321 クリスタル・ウォーター(オーストラリア)

321 クリスタル・ウォーター

321 クリスタル・ウォーター
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321 クリスタル・ウォーター
321 クリスタル・ウォーター
321 クリスタル・ウォーター

ストーリー:

 世界的に知られるパーマカルチャー・ビレッジであるクリスタル・ウォーターは、オーストラリアのブリスベーンから90分ほどの距離にある、サンシャイン・コーストの海岸山地の山間にある。このヴィレッジでは、環境的にも社会的にも責任をもちつつ、経済的にも活力のあるサステイナブルな生き方を模索している。マックス・リンデガー、バリー・グッドマンを始めとして、ロバート・タップ、ジェッフ・ヤングらによってクリスタル・ウォーターをつくる事業が1985年から開始され、1987年に設計、1988年に計画は完成した。
 敷地面積は259ヘクタール。その2割の土地が83世帯の住居と2つの商業用地として使用されている。つまり、8割は共有地である。このコモンの比率の高さは、クリスタル・ウォーターの大きな特徴である。サステイナブルなビレッジにおいてはコミュニティ性が重要であることを、しっかりと理解しているからだ。
 それ以外にクリスタル・ウォーターのデザイン上の目的を挙げると、次の6つになる。
1) きれいな空気、水、そして土(その結果、食糧)
2) 信条の自由の確保
3) すべての住民にとって意味のある活動を補償する
4) 健康的で安全なレクリエーションの場を創造する
5) 社会的交歓を促進すること
6) 健康的な住居環境をつくること
 これらの目的を達成することを念頭にクリスタル・ウォーターのエコビレッジはつくられ始めた。まず、土地計画に関してだが、最良の土地は農地として使用されることにした。そして斜面が急な土地は森林、レクリエーション、動植物のハビタットとして位置づけた。
 人のための土地は3つのゾーンに分けられた。1つめのゾーンはパブリックな用途のための土地で、玄関口に位置する。ここには情報センターやマーケットなどが置かれている。2つめのゾーンは、訪問者用のキャンプ場やトレーニング・センターが置かれており、短期間の滞在のための施設などが置かれている。3つめはここで生活する人達の住宅や農地などが配置される。
 また「職住一致」を目指している。これは、エネルギーを節約するという観点からである。現在では、多くの仕事がクリスタル・ウォーターで営まれているが、人を雇用する必要が生じた場合は、クリスタル・ウォーターの住民をなるべく雇うように工夫している。
 敷地計画をするうえで最初に考えたのは、雨水が雨季にどのように流れていくかということと、霜の程度、温暖な丘陵地と冷涼なスポットがどこにあるかということであった。温暖な丘陵地と冷涼なスポットはベスト・スポットであり、それらはある個人が専用するのではなく、住民すべてが便益を得られるために共有地として位置づけた。敷地計画をしたものは、住民達に「クリスタル・ウォーターの開発コンセプト」と「クリスタル・ウォーターの住民マニュアル」という二つの報告書を渡し、クリスタル・ウォーターで環境への不可を低くして生活するための指針を理解してもらえるようにした。クリスタル・ウォーターを開発するうえでは、銀行等から一切お金を借りずに、ここで生活したい人達の出資によって費用を捻出した。
 ここで生活している人達は、多くが自給自足を実現させている。食料はここで採れるし、また建物に必要な木材もここで入手できる。燃料と金属は、ある程度は代替することができるが、現時点では外部の資源に依存しなくてはならない。輸入をするということは、それを可能とするために輸出をしなくてはならないということである。そのために果物や野菜、知識、技術、経験を外部に「売って」いる。
 クリスタル・ウォーターでは投資家を拒絶している。幾つかの投資家が複数のロットの購入を希望してきた。当時のクリスタル・ウォーターは喉から手が出るほど資金を必要としたが、それを拒んだのである。この理由は、クリスタル・ウォーターには人が必要であるからだ。人がコミュニティをつくり、投資家は土地を購入してもクリスタル・ウォーターには住まないし、クリスタル・ウォーターのコミュニティ活動に参画しないことが明らかであったからである。
 このようにエコロジカル・ビレッジとしての特徴をいろいろと活かし、またその実現に多くの工夫を凝らしているクリスタル・ウォーターであるが、その根源的なコンセプトはパーマカルチャーを実践するということだ。クリスタル・ウォーターの創始者の一人であるバリー・グッドマンは以下のよう述べている。「パーマカルチャーは教義ではないが、しっかりとした理念は有している。パーマカルチャーは個人的な見解ではなく、今までの多くの先達の考えを引き継ぐものである。そして、パーマカルチャーは地域的なものではなく、地球規模に通じる理念である。パーマカルチャーはまた、静的なものではなく、常に変化していくものである。また、パーマカルチャーは自然回帰ではなく、自然のシステムを活用したものである。パーマカルチャーは有機農業だけでなく、それを包含するものである。そして、パーマカルチャーは起きるものではなく、デザインするものである」。
 クリスタル・ウォーターがつくられて30年以上経っている。その創設者達も現役を退くような形で二代目がその運営を引き継ぐようになっている。クリスタル・ウォーターには、都会で生活しているものが渇望している自然との生活、そして環境負荷の低い生活の実践が可能であることを教えてくれる。環境問題が悪化していく一方である現在の社会システムのオルターナティブとして、クリスタル・ウォーターが我々に与えてくれる希望は大きい。

キーワード:

パーマカルチャー,生物多様性,食糧自給

クリスタル・ウォーターの基本情報:

  • 国/地域:オーストラリア
  • 州/県:クイーンズランド州
  • 市町村:コノンデール
  • 事業主体:Crystal Water Co-op
  • 事業主体の分類:市民団体
  • デザイナー、プランナー:マックス・リンデガー(Max Lindegger) 他
  • 開業年:1988年

ロケーション:

都市の鍼治療としてのポイント:

 クリスタル・ウォーターは1996年に国連のハビタット賞を受賞した、パーマカルチャーを実践しているエコビレッジである。パーマカルチャーとは、人間にとっての恒久的持続可能な環境をつくり出すためのデザイン体系のことである。それは,パーマネント(permanent 永久の)とアグリカルチャー(agriculture 農業)を合わせた縮約形だ。パーマカルチャーは,植物や動物の固有の資質とその場所や建造物の自然的特徴を活かして、都市部にも田舎にも生命を支えていけるシステムをつくり出していくことを目的としている。それは生態学的モデルにもとづいたものではあるが、「耕された」生態系(cultivated ecology)をつくり出そうとしている。
 そして、その理念は次の3つの重要な点を強調している。
1. 地球のことを配慮する。
2. 人間のことを配慮する。
3. 我々のニーズより多いものは配分する。
 パーマカルチャーとは、効率的そして生産的な土地利用をしつつ、環境へも配慮したデザインであると同時に、動植物の多様性や、エコシステムの複雑さから得られた知識を活かして、サステイナブルな生き方を創造しようとするものである。
 そして、クリスタル・ウォーターではそのような理念を具体化させるために、実際の敷地デザインにおいては、次の点に特に留意した。
1. 水のバランスを維持するようにした。水の質および量が、クリスタル・ウォーターの生活によって影響を受けないように配慮した。
2. 17の貯水池をつくったが、それは次の役割を果たしている。
(ア) 空間のエッジを創出した
(イ) 丘と丘の間の交通路を提供した
(ウ) 気候を緩和させ、レクリエーションの機会を提供した
(エ) 美しい景観を創造した
(オ) 動植物のためのハビタットを創出した
(カ) 雨水の流出をここで貯水することで、大量の水が短時間で川へ流れ出ることがないようにした
(キ) 緊急時での水を確保した
3. 再利用とリサイクルの徹底。特にトイレ関係では徹底するように努力がされている。そして、これを資源として活用するよう工夫を考えている。
4. 森林に関しては、長期的な視点から維持していくような考えに基づいて管理がなされている。厳しい気候を緩和させること、そして動物達にハビタットを提供することなど、木材としての管理以外の側面も重視されている。
5. 住宅は建材にリサイクルできるものが使われている。また、太陽光エネルギーを使うよう工夫がされている。
 これら以外にも、動植物のハビタットを守るために、住民は犬や猫といったペットを飼えないといったルールがある。これによって、クリスタル・ウォーターは豊かな野生動物と人間の共生が実現されている。クリスタル・ウォーターで生活する野生動物としては、コアラ、カンガルー、カモノハシ、ワラビー、フクロネズミ、ハリモグラ、フクロウサギ(バンディクート)、ディンゴ(野生の犬)などがいる。また、鳥類や蛙などの両生類も希少な種類がここクリスタル・ウォーターを棲いとしている。
 最近、持続可能な開発目標(SDGs)が注目されているが、クリスタル・ウォーターはもう35年以上も前からそれを実践している。もちろん、規模はとてつもなく小さいかもしれないが、コミュニティとして実践できている。何か、頭でチマチマとサステイナブル・デザインとかを観念的に考えているよりかは実践してしまった方がずっといいのではないか、と思う。私も、これまで大学生を連れて、ここで二週間ほど過ごしたことが何回かある。ここでの生活で何しろ驚くのは食事が美味しいことである。あと、野生動物達が、人間が近づいても逃げないことである。
 また、新しいヴィレッジなんてつくれないよ、と思う人も多いだろう。「都市の鍼治療」にしては事業が大きすぎるだろう、と思う人もいるだろう。しかし、このクリスタル・ウォーターをつくった人達は理想を持った若者達で、お金を持っていた訳ではない。そこにあったのは「情熱」と自分達の情熱を実践させるための「知識」であった。我々が求められているのは、これまでの社会システムから一歩踏み出すための勇気なのではないだろうか。観念でサステイナビリティを捉えていても、それでは社会は変わらない。実践が伴って初めて、その将来像が見えてくる。

【参考資料】
服部圭郎(2006)『サステイナブルな未来をデザインする知恵』鹿島出版会

【取材協力】
バリー・グッドマン、マックス・リンデガー等

類似事例:

089 ヴィレッジ・ホームズ
093 ハバナの都市有機農業
186 プリンツェシンネン菜園
・ レインボーファーム、マタカナ(ニュージーランド)
・ コタレ・ヴィレッジ、ホークス・アイ(ニュージーランド)
・ パーマカルチャー・センター・ジャパン、藤野町(神奈川県)
・ クラインガルテン博物館、ライプツィヒ(ドイツ)
・ ガーデン・パッチ、バークレイ(カリフォルニア州、アメリカ合衆国)
・ トッドモーデン、ヨークシャー(イギリス)
・ コリングウッド・チルドレンズ・ファーム、メルボルン(オーストラリア)
・ イサカのエコビレッジ、イサカ(ニューヨーク州、アメリカ合衆国)
・ サウス・セントラル・ファーム、ロスアンジェルス(カリフォルニア州、アメリカ合衆国)