歴史的資産の保全に関する事例

325 バターシー・パワーハウス・ステーション

(イングランド)

バターシー・パワーハウス・ステーションは、最盛期にはロンドンの電力の2割をも供給していた石炭火力発電所。1980年代までに発電所としての役割を終えた。2012年に再開発案が合意され、再開発プロジェクトが始まった。17ヘクタールという大規模な敷地を対象としたものであり、地区は大きく変貌し、ロンドンという歴史都市において近未来的な都市空間が出現した。

312 ワルシャワ王宮の再建

(ポーランド共和国)

ポーランド君主たちの住居であったワルシャワ王宮は、1944年の「ワルシャワ蜂起」の失敗後、ナチス・ドイツによって徹底的に破壊された。戦後、ポーランド人の寄付によって再建事業がスタートし、2019年、半世紀に及ぶ王宮の復元事業が完成した。2022年には175万人の観光客が訪れている。

311 ワルシャワのオールド・タウンの復元

(ポーランド共和国)

ナチス・ドイツによって破壊され、焦土と化したワルシャワの旧市街地。戦後、市民みずからが瓦礫を収集し、再生に協力するなどにより、ほぼ完全に近いかたちに復元された。それは地区レベルで町を復元させる事業であり、人類が記録したことがないような大事業であった。

301 伝泊

(日本)

「伝泊」は奄美大島、加計呂麻島、徳之島にある宿泊施設・複合施設。「伝統的・伝説的な建築と集落と文化」を次世代に伝えることを目的とし、奄美の建築家、山下保博氏によって計画された。空き家などの「負」の地域資産を再活用し、地域アイデンティティを掘り起こした創造的な事業として高く評価され、2020年ジャパン・ツーリズム・アワード(国土交通大臣賞、倫理賞、ダブル受賞)など数々の賞を受賞している。

292 オールド・マーケット・ホール

(フィンランド共和国)

ヘルシンキの青空市場であるカウパットリは、ヘルシンキを代表する都市空間であるが、それに隣接したこのオールド・マーケットホールもヘルシンキのシンボル的な都市空間である。2014年に1500万ユーロをかけてリノベーションが施されたが、その歴史的な雰囲気はしっかりと保全されている。

283 京都芸術センター

(日本)

京都芸術センターは京都市における芸術の総合的な振興を目的として、閉校した明倫小学校の跡地に開設された。地域コミュニティの拠点としての記憶をしっかりと継承しつつ、芸術鑑賞の場、そして若い芸術家達を育成する場所として運営されている。

281 寺西家と寺西長屋の保全

(日本)

地下鉄御堂筋線昭和町駅のすぐそばに、大正時代に建築された町家、そして昭和7年に建設された二階建ての四軒長屋がある。この長屋は近代長屋としては全国で最初に登録有形文化財として指定された。しかし、これらの建物が残されることになったのは奇跡的な巡り合わせが重なったためである。

263 関宿の景観保全

(日本)

江戸時代の宿場町の風情を残す関宿(亀山市)。東海道五十三次の宿場町で唯一、国の「重要伝統的建造物群保存地区」に選定されている。つまり、関宿が今のように伝建地区に選定されるだけの状態になかったら、我々は江戸時代の東海道をイメージすることができない。これだけで、その貴重さが分かる。

260 大内宿の景観保全

(日本)

茅葺の宿場町として知られる福島県の大内宿では、「売らない、貸さない、壊さない」の三原則を住民憲章に記し、地域住民の手による町並み保存の活動が行なわれている。電信柱を移し、アスファルト舗装を剥がすなど、江戸時代を彷彿させる伝統的な風景を取り戻そうとしている。

259 ゴスラーの市場広場(Marktplatz des Goslar)

(ドイツ連邦共和国)

ドイツのほぼ中間に位置するゴスラーは1992年に世界遺産に指定された。第二次世界大戦で戦災をほとんど受けなかった旧市街地には1,500以上の木組みの家が存在し、市場広場(マルクトプラッツ)は規模こそ小さいが、宝石のような輝きを放っている。

256 金澤町家の保存と活用(NPO法人金澤町家研究会)

(日本)

NPO法人金澤町家研究会は、金沢市内にある木造の歴史的建築物「金澤町家」の継承・活用に民間の立場から取り組んでいる。現在、市内には約6千棟の金澤町家が現存するが、毎年100棟以上が消滅している。しかし、金澤町家研究会が存在しなければ、町家はもっとハイペースで消滅していたであろう。

250 ノイハウン(Nyhavn)の歩行者道路化

(デンマーク王国)

