でつくられたのが「ヨリドコ大正メイキン」である。
(日本)
だんだんテラスは、高齢化・少子化が進み、人口も減少し、空き家も増え、栄養失調で徐々に体力が衰えていくような状況にある団地の再生を考える大学の研究・活動拠点である。
(ドイツ連邦共和国)
人口縮小は地域に大きなダメージを与える。まず、活力が削がれていき、状況を変更させるエネルギーとなる投資をしてくれる人もいなくなる。そして、空き家が増え、街並みはさらに寂れた感じになり、縮小を加速化させていくといったマイナスのサイクルが繰り返されていく。ザリネ34は、このマイナスのサイクルの回転を止めるために空き家に注目した。
(日本)
新栄テラスは福井市の福井駅西側の中心市街地にある商業集積地区における暫定的な駐車場活用広場である。来訪者のアンケート調査では新栄テラスによって「まちなかのイメージがよくなった」と回答した人が86%あったことや、それまでこの地区に来なかったような若い世代の人達が多く来るようになったことも分かった。
(日本)
千葉県の安房半島の先端にある館山の塩見地区。この集落に、見事な茅葺き民家「ゴンジロウ」が存在する。茅葺きの家は、日本の農村の原風景の重要な構成要素である。しかし、それらは農村が近代化し、その文化が衰退していくのと並行するように田園風景から消えつつある。その、まさに田園の象徴のような茅葺き民家を再生するために動き出したのが、当時、千葉大学の教員であった岡部明子氏であった。
(ポルトガル)
空に浮かぶ無数の色とりどりの傘の群れ。何も資源がない町でも、アートを使えば新しい魅力を創出できるということを広く世に知らしめた素晴らしい鍼治療の事例。
(日本)
鳥取県の江府町、日野町。多くの過疎集落を抱え、買物難民が生まれるような条件をほぼ満たしている地域である。しかし、ここではそのような問題は深刻化していない。なぜなら、安達商事という一民間企業が「ひまわり号」という移動販売を提供しているからだ。
(ドイツ連邦共和国)
歴史的建築物を保全しただけでなく、新たな雇用を創出し、また新しい芸術・工芸センターをドルトムントに供給することになったが、極めてコミュニティにとって価値のあったことは、ここが公共広場として機能することで、コミュニティの紐帯を強化する役割を果たしたことである。
(ドイツ連邦共和国)
デッサウでは、住宅市場の供給過剰に対応するために不要な建物を撤去した跡地を、「図」ではなくむしろ「地」に注目した都市像として提示している。そして、この「地」を空間的にネットワーク化し、新しく創出されたランドスケープを人々に認識してもらうために、それらを「赤い糸」で繋ぐことにした。
(日本)
まず空き家所有者は空き家を10年間低額で公社に貸し付けをする。そして、公社は空き家を10年間借り受け、空き家を改修し、維持管理業務をし、入居者募集をして、選定、入居手続き業務をする。
(ドイツ連邦共和国)
ザクセンドルフ・マドローには、これまで3度訪れている。2006年に訪れた時は、通り沿いの高層棟の撤去を行っていた。大きなクレーンで建物を壊していく様子は凄まじい迫力であった。しかし、その後、訪れるたびにザクセンドルフ・マドローのまちはよくなっていると感じる。
(ドイツ連邦共和国)
ライプチッヒ・オスト地区にある空き家を「日本」というテーマのもとに、人々が集いアイディアや物を生み出す、クリエイティブな空間として再生することを目標としたプロジェクトが「日本の家」である。
(ドイツ連邦共和国)
人口減少に対応するために、団地を撤去・減築するという大胆な政策に出たライネフェルデ市。建物を撤去した跡地には、広大なお花畑をつくり、そこに人々が暮らしていた記憶を朧気ながらも次代へと継承している。
(ドイツ連邦共和国)
アッシェアーズ・レーベンという都市がドイツのザクセン・アンハルト州にある。ここは人口が3万2千人弱の中都市である。1990年には3万3700人はいた人口が、2000年には2万7千人まで減少してしまった自治体である(最近では多少、増加傾向にある)。
(日本)
「みんなでつくるん台」とは、岩手県は平泉町にある平泉中学校の新校舎に計画された交流ホールという大空間の使い方及びその空間にふさわしい家具のデザイン・製作に関する一連の取り組みの総称である。
インタビュー
(建築家・元クリチバ市長)
