サステイナビリティの向上に関する事例
(スウェーデン王国)
スウェーデン南部マルメ市のアウグステンボリ団地はサステイナブル・コミュニティとして知られている。しかし、かつては大雨が降ると水害が生じ、多くの住民が去り、団地は経済的にも社会的にも荒廃していた。それが排水問題という「ツボ」をサステイナブルにする取り組みをきっかけにしてポジティブな波及効果が広がり、今日のようなアメニティの高い団地をつくることに成功したのである。
(日本)
「伝泊」は奄美大島、加計呂麻島、徳之島にある宿泊施設・複合施設。「伝統的・伝説的な建築と集落と文化」を次世代に伝えることを目的とし、奄美の建築家、山下保博氏によって計画された。空き家などの「負」の地域資産を再活用し、地域アイデンティティを掘り起こした創造的な事業として高く評価され、2020年ジャパン・ツーリズム・アワード(国土交通大臣賞、倫理賞、ダブル受賞)など数々の賞を受賞している。
(日本)
「さるぼぼコイン」は、岐阜県の飛騨市、高山市、白川村のみで利用できる電子地域通貨である。2023年4月30日時点でユーザー数は約29,300名、加盟店数は約1,930店、そして累計決済額は約82億円にまで達している。飛騨市では市民の4人に1人がユーザーであり、市役所では納税や行政手続き等の手数料を「さるぼぼコイン」で支払うことができる。
(日本)
駅前の一等地に、それまで下北沢の街に不足していた、緑に囲まれた遊歩道と野原が美しく広がる。世田谷区と小田急電鉄、そしてこの街を愛する住民達との見事なコラボレーションによって誕生した素晴らしい空間である。
(ブラジル連邦共和国)
クリチバの北東部・バカチェリ地区で操業していた煉瓦工場の跡地につくられたアウトドアのフード・コート。再開発にあたってはサステイナブルな面が意識されており、店舗はコンテナを再利用したものとし、通路もリサイクルした建材を使っている。家族連れ、カップル、若者など、皆が楽しめるような空間づくりを目指している。「都市の鍼治療」提唱者であるジャイメ・レルネル氏も「素晴らしい空間」と高く評価した。
(ブラジル連邦共和国)
クリチバには電信柱の再利用である、ユーカリの木を用いた建物が多い。パラナ州知事庁舎、環境市民大学、動物園、環境部庁舎、バリグイ公園の玄関等。それは、「環境都市」として知られているクリチバの都市イメージにも合致した風景づくりに寄与していると考えられる。クリチバという都市の全体を統合するようなアイデンティティは何かと問われたら、このユーカリの電信柱を挙げたい。
(日本)
JR黒磯駅から数百メートルほど北上し、那珂川を晩翠橋で越えると県道17号との交差点がある。この交差点から県道17号を那須岳の方へ向かうと両側には見事な赤松の林が広がる。その長さ、約2キロメートル。道路沿い100メートルという首の皮一枚のような指定ではあるが、国立公園の指定によって、その周辺部を含めて赤松林は見事に保全されることに繋がった。まさに「ツボ」を押さえた政策的判断であったかと思われる。
(日本)
「コウノトリでまちづくり」というコンセプトを打ち出すのに豊岡市ほどうってつけのところはない。最後のコウノトリは豊岡で生息していた。復活させるのであれば豊岡から、というストーリーは説得力を持つ。しかし、そのコンセプトは理念だけでなく、経済面でも市民にプラスをもたらさないと継続的な支持を求めることは難しい。そこで考えられたのが一石三鳥的な「無農薬(減農薬)のお米のブランド化」という考え方であった。
(ブラジル連邦共和国)
クリチバ市のタングア公園は、バリグイ川上流にある民間企業が有していた元石切場で、産業廃棄物が堆積している場所であった。クリチバ市は開発権移転制度を活用してこの土地を獲得し、市民が憩える見事な緑の空間に変えた。クリチバ・マジックとも形容したくなるような事例である。
(日本)