運河とカラフルな色彩の歴史建築物の景観が楽しめるコペンハーゲンの観光名所。オープン・カフェで飲食を楽しむ人々で賑わっている。しかし、ここは一昔前までは治安も決してよくなく、みすぼらしい雰囲気が漂い、運河沿いには自動車が違法駐車をするという、アメニティからはかけ離れた空間であった。どのようにして変貌したのか。

249 伊根浦の舟屋群の伝建地区指定

(日本)

京都府の北部にある丹後半島の東端に位置する伊根町。その景観には海、舟宿、道(にわ)、主屋、山といった漁村の豊かなエコシステムが見事に表現されている。それは日本人の原風景といってもいいような郷愁と懐かしさを喚起させる。2005年7月、漁村集落としては最初の国の重要伝統的建造物群保存地区(伝建地区)として選定された。

247 グアナファトのミギュエル・イダルゴ通りの地下化

(メキシコ合衆国)

メキシコのほぼ中央に位置するグアナファト。1963年、その都心部を流れるグアナファト川の上流部にダムをつくり、川であったところを舗装化。そこに地下道路を作って自動車を通すという大胆なプロジェクトを実行した。その結果、世界遺産にも指定されたグアナファトの素晴らしい歴史的街並みは自動車から開放され、人間を中心とした見事な空間を維持することができるようになった。

224 今井町の歴史的街並み保全

(日本)

奈良県橿原市にある今井町は、中世末に建設された町並みが今なお保全されている日本においても希有な場所である。日本人として誇りにしたくなるような、外国人に自慢をしたくなるような空間である。しかしこの貴重な歴史的財産を保全しつつ、生活環境を改善する道のりは決して平坦ではなかった。

219 カペル橋

(スイス連邦)

スイス中央部に位置するルツェルンのカペル橋はヨーロッパで最古の屋根付きの木橋であり、また現存するトラス橋としても世界最古のものである。この橋がルツェルンの宝であるというのは間違いないが、私はルツェルンが有するさらに輝くような宝は、ルツェルンの市民が、それを宝であると強く意識し、それを共有していることだと考える。これこそがルツェルン市を特別なものとし、そこに住む人達にシビック・プライドという帰属意識を持たせる要因になっているのではないだろうか。

202 デッサウのバウハウス・ビルディングの保全

(ドイツ連邦共和国)

デッサウにあるバウハウス・ビルディングは1926年にウォルター・グロピウスによって「バウハウスのアイデアを宣言する」ことを目的に計画され、設計された。100年前とほぼ同じ形で屹立するバウハウス・ビルディングをみると、これが現代においても存在していることの有り難みを痛烈に感じる。現代建築がつくられ始めてから一世紀近くの歳月が経ち、それらの歴史的重要性が認知され、この建築物のように世界遺産にも指定される価値を有し始めている。

199 ユニオン・ステーションの再生事業

(アメリカ合衆国)

ユニオン駅の改修事業をするうえでのコンセプトは、「デンバーの居間」として、より多様な機能を担うということが挙げられた。その考えによってホテル、レストランや小売店、そして鉄道待ちの人以外でも使われるような公共空間という機能がここに導入されたのである。

195 ギャルリ・サンテュベール

(ベルギー)

19世紀中ごろにつくられた、窓ガラスの天井をもつショッピング・アーケード。当時の新しい技術である鉄とガラスが可能にしたこのタイプの建築物の先駆けである。

192 ファニュエル・ホール・マーケットプレイス

(アメリカ合衆国)

フェスティバル・マーケットプレイスの父と言われたジェイムス・ラウスが手がけ、1976年に開業した商業複合施設。都市再開発事業の成功例として広く知られているが、もう一方で、歴史的建築物を保全する意義、そして、そのことで経済的価値も生み出すということを広く示したことで、その後のアメリカの都市再開発に極めて大きな影響を与えた。

182 鶴岡まちなかキネマ

(日本)

鶴岡まちなかキネマは、織物工場の移転をきっかけとして立ち上がったプロジェクト。映画館だけでなく、文化施設として、落語や朗読会、ミニ・コンサート、講演会などもここで行われている。旧織物工場というストックを過去のものとして保存するというアプローチではなく、現在の生活の中に融合させ、再生させている。

181 門司港駅の改修と広場の再生

(日本)

門司港駅の復元事業は素晴らしいものであるが、それと同時に、建物だけではなく、その駅前広場を再生させることで、その都市空間的機能をも再編成させてしまった。この二つを同時に行えたことで、この駅の建物としての魅力はもちろんのこと、その駅の公共性も大きく向上させることに成功した、見事な「都市の鍼治療」事例であると考えられる。

180 門司港レトロ

(日本)

