102 観塘工業文化公園 (香港特別行政区)
ストーリー:
香港の九龍東にある観塘地区では、啓徳空港の使用停止を契機とした大規模再開発計画(320ヘクタール)を策定、現在、それに基づいた開発が進展中である。同計画では九龍東は香港島の中環地区に次ぐ第二のビジネス・センターとして位置づけられ、そのために、ここで働く人々にとってアメニティの高い公共空間を提供する計画が立てられた。
そのような計画に基づき、観塘地区の中心にあったテニスコートなどのスポーツ施設があった場所は新たに観塘工業文化公園へと改修されることになった。スポーツ施設がつくられたのは、主にこの周辺の工場で働く従業員のためであったが、工場がオフィスに置き換わっていく中、そのような施設に対する需要は減少していくと予想され、一方で緑が多く、憩えるような公共空間への需要は高まっていくと考えられたからである。
この空間の香港市役所の改修案は単に公園として整備するだけでなく、この地区の工業的な歴史、アイデンティティを継承できるようなものを付加させるものであった。それは、前述した大規模再開発計画における都市デザイン・コンセプトである「創造精神」を具体化させることでもあった。この「創造精神」とは、従来の工業地区としての文化・伝統をしっかりと新しい九龍東地区にも引き継ぐことで、この地区のアイデンティティを未来にも継承し、歩行者主体の有機的な都市の創造発展を具体化させるためのコンセプトである。
具体的には展示スペースはコンテナでつくられ、パブリック・アートのインスタレーションは観塘地区の工業が発展してきた歴史を説明するようなものになっている。この新しい公園は、緑の空間を提供するだけでなく、博物館的な機能をも有しているのである。
この公園は決して広くはないが、その空間は多様な利用に対応できるように工夫されており、パフォーマンスやちょっとした運動などもできるようになっている。また、緑地部分が多く設けられているが、これは香港でも極めて高密度な観塘地区においては貴重な「都市の肺」としても機能することが期待される。展示スペースは2015年の香港のグッド・デザイン・アワードを受賞している。
キーワード:
広場,公園
観塘工業文化公園 の基本情報:
- 国/地域:香港特別行政区
- 州/県:香港特別行政区
- 市町村:観塘区
- 事業主体:香港市
- 事業主体の分類:自治体
- デザイナー、プランナー:香港市 (The Energizing Kowloon East Office)、Wang Weijen Architecture
- 開業年:2014年
ロケーション:
都市の鍼治療としてのポイント:
啓徳空港の使用停止を契機とした大規模再開発計画(320ヘクタール)、「起動九龍東(Energizing Kowloon East)」は、香港という都市の将来の命運を左右するほどの大規模なプロジェクトであり、そのための香港市の取り組みの意気込みは凄いものがある。そして、そのコンセプトは香港の中還地区に次ぐオフィス地区であるが、サブ・コンセプトとしては「歩きやすさ」、「モビリティ」、「緑のオフィス地区」「スマート・シティ」「社会経済活力」「創造精神」の6つをテーマとして掲げている。
開発のフレームワークはトップダウンの極めて大規模なものであるが、ヒューマン・スケールの足下や公共空間においては、積極的な市民参加、情報発信が為されている。特に、ここでとりあげた観塘工業文化公園は、「創造精神」のパイロット・プロジェクトとして位置づけられるために、この場所が抱える課題をデザインとして解決できるような工夫が多く為された。
それまであったアスファルト面のスポーツ施設は、それなりの需要はあったが、それよりも大きな課題である緑の圧倒的な不足、さらには産業転換によって、この土地の歴史が消されていく中、その記憶を継承する装置として、この空間は役割を担うべきであると捉えられた。そして、その結果、緑と共生する形での、展示スペースの設置ということになった。その建築空間は、この観塘地区にふさわしくコンテナという簡素なものであるが、逆に、その土地の声を読んだかのような空間づくりは、周辺の人々の親近感を抱かせ、公共空間として人々に支持されているようである。大規模な開発を成功させるためには、このような小さな「都市の鍼治療」的事業の積み重ねが必要であることを認識させるような事例である。
類似事例:
018 ダイアナ・メモリアル・ファウンテン
042 バターシー・スクエア
043 ラベット・パーク
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226 ハウザープラッド
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