神奈川県の中央部に位置する座間市の鈴鹿・長宿地区では、住民主体で、湧水を利用した公園や街並みの環境整備事業を行ってきた。土地の地形、風土を尊重し、それを大切に思う住民の人達の気持ちが斜面緑地の風景に表れている。
(日本)
横浜市北部に1965年に横浜六大事業の一つとして計画された港北ニュータウン。その計画理念の象徴のような役割を果たしているのが「グリーン・マトリックス」である。これは地域の貴重な緑の資源を「緑道」と「歩行者専用道路」という二つの系統のフットパスで結ぶシステムであり、港北ニュータウンのアイデンティティをつくりだしている源でもある。
(アメリカ合衆国)
ウエスト・ポンドはデービス市の西端にある南北に長い池である。市内最大の野生動物の生息場所になっており、カナダ・グースを始めとした多くの水鳥を観察することができる。つくられた当時はただの雨水処理の貯水池であったのだが、住民達が野生動物なども生息できる環境をそこに創造することを目的としたグループをつくり、市役所などと協働して、現在のウエスト・ポンドの生態系に優しい環境を実現させた。
(日本)
福岡県柳川市は市内を堀割が縦横に流れている水郷都市である。堀割には一切の柵がなく、家などの建築物と見事に調和した田園景観をつくりだしている。人と自然環境とが見事に共存できている素晴らしい事例だと、ここを初めて訪れた人達は思うだろう。まさか、この堀割が埋め立て工事によって消滅寸前の危機に直面したことがあったなどということは想像できないのではないだろうか。
(スイス連邦)
チューリッヒ市のエルリコン地区(Oerlikon)の再開発地区につくられた公園。開発にあたっての課題は、工場跡地という場所を、いかに人々に親しまれ、来たくなる(住みたくなる)場所へと転換させるかであった。しかも、この再開発地区は兵器工場であったから、そのネガティブなイメージをポジティブなものへと転換させることは、再開発成功の鍵を握っていたといえよう。
(ドイツ連邦共和国)
プリンツェシンネン菜園は、ベルリンのクロイツブルク地区にあるオープン・スペース。ベルリンの壁が設置されていたため戦後放置されていた場所に、2009年、市民によって都市菜園として開園された。そのコンセプトは、「オープン・スペースを生産性のある野菜をつくる場に変容し、協働し、学ぶ場」というもの。
(ブラジル連邦共和国)
レルネル元市長のもと、世界トップクラスの公園都市へと変貌したクリチバ市。しかし、その公園の芝生を管理する予算がなかった。ブレイン・ストーミングを市役所でしたら、ある職員が羊にやらせればいい、と提案した。
(日本)
JR松戸駅から千葉大学のある松戸キャンパスまでの、いわば大学生達の通学路。この1キロメートルほどの通学路に沿って、「Edible Way」というロゴと大きな葉っぱが印刷された黒い布でつくられたプランターが住宅の前や空地のスペースに点々と置かれている。
(ドイツ連邦共和国)
アカデミー・モント・セニスは、ルール地方にあるヘルネ市のモント・セニス炭鉱跡地につくられた研修施設を中核とした複合機能施設である。そこには、研修者向けの宿泊施設、さらには図書館、地域センター、オフィス、そしてヘルネ市の派出所などが入っている。
(日本)
歩きやすい環境を活かして、湧き水を再生させ、管理し、それらをめぐる散策路を整備すれば街の活性化に繋がるのではないかという考えのもと、三島市では1996年から「街中がせせらぎ事業」を展開することにした。
(イタリア共和国)
オルヴィエートは人口が2万人とはとても思えないほど個店が多く存在し、それで生活を回していくことができている。今、オルヴィエートはスローシティとして、安らぎと美味しいワインを求めた観光客を集めるようになっている。
(香港特別行政区)