門司港レトロとは、JR門司港駅周辺地域にある歴史的建造物を中心に、大正レトロを意識して修繕、空間演出をした事業である。門司港レトロを訪れた人は、「良くこれだけ歴史建築物が残っていた」と感心するそうだが、これらのほとんどが取壊の瀬戸際に立たされていた。

163 サントスの珈琲博物館

(ブラジル連邦共和国)

港町サントスは、珈琲の出荷港として20世紀前半には大変栄えていた。1922年にそこにつくられた珈琲取引所の建物はサントス市内でも、最も華美な建物として捉えられていた。この珈琲取引所を珈琲博物館にしたことで、サントス市は由緒ある歴史的建築物を有効に活用することに成功した。

151 オックスフォード・カバード・マーケット

(イングランド)

250年の歴史という時間の積み重ねといった重みに加え、基本的に個店しか立地できないルールをつくることで、その独自性、アンチ・ショッピングセンター化を指向してきた。そして、それが、このマーケットの揺るぎないアイデンティティ形成に寄与してきたのである。

137 チェスターの城壁

(イングランド)

チェスターの壁は、イギリスの西部にあるチェスター市の旧市街地を囲むようにつくられた3キロメートルに及ぶ城壁である。現在では、その上を歩くことができ、ちょっとした空中散歩を楽しむことができる。この壁の歴史は古く、そもそもは西暦70年、80年にローマ人によって築かれた。

133 ギャルリ・ヴィヴィエンヌ

(フランス共和国)

パリのパサージュは、女性が着飾って歩ける公共的な空間を初めてパリという大都市に提供することになり、人気を博す。19世紀の新しい都市における発明品である。しかし、このパサージュも1920年代頃から寂れていく。しかし、近年、またその価値が見直され、歴史遺産として再生されている。そのまさに代表的な事例が、このギャルリ・ヴィヴィエンヌである。

124 リスボンのトラム

(ポルトガル)

車両の大改修を1990年代に行ったのだが、外観と車内の内装はレトロなままで維持した。渋みのある車体の黄色は、リスボンの歴史的街並みと見事にマッチしている。

122 サンタ・ジュスタのエレベーター

(ポルトガル)

リスボンのサンタジュスタのエレベーターは、おそらく世界で最も有名なエレベーターなのではないだろうか。リスボンの低地バイシャ地区と丘のシアード地区とを結ぶサンタジュスタのエレベーターは観光資源となっており、しかもランドマークとしても強烈な存在感を放つ建築物である。

113 クレーマー橋

(ドイツ連邦共和国)

クレーマー橋は、ドイツのチューリンゲン州の州都であるエアフルトにあるランドマークである。それはブライト川に架かる橋で、その両側に木造の建物が肩を寄せ合うように建っている。

083 明治学院大学の歴史建築物の保全

(日本)

景観を公共財として捉えれば、これら創立時以来の歴史建築物を明治学院大学が保全したことによって、この周辺の街並みも良質な景観を確保することができた。

073 ボケリア市場

(スペイン)

ボケリア市場はバルセロナのランブラス通り沿いにある公設市場。2013年2月にCNNが発表した「生鮮市場の世界ベスト10」ランキングでは、ボケリア市場は二位の東京の築地市場を押さえて一位であった。

046 ギネス・ストアハウス(ギネスビール博物館)

(アイルランド)

ギネスのビール醸造所は1902年から1904年の間にダブリンの近郊にて建造された。それは、ビールの醸造所としてアーサー・ギネス・サン会社によってつくられた。シカゴ・スタイルの巨大な構造物はアイルランド最初の鉄鋼でつくられた高層建築であった。それは、ダブリンの西地区のランドマークとして人々に親しまれていた。しかし、1980年代には醸造所としては時代遅れとなり、この醸造所を移転して、ストアハウスは1986年に閉鎖された。

020 ニューラナークの再生

(スコットランド)

ニューラナークはスコットランドのグラスゴーの南にあるラナークシャー郡の世界遺産である。グラスゴーからローカル鉄道で一時間ぐらいのところにあるラナークの町から2キロメートルほど離れた場所にクライド川が流れている。ニューラナークは、この川の水力を活かした綿工場と従業員のための住居がセットにして計画的につくられた町であり、都市計画史の観点からはメルクマールとなるようなプロジェクトである。

インタビュー

ジャイメ・レルネル氏インタビュー

(建築家・元クリチバ市長)

「よりよい都市を目指すには、スピードが重要です。なぜなら、創造は「始める」ということだからです。我々はプロジェクトが完了したり、すべての答えが準備されたりするまで待つ必要はないのです。時には、ただ始めた方がいい場合もあるのです。そして、そのアイデアに人々がどのように反応するかをみればいいのです。」(ジャイメ・レルネル)

