339 緑の接続(ハーレムヴェグーポピツヴェグ)(ドイツ連邦共和国)

339 緑の接続(ハーレムヴェグーポピツヴェグ)

339 緑の接続(ハーレムヴェグーポピツヴェグ)
339 緑の接続(ハーレムヴェグーポピツヴェグ)
339 緑の接続(ハーレムヴェグーポピツヴェグ)

339 緑の接続(ハーレムヴェグーポピツヴェグ)
339 緑の接続(ハーレムヴェグーポピツヴェグ)
339 緑の接続(ハーレムヴェグーポピツヴェグ)

ストーリー:

 ベルリンのシャーロッテンブルク・ヴィルメルスドルフ区にあるジーメンシュタットは、ドイツが誇る大企業ジーメンズが従業員のために建築した団地群が広がる近郊住宅地区である。戸建て住宅が一切ない、極めて計画的につくられた集合住宅から成る住宅地区であり、その一部モダニズム運動を推進したウォルター・グロピウスなどが設計した団地群は世界遺産「ベルリンのモダニズム集合住宅群」に登録されている。その地区を東西に走る地下鉄7号線の上部空間は、道路が整備されているが、ハーレムヴェグ駅を中心とするポピツヴェグ通りとジャコブ・カイザー・プラッツとを結ぶ東西900メートルほどの区間は自動車が通行できない緑道が計画時点から整備されていた。しかし、その緑道は必ずしも歩いて快適な歩行空間であるとはいえず、特に西側の450メートルの区間は今ひとつであり、団地からこの緑道へのアクセスも悪く、バリア・フリーにも対応していなかった。
 そこで、これを改善するために、2020年に連邦政府の「都市開発・サステイナブル・リニューアル(Stadtumbau und Nachhaltige Erneuerung)」プログラムの補助金事業として、ハーレムヴェグ駅の界隈の改善計画が策定されたのだが、この緑道も大幅にリニューアルされることとなった。事業計画は補助事業の開始に先行して2018年に策定され、3つのステージから構成された。その計画を策定するうえでは、丁寧な市民参加の方法論が採用された。その目的は、このコミュニティのアクセシビリティ、サステイナビリティ、そして市民の関わりを強化することであった。そして、市民参加で出てきた意見を反映して、子どもたちや若者達、そして高齢者達にスポーツやレジャーをする機会を提供することをも強く意識した。
 リニューアルをするうえでのコンセプトは「境界のない緑(Grün ohne Grenzen )」。ここでの「境界」は多くのことを意味しており、物理的にバリアフリーという境界も意味していれば、この周辺で生活する多様な民族の人達という社会的な境界も意味している。そして、この回廊に空間的アイデンティティをもたらすために、インスタレーション・アートが設置されている。これらのアートは長細い回廊状の空間を分節し、そこにキャラクターを持たせることに寄与している。そして、その名称を「緑の接続」とした。
 第一フェーズは、ハーレムヴェグの地下鉄駅からちょっと西側にいった場所のリフォームである。その面積は約4,570㎡。ここでは、3歳から12歳までの子どもたちの遊び場がつくられた。この遊び場は「遊ぶ森」というコンセプトのもとに、幼い児童のために、滑り台の家、砂場、シーソーなどの遊具が置いてある。そして、6歳から12歳の利用を想定した滑り台の塔やちょっとしたフィールド・アスレチック的な施設も備えてある。基本的にバリア・フリーを意識したデザインがされていて、また周辺に生息しているウサギに荒らされても大丈夫な草花で植栽がされている。この遊び場は2021年6月に開業した。
 第二フェーズはポピッツヴェグ通りと交差するハーレムヴェグの西側に当たり、そこではちょっとした野外のフィットネスなどができるような施設を設置した。加えて、コミュニティ・ガーデンも設置され、ここにはベンチなども置かれている。この場所は、すべての世代層に利用してもらうことを意図している。ここは2022年6月に完成した。
 そして、第三フェーズはハーレムヴェグ駅の地上にあたる部分でタウン・スクエアといったコミュニティが集う空間に自転車置き場、フットサル場などが設置された。そこには、花壇や木々も植えられてちょっとした憩いの空間になっている。その面積は200平方メートルと大きくはないが、地下鉄の駅に地域の人が集うような公共性を備えることで、駅の中心性を高めようと意図している。これらは2024年の春に完成した。
 この「緑の接続」は住民からは極めて高く評価されている。総合的にこのプロジェクトを評価すると、それはコミュニティを活性化させただけでなく、コミュニティのアイデンティティを強化させることに大きく寄与した。そして、この公共空間ができたことで、コミュニティのイベントなども開催させることができるようになって、人々の繋がりをつくることにも貢献している。

キーワード:

緑地,歩道

緑の接続(ハーレムヴェグーポピツヴェグ)の基本情報:

  • 国/地域:ドイツ連邦共和国
  • 州/県:ベルリン州
  • 市町村:ベルリン市
  • 事業主体:ベルリン市シャーロッテンブルク・ヴィルメルスドルフ区
  • 事業主体の分類:自治体 
  • デザイナー、プランナー:レヒナー・ランドスケープ・アーキテクト(Lechner Landschaftsarchitekten)
  • 開業年:2023年

ロケーション:

都市の鍼治療としてのポイント:

 このプロジェクトは私が2023年10月から2024年9月まで生活していたベルリンの住まいのすぐ目の前にあるプロジェクトだ。ベルリンに越してすぐ、この公共性の高い回廊状の公園のアメニティの高さに驚いた。そこで、早速、ベルリン市役所の担当部署に連絡をして、取材をさせてもらい、情報を提供してもらった。
 この事業は、ベルリンの中でも移民や低所得者が多く住む地区において、そこに住む人たちのための生活改善を意図して行われた。これらの人々は、行政からあまり面倒を見られていないといった気持ちを有していたが、そのような先入観を覆すような、デザイン性も高い公共空間がつくられた。また、市役所は北側のみの歩道を整備したのだが、この公園が具体化された後、南側の歩道を住宅会社が整備するなど、その優れた公共空間をより利用勝手のよいものにするために民間の協力も得ることができた。
 また、ここは上記のように移民が多く住む団地群によって構成されている地区という特徴から、コミュニティ性が弱いという問題を有していたが、この公共空間がつくられてからは、ここで住民対象のイベントが頻繁に開催されるようになったり、コミュニティ・ガーデンが設けられたりしたことなどからコミュニティの紐帯が強化されている。筆者も、このイベントに一度、参加して連絡先を提供したら、頻繁にこのイベントの誘いがメイルで来るようになった。こういう気楽に参加できるイベントが開催できるのも、人々の親しまれる公共性の高い空間が整備されたからであると考えられる。
 連邦政府の予算が取れたから実施された事業であり、その予算が取れないと中断するという、あまり持続的なスキームではないという点が問題で、西半分はできても東半分の事業は現時点では計画されていない。とはいえ、この西半分で具体化されたアメニティの高い公園は、そこに住む人々の生活満足度を多いに向上させることに貢献し、また社会から疎外されているという気持ちを抱きがちな移民達に、ベルリン市への愛着心とシビック・プライドのようなものを醸成させることに成功したと考えられる。

【取材協力】
Renate Bartsch, Sebastian Standke (ベルリン市役所)

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