香港の九龍東にある観塘地区では、啓徳空港の使用停止を契機とした大規模再開発計画(320ヘクタール)を策定、現在、それに基づいた開発が進展中である。
(日本)
開発の仕方によっては台無しにしてしまったかもしれない、その地域のアイデンティティをしっかりと維持し、さらには市民にとって憩いの空間を創造することに成功した。日本人の都市空間デザインの質の高さを証明するような素場らしい事例であると考えられる。
(ドイツ連邦共和国)
ドイツではこの5年ぐらいで、カーフリー住宅(オートフライ・ヴォーヌング)という新しいライフスタイルが注目されている。広く知られているのはフライブルクの郊外につくられたファウバーンであるが、ここシュテルヴェルク60の方が、コンセプト的には徹底した街づくりが為されている。
(キューバ共和国)
1990年代、ソ連が崩壊して、さらにアメリカの経済封鎖が強化されたために、経済的な苦境にたたされたキューバは、圧倒的な物資不足・食糧不足に対応するために都市を開墾することにした。
(アメリカ合衆国)
ヴィレッジ・ホームズで印象に残るのは、そこで生活している人々が、周辺の自然環境と共生していることが感覚的に理解できることである。まず、子供達が子供のように外で遊んでいる。住宅地が子供達を社会化させるうえで、しっかりとその役割を果たしている。
(アメリカ合衆国)
サンフランシスコのゴールデンゲート橋を渡るとマリン郡になる。このマリン郡に224ヘクタールの規模のレッドウッドの森が保全されているミュア・ウッズ国定公園がある。サンフランシスコという大都市からわずか19キロメートルしか離れていないとは思えない、静寂なる大木の森である。
(オランダ王国)
ティルブルグ市は、生物多様性を意識した都市計画を実践しており、生物多様性の政策を2010年に策定した最初のオランダの自治体でもある。同市は北ブラバンド州に属し、人口20万人ほどである。ティルブルグ市はそもそも自然保全に熱心な自治体であった。
(オーストラリア)
マレーニは、オーストラリアのクイーンズランド州のサンシャイン・コースとのそばにある人口1500人の小さな町である。このマレーニは1987年10月、地域通貨のレッツを導入する。このレッツを導入したのが、マレーニに信用組合や生協を設立したジル・ジョーダンである。
(ブラジル連邦共和国)
ブラジルの環境都市として知られるクリチバは、1989年にジャイメ・レルネル氏が三期目の市長として当選してから、「環境都市」を施策目標として掲げる。そして、低所得者層が多く住んでいたフェベラ地区のごみ問題の解決策として「ゴミ買いプログラム」を導入し、見事、大きな成果をあげる。
(アメリカ合衆国)
デービスはアメリカの穀倉地帯であるカリフォルニア州のセントラル・バレーの北にあり、周辺はアメリカでも最も生産性の高い農地である。また、大学都市でもある。周辺が農地であるために、地産地消の場としてのファーマーズ・マーケットが大変な人気を博している。そこは、単なる市場ではなく、デービス市の都心の真ん中に位置していることもあり、デービス市民が交流する空間として貴重な役割を担っている。
(アメリカ合衆国)
環境と調和した経済発展を目指す都市として有名なチャタヌーガ市(テネシー州、アメリカ合衆国)にある身体障害者が働くリサイクル施設。それまではビール会社であるブッシュ・ビールの工場であった。
インタビュー
(建築家・元クリチバ市長)
「よりよい都市を目指すには、スピードが重要です。なぜなら、創造は「始める」ということだからです。我々はプロジェクトが完了したり、すべての答えが準備されたりするまで待つ必要はないのです。時には、ただ始めた方がいい場合もあるのです。そして、そのアイデアに人々がどのように反応するかをみればいいのです。」(ジャイメ・レルネル)
(横浜市立大学国際教養学部教授)
