068 ミュア・ウッズ国定公園の保全(アメリカ合衆国)
ストーリー:
サンフランシスコのゴールデンゲート橋を渡るとマリン郡になる。このマリン郡に224ヘクタールの規模のレッドウッドの森が保全されているミュア・ウッズ国定公園がある。サンフランシスコという大都市からわずか19キロメートルしか離れていないとは思えない、静寂なる大木の森である。
1.5億年前までは、レッドウッドは全米中に存在していた。現在では、オレゴン州からサンフランシスコの南にあるモントレーまでの太平洋岸にしか生存していない。カリフォルニアに材木産業が興るまでは、8000キロ平米のレッドウッドの森が存在していたが、20世紀初頭にはほとんどのレッドウッドは伐採されてしまった。しかしこのミュアウッドにあったレッドウッドの森はアクセスが悪かったために、サンフランシスコという大都市に近接していながら伐採を免れた。レッドウッドが残っているという事実を知った国会議員であるウィリアム・ケントと夫人はこの森を保全するために、247ヘクタールのこの森をタマルペ土地・水会社から45000 ドルで購入した。
この森がある谷にダムをつくる計画が策定され、ケントの土地は強制収容されそうになったが、そこでケントは119ヘクタールを国に寄付することにした。そして、1908年にこの土地はセオドア・ルーズベルト大統領によって国定公園に指定された。私人の寄付した土地が国定公園になった最初の事例である。
ミュア・ウッズにあるレッドウッドの森は、平均樹齢が400〜800年であり、最古のものは1200年にもなる。 1937年に金門橋が架橋されると観光客は増え、同年の来訪者は18万人にまで及んだ。その後、来訪者は増え続け2005年には78万人になったが、2011年では90万人にも及んでいる。
キーワード:
都市公園,環境保全,自然保護,アイデンティティ
ミュア・ウッズ国定公園の保全の基本情報:
- 国/地域:アメリカ合衆国
- 州/県:カリフォルニア州
- 市町村:マリン郡
- 事業主体:国立公園局
- 事業主体の分類:国
- デザイナー、プランナー:William Kent, Elizabeth Kent
- 開業年:1908年(国立歴史地域としては2008年制定)
ロケーション:
都市の鍼治療としてのポイント:
サンフランシスコからゴールデンゲート・ブリッジを渡り、車で少し行ったところに、このミュア・ウッズ国定公園がある。この公園は、この土地を開発から守り、レッドウッドの森を保全するために購入し、そして連邦政府に1908年に寄付したケント夫妻が、アメリカの自然保護に大きな貢献を残したジョン・ミュアから、その名前を取った。
サンフランシスコはアメリカで四番目に大きな大都市圏を形成している。そのサンフランシスコからこんな近距離に、これだけの大自然が保護されていることにアメリカという国の懐の深さを思い知らされる。それは天からの恵みではあったかもしれないが、それをしっかりと保全してきた強い意志を今日まで引き継げたからこそ、現在でもこの大自然を保全することができている。
そして、それはサンフランシスコ、そして大都市圏の魅力を大幅に向上させることに寄与している。グーグル社、フェイスブック社といった現在、もっとも成長している企業がこぞってサンフランシスコ大都市圏に本社を構えたがるのは、クラスターとしてのメリットがあることはもちろんだが、都市としての圧倒的なアメニティの高さがあるからだ。
都市は開発をすれば価値をあげる訳ではない。文化的な歴史資源だけでなく、自然資源をしっかりと保全することで、都市の魅力を大幅に向上することができる。そして、その資源を保全するきっかけをつくったのはケント夫妻であったかもしれないが、その意志を引き継いできた地域住民なくしては、現在のミュア・ウッズ国定公園はなかったであろう。そして、ミュア・ウッズ国定公園は、隣接するゴールデンゲート・ナショナル・レクリエーション・エリアとともに自然が豊かなサンフランシスコ大都市圏の象徴にもなっている。
保全することで価値を生み出す「都市の鍼治療」であるといえよう。
類似事例:
210 ウエスト・ポンド
・ イグアス公園(クリチバ市、ブラジル)
・ 高尾国定公園(八王子市、東京都)
・ 箕面国定公園(箕面市、大阪府)
・ スタンリー・パーク(バンクーバー市、カナダ)
・ ブラジリア国立公園(ブラジリア市、ブラジル)
・ セントラル・パーク(ニューヨーク、アメリカ合衆国)
・ ロック・クリーク・パーク(ワシントンDC、アメリカ合衆国)