096 カルチャーセンター・ディーポ、ドルトムント (ドイツ連邦共和国)
ストーリー:
カルチャーセンター・ディーポは、ドイツのルール地方にあるドルトムントの北部に位置するトラムの車両基地を改装した施設である。その車両基地は1915年につくられ運営されていたが、1973年に車庫としては使われなくなり、修理場として使われていたが1996年に閉鎖された。それは横に87メートル、奥行きは89メートルという巨大な1階建ての建物であり、デザインの鉄骨造の屋根が特徴となっており、1990年には、この建物はドルトムントのランドマーク建築物に指定されていた。
1995年に個人が「DEPOT e.V」という組織を設立する。これは美術家、工芸家、演出家、映像家などの集まりであり、車両倉庫を芸術と工芸センターへと改築することを計画して、実行することになった。その後1996年に、この事業はIBAエムシャーパークに含まれることになり、ノルドライン・ヴェストファーレン州都市開発局の予算が充てられ、段階的に改修は進んでいくことになった。1998年から改修工事が始まり、1999年末には最初のテナントが入れるようになる。そして2001年には「具体化されたサステイナブルな都市開発プロジェクト」の賞を受賞する。そして同年の9月から正式に開業することになる。
新しく入るテナントは自分達で空間を設計することになった。現在では、「DEPOT e.V」の30のメンバーが敷地内の店舗、ワークショップ、レストランに入居している。最大のテナントは「車両倉庫の中の劇場」。
このプロジェクトは歴史的建築物を保全しただけでなく、新たな雇用を創出し、また新しい芸術・工芸センターをドルトムントに供給することになったが、極めてコミュニティにとって価値のあったことは、ここが公共広場として機能することで、コミュニティの紐帯を強化する役割を果たしたことである。
キーワード:
産業遺産,集客装置
カルチャーセンター・ディーポ、ドルトムント の基本情報:
- 国/地域:ドイツ連邦共和国
- 州/県:ノルトライン・ヴェストファーレン州
- 市町村:ドルトムント市
- 事業主体:DEPOT e.V, IBAエムシャーパーク
- 事業主体の分類:民間 財団
- デザイナー、プランナー:Karl Pinno and Philipp Bachmann (1915)、DEPOT e.V(1995以降)
- 開業年:2001
ロケーション:
都市の鍼治療としてのポイント:
IBAエムシャーパークは工業地域としての長い歴史を有するルール地域を大胆に再生するきっかけを提供したプログラムで1989年から1998年まで実施された。そのプログラムでは、その後、世界遺産に指定されるエッセンのツォルフェライン(鍼治療事例no.009)やデュースブルクのランドシャフツ・パーク(鍼治療事例no.023)などが有名であるが、このドルトムントのカルチャーセンター・ディーポも規模はこれらの事例に比べると遙かに小規模であるが、小粒の山椒のようにぴりりと効く、なかなか優れた都市の鍼治療であると考えられる。
カルチャーセンター・ディーポはドルトムントの中央駅からトラムで北へ4駅ほどのところにある。そこはノルドシュタットという、ルール地方の衰退とともに多くの社会的問題が顕在化した地域である。そのような地域において、このカルチャーセンター・ディーポはこの地域のアイデンティティでもある歴史的な産業遺産建築物を保全すると同時に、雇用を創出し、何よりコミュニティが集まる広場的な空間を創造させることになる。トラムの車庫を見事に再生した素場らしい事例である。
また、このプロジェクトの改修は環境に優しい方法で行われた。8600?の屋根に降った雨水はすべて再利用されることになった。また太陽光パネルが設置されたのだが、それは光熱費を随分と下げることに貢献している。社会面でのサステイナビリティも意識されており、この改修工事の多くは長期の失業者でドルトムントのハローワーク(のような組織)に通っていた人達によって行われた。IBAエムシャーパークは、環境問題そして社会問題に対して強く意識をしていたのだが、カルチャーセンター・ディーポはこの二つの点でも多くの成果を生み出すことに成功した。
類似事例:
001 ガス・ワークス・パーク
013 ローウェル・ナショナル・ヒストリック・パーク
020 ニューラナークの再生
023 ランドシャフツ・パーク
065 シュピネライ