ビジネス、観光の両面で多くの人々をひきつける港町・横浜。どのようにして今日のような魅力ある街づくりが実現したのでしょうか。今回の都市の鍼治療インタビューでは、横浜市のまちづくりに詳しい、横浜市立大学国際教養学部の鈴木伸治教授にお話を聞きました。
(福岡大学工学部社会デザイン工学科教授)
都市の鍼治療 特別インタビューとして、福岡大学工学部社会デザイン工学科教授の柴田 久へのインタビューをお送りします。
福岡市の警固公園リニューアル事業などでも知られる柴田先生は、コミュニティデザインの手法で公共空間をデザインされています。
今回のインタビューでは、市民に愛される公共空間をつくるにはどうすればいいのか。その秘訣を伺いました。
(地域計画家)
今回の「都市の鍼治療インタビュー」は、九州の都市を中心に都市デザインに携わっている地域計画家の高尾忠志さんへのインタビューをお送りします。優れた景観を守ための開発手法や、複雑な事業を一括して発注することによるメリットなど、まちづくりの秘訣を伺います。
(大阪大学名誉教授)
1970年代から長年にわたり日本の都市計画・都市デザインの研究をリードしてきた鳴海先生。ひとびとが生き生きと暮らせる都市をめざすにはどういう視点が大事なのか。
これまでの研究と実践活動の歩みを具体的に振り返りながら語っていただきました。
(クリチバ市元環境局長)
シリーズ「都市の鍼治療」。今回は「クリチバの奇跡」と呼ばれる都市計画の実行にたずさわったクリチバ市元環境局長の中村ひとしさんをゲストに迎え、お話をお聞きします。
(大阪大学サイバーメディアコモンズにて収録)
お金がなくても知恵を活かせば都市は元気になる。ヴァーチャルリアリティの専門家でもある福田先生に、国内・海外の「都市の鍼治療」事例をたくさんご紹介いただきました。聞き手は「都市の鍼治療」伝道師でもある、服部圭郎 明治学院大学経済学部教授です。
(龍谷大学政策学部にて収録)
「市街地に孔を開けることで、都市は元気になる。」(阿部大輔 龍谷大学准教授)
データベース「都市の鍼治療」。今回はスペシャル版として、京都・龍谷大学より、対談形式の録画番組をお届けします。お話をうかがうのは、都市デザインがご専門の阿部大輔 龍谷大学政策学部政策学科准教授です。スペイン・バルセロナの都市再生に詳しい阿部先生に、バルセロナ流の「都市の鍼治療」について解説していただきました。
(建築家・東京大学教授)
「本当に現実に向き合うと、(統計データとは)違ったものが見えてきます。この塩見という土地で、わたしたちが、大学、学生という立場を活かして何かをすることが、一種のツボ押しになり、新しい経済活動がそのまわりに生まれてくる。新たなものがまわりに出てくることが大切で、そういうことが鍼治療なのだと思います。」(岡部明子)
今回は、建築家で東京大学教授の岡部明子氏へのインタビューをお送りします。
(東京工業大学准教授)
今回の「都市の鍼治療インタビュー」は、東京工業大学准教授の土肥真人氏へのインタビューをお送りします。土肥先生は「エコロジカル・デモクラシー」をキーワードに、人間と都市を生態系の中に位置づけなおす研究に取り組み、市民と共に新しいまちづくりを実践されています。
(東京都立大学都市環境学部教授)
人口の減少に伴って、現代の都市ではまるでスポンジのように空き家や空きビルが広がっています。それらの空間をわたしたちはどう活かせるのでしょうか。『都市をたたむ』などの著作で知られる東京都立大学の饗庭 伸(あいば・しん)教授。都市問題へのユニークな提言が注目されています。饗庭教授は2022年、『都市の問診』(鹿島出版会)と題する書籍を上梓されました。「都市の問診」とは、いったい何を意味するのでしょうか。「都市の鍼治療」提唱者の服部圭郎 龍谷大学教授が、東京都立大学の饗庭研究室を訪ねました。
お話:饗庭 伸 東京都立大学都市環境学部教授
聞き手:服部圭郎 龍谷大学政策学部教授