299 オールド・パサデナ(アメリカ合衆国)

299 オールド・パサデナ

299 オールド・パサデナ
299 オールド・パサデナ
299 オールド・パサデナ

299 オールド・パサデナ
299 オールド・パサデナ
299 オールド・パサデナ

ストーリー:

 パサデナは、ロサンゼルスの中心から車で20分ほどのところにある人口10万人の都市である。ロサンゼルス郊外では珍しく歴史のある都市だが、ここのダウンタウンも、アメリカの大中都市のご多分に漏れず、第二次世界大戦後は衰退して行き、歴史ある街並みが解体されつつあった。
 パサデナ市の都心部は1870年代にフェア・オークス・アベニューとコロラド・アベニューの交差点を中心としてつくられた。それは、パサデナ市で最初につくられた繁華街でもあり、まさに都市の中心であった。開発された当初はヴィクトリア様式であったが、自動車の普及とともに1929年に道路を拡幅し、その時、ヴィクトリア様式からアール・デコのスタイルへと変化する。しかし、道路拡幅をした1930年代から1970年代までにパサデナ地区は徐々に衰退していき、その状況を改善するために1980年にオールド・パサデナはパサデナ市の憲章にて、歴史地区として指定される。これは、人々がパサデナ都心部を見る意識を変えることに繋がった。それまでは、ただ治安が悪くて、古くて汚い建物が並ぶような場所と思われて、人々に敬遠されつつあった地区だったのだが、そこに歴史的な価値があることを再認識させることになったからだ。また、歴史地区の指定によって、しっかりと管轄された再開発が、連邦政府のインセンティブのもとで遂行されることが可能になった。そして、当地区におけるすべての建物の修復においては、市の委員会が建設材料、色彩、スタイルが1925年から1940年の期間のものを反映させているかをチェックして認可制とした。これらの試みが評価され、1983年にはオールド・パサデナ歴史地区は、アメリカ合衆国国家歴史登録財に指定された。それは、カリフォルニア州という、白人層からすると歴史が浅い地域において、貴重な歴史あるパサデナ市の都心部のアイデンティティを強化させる事業でもあった。
 さらに、大きな転換点となったのが1993年から都心部のパーキング・メーターの収入を公共空間の改善の原資とするようにしてからだ。パサデナ市が都心部に道路にパーキング・メーターを設置することに対しては、地元の商業主からは強い反対が生じた。それまでは無料で道路駐車できていたのに、有料になってしまうことで客足が遠のくと思われたのだ。しかし、パサデナ市がそこで得られた収入はオールド・パサデナ地区にすべて還元することを約束すると商業主の意見は翻り、これを支持することになった。
 パサデナ市は、オールド・パサデナ・ステークホルダーというパブリック・プライベート・パートナーシップを設置し、再開発と経済開発を官民が足並みを揃えて事業を実施した。それは、歴史的町並みの価値を維持しつつ、いかにそれを活用して経済的なメリットを生み出すかという事業である。
 2000年にはオールド・パサデナ・ステークホルダーから派生してBusiness Improvement District(いわゆるBID)であるOld Pasadena Management Districtも設立された。それは、オールド・パサデナ地区をユニーク、オーセンティック、そして賑わいのある都心体験ができる場所として企画、開発、運営することを目的とした組織である。同組織はパサデナ市と契約を結んでおり、同地区の治安、維持管理、マーケティングの仕事を遂行している。その財源は商業地主からの税金である。
 加えて2003年には都心部とメトロL線と結ぶことになり、公共交通による利便性が改善された。また、周辺には住宅も建設されるようになっている。現在のオールド・パサデナ地区はミックス・ユース地区であり、小売り店舗、ビジネス、さらには住宅などが立地している。20ブロック、28.2万平米におよぶ商業床面積には、ショッピング・モールから小洒落たレストラン、映画館、ナイトクラブ、カフェ、コメディー劇場などが立地しており、そこが40年以上前はスラムのような状況であったとはちょっと想像できないような賑わいぶりだ。
 このような試みから、オールド・パサデナ地区は「偉大なアメリカのメイン・ストリート賞」(1995)、「ダウンタウン成果賞」(1995)、「スカイライン賞」(1998)などを受賞している。

キーワード:

商店街活性化,官民連携,パーキング・メーター,BID

オールド・パサデナの基本情報:

  • 国/地域:アメリカ合衆国
  • 州/県:カリフォルニア州
  • 市町村:パサデナ市
  • 事業主体:パサデナ市、オールド・パサデナ管理地区
  • 事業主体の分類:自治体 民間
  • デザイナー、プランナー:N/A
  • 開業年:1980年(歴史地区指定)、1993年(パーキング・メーターを設置)

ロケーション:

都市の鍼治療としてのポイント:

 パサデナ市はロスアンジェルスがまだ路面電車王国であった頃(信じられないが、アメリカの都市で最大の路面電車ネットワークを擁していた)から、郊外の住宅地として開発された。ロスアンジェルスで最初のフリーウェイが通ったのもこのパサデナとダウンタウンを結ぶものであった。パサデナは20世紀初頭を風靡したメイベックやグリーン&グリーンが設計した邸宅が並ぶ高級住宅地と低所得者層の住宅地が立地するダウンタウンがともに存在するロスアンジェルスでは珍しい郊外都市であった。
 したがって、ダウンタウンは高額所得者層という「おいしい」顧客が近くにいるにも関わらず、スラム的なイメージを持たれ、活性化できずにいた。また、パサデナはロスアンジェルスでは珍しく歴史があるので、歴史コンプレックスの固まりであるロスアンジェルスの人々にとっては、本来的には魅力ある空間であった。そのような資源を活かす方向性で、アーバン・リニューアルを試み、大きな成果をもたらしたのが、このオールド・パサデナ地区の歴史的町並みを活かした再生事業である。それは、その後に続く、ボトムアップ的な都心再生事業のまさにさきがけであった。
 極めて私事であるのだが、1975年から1976年までの二年間、パサデナ市の南にあるサウス・パサデナ市にて過ごした。パサデナ市のオールド・パサデナ地区は親と車に乗せてもらい二度ほど行ったことがある。そこには、当時は珍しかった日本料理を出すレストランがあったからだ。しかし、その時は駐車場からお店まで歩いて行くのにも緊張するような雰囲気であり、周辺も衰退した雰囲気に覆われていた。このような実体験があったため、1990年代にこのオールド・パサデナ地区が再び賑わいを取り戻したことには驚嘆したことを覚えている。プロジェクトのビフォア、アフターをしっかりと体験できた点では個人的には極めて貴重な事例である。歴史的な街の資源をしっかりとお墨付きをつけ、その保全の正当性を獲得し、さらには地区改善の原資を駐車メーターによって確保したという極めてクレバーなプロジェクトであると思われる。
 
【参考資料】
ストリートブログのWebサイト
https://la.streetsblog.org/2016/04/13/l-a-moves-toward-returning-parking-meter-revenue-to-neighborhoods/

パサデナ市のWebサイト
https://www.cityofpasadena.net/

ロスアンジェルス・タイムスの記事(1998年10月20日)
https://www.latimes.com/archives/la-xpm-1998-oct-20-fi-34270-story.html

類似事例:

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