「よりよい都市を目指すには、スピードが重要です。なぜなら、創造は「始める」ということだからです。我々はプロジェクトが完了したり、すべての答えが準備されたりするまで待つ必要はないのです。時には、ただ始めた方がいい場合もあるのです。そして、そのアイデアに人々がどのように反応するかをみればいいのです。」(ジャイメ・レルネル)
(横浜市立大学国際教養学部教授)
ビジネス、観光の両面で多くの人々をひきつける港町・横浜。どのようにして今日のような魅力ある街づくりが実現したのでしょうか。今回の都市の鍼治療インタビューでは、横浜市のまちづくりに詳しい、横浜市立大学国際教養学部の鈴木伸治教授にお話を聞きました。
(福岡大学工学部社会デザイン工学科教授)
都市の鍼治療 特別インタビューとして、福岡大学工学部社会デザイン工学科教授の柴田 久へのインタビューをお送りします。
福岡市の警固公園リニューアル事業などでも知られる柴田先生は、コミュニティデザインの手法で公共空間をデザインされています。
今回のインタビューでは、市民に愛される公共空間をつくるにはどうすればいいのか。その秘訣を伺いました。
(地域計画家)
今回の「都市の鍼治療インタビュー」は、九州の都市を中心に都市デザインに携わっている地域計画家の高尾忠志さんへのインタビューをお送りします。優れた景観を守ための開発手法や、複雑な事業を一括して発注することによるメリットなど、まちづくりの秘訣を伺います。
(大阪大学名誉教授)
1970年代から長年にわたり日本の都市計画・都市デザインの研究をリードしてきた鳴海先生。ひとびとが生き生きと暮らせる都市をめざすにはどういう視点が大事なのか。
これまでの研究と実践活動の歩みを具体的に振り返りながら語っていただきました。
(クリチバ市元環境局長)
シリーズ「都市の鍼治療」。今回は「クリチバの奇跡」と呼ばれる都市計画の実行にたずさわったクリチバ市元環境局長の中村ひとしさんをゲストに迎え、お話をお聞きします。
(大阪大学サイバーメディアコモンズにて収録)
お金がなくても知恵を活かせば都市は元気になる。ヴァーチャルリアリティの専門家でもある福田先生に、国内・海外の「都市の鍼治療」事例をたくさんご紹介いただきました。聞き手は「都市の鍼治療」伝道師でもある、服部圭郎 明治学院大学経済学部教授です。
(龍谷大学政策学部にて収録)
「市街地に孔を開けることで、都市は元気になる。」(阿部大輔 龍谷大学准教授)
データベース「都市の鍼治療」。今回はスペシャル版として、京都・龍谷大学より、対談形式の録画番組をお届けします。お話をうかがうのは、都市デザインがご専門の阿部大輔 龍谷大学政策学部政策学科准教授です。スペイン・バルセロナの都市再生に詳しい阿部先生に、バルセロナ流の「都市の鍼治療」について解説していただきました。
(建築家・東京大学教授)
「本当に現実に向き合うと、(統計データとは)違ったものが見えてきます。この塩見という土地で、わたしたちが、大学、学生という立場を活かして何かをすることが、一種のツボ押しになり、新しい経済活動がそのまわりに生まれてくる。新たなものがまわりに出てくることが大切で、そういうことが鍼治療なのだと思います。」(岡部明子)
今回は、建築家で東京大学教授の岡部明子氏へのインタビューをお送りします。
(東京工業大学准教授)
今回の「都市の鍼治療インタビュー」は、東京工業大学准教授の土肥真人氏へのインタビューをお送りします。土肥先生は「エコロジカル・デモクラシー」をキーワードに、人間と都市を生態系の中に位置づけなおす研究に取り組み、市民と共に新しいまちづくりを実践されています。
(東京都立大学都市環境学部教授)
人口の減少に伴って、現代の都市ではまるでスポンジのように空き家や空きビルが広がっています。それらの空間をわたしたちはどう活かせるのでしょうか。『都市をたたむ』などの著作で知られる東京都立大学の饗庭 伸(あいば・しん)教授。都市問題へのユニークな提言が注目されています。饗庭教授は2022年、『都市の問診』(鹿島出版会)と題する書籍を上梓されました。「都市の問診」とは、いったい何を意味するのでしょうか。「都市の鍼治療」提唱者の服部圭郎 龍谷大学教授が、東京都立大学の饗庭研究室を訪ねました。
お話:饗庭 伸 東京都立大学都市環境学部教授
聞き手:服部圭郎 龍谷大学政策学部教授