鈴木伸治氏インタビュー

(横浜市立大学国際教養学部教授)

ビジネス、観光の両面で多くの人々をひきつける港町・横浜。どのようにして今日のような魅力ある街づくりが実現したのでしょうか。今回の都市の鍼治療インタビューでは、横浜市のまちづくりに詳しい、横浜市立大学国際教養学部の鈴木伸治教授にお話を聞きました。

柴田久 福岡大学教授インタビュー

(福岡大学工学部社会デザイン工学科教授)

都市の鍼治療 特別インタビューとして、福岡大学工学部社会デザイン工学科教授の柴田 久へのインタビューをお送りします。
福岡市の警固公園リニューアル事業などでも知られる柴田先生は、コミュニティデザインの手法で公共空間をデザインされています。
今回のインタビューでは、市民に愛される公共空間をつくるにはどうすればいいのか。その秘訣を伺いました。

高尾忠志(地域計画家)インタビュー

(地域計画家)

今回の「都市の鍼治療インタビュー」は、九州の都市を中心に都市デザインに携わっている地域計画家の高尾忠志さんへのインタビューをお送りします。優れた景観を守ための開発手法や、複雑な事業を一括して発注することによるメリットなど、まちづくりの秘訣を伺います。

鳴海邦碩氏インタビュー

(大阪大学名誉教授)

1970年代から長年にわたり日本の都市計画・都市デザインの研究をリードしてきた鳴海先生。ひとびとが生き生きと暮らせる都市をめざすにはどういう視点が大事なのか。
これまでの研究と実践活動の歩みを具体的に振り返りながら語っていただきました。

中村ひとし氏インタビュー

(クリチバ市元環境局長)

シリーズ「都市の鍼治療」。今回は「クリチバの奇跡」と呼ばれる都市計画の実行にたずさわったクリチバ市元環境局長の中村ひとしさんをゲストに迎え、お話をお聞きします。

対談 福田知弘 × 服部圭郎

(大阪大学サイバーメディアコモンズにて収録)

お金がなくても知恵を活かせば都市は元気になる。ヴァーチャルリアリティの専門家でもある福田先生に、国内・海外の「都市の鍼治療」事例をたくさんご紹介いただきました。聞き手は「都市の鍼治療」伝道師でもある、服部圭郎 明治学院大学経済学部教授です。

対談 阿部大輔 × 服部圭郎

(龍谷大学政策学部にて収録)

「市街地に孔を開けることで、都市は元気になる。」(阿部大輔 龍谷大学准教授)
データベース「都市の鍼治療」。今回はスペシャル版として、京都・龍谷大学より、対談形式の録画番組をお届けします。お話をうかがうのは、都市デザインがご専門の阿部大輔 龍谷大学政策学部政策学科准教授です。スペイン・バルセロナの都市再生に詳しい阿部先生に、バルセロナ流の「都市の鍼治療」について解説していただきました。

岡部明子氏インタビュー

(建築家・東京大学教授)

「本当に現実に向き合うと、(統計データとは)違ったものが見えてきます。この塩見という土地で、わたしたちが、大学、学生という立場を活かして何かをすることが、一種のツボ押しになり、新しい経済活動がそのまわりに生まれてくる。新たなものがまわりに出てくることが大切で、そういうことが鍼治療なのだと思います。」(岡部明子)

今回は、建築家で東京大学教授の岡部明子氏へのインタビューをお送りします。

土肥真人氏インタビュー

(東京工業大学准教授)

今回の「都市の鍼治療インタビュー」は、東京工業大学准教授の土肥真人氏へのインタビューをお送りします。土肥先生は「エコロジカル・デモクラシー」をキーワードに、人間と都市を生態系の中に位置づけなおす研究に取り組み、市民と共に新しいまちづくりを実践されています。

饗庭伸教授インタビュー

(東京都立大学都市環境学部教授)

人口の減少に伴って、現代の都市ではまるでスポンジのように空き家や空きビルが広がっています。それらの空間をわたしたちはどう活かせるのでしょうか。『都市をたたむ』などの著作で知られる東京都立大学の饗庭 伸(あいば・しん)教授。都市問題へのユニークな提言が注目されています。饗庭教授は2022年、『都市の問診』(鹿島出版会)と題する書籍を上梓されました。「都市の問診」とは、いったい何を意味するのでしょうか。「都市の鍼治療」提唱者の服部圭郎 龍谷大学教授が、東京都立大学の饗庭研究室を訪ねました。

お話:饗庭 伸 東京都立大学都市環境学部教授
聞き手:服部圭郎 龍谷大学政策学部教授