246 那須街道の赤松林(日本)

246 那須街道の赤松林

246 那須街道の赤松林
246 那須街道の赤松林
246 那須街道の赤松林

246 那須街道の赤松林
246 那須街道の赤松林
246 那須街道の赤松林

ストーリー:

JR黒磯駅から数百メートルほど北上し、那珂川を晩翠橋で越えると県道17号との交差点がある。この交差点から県道17号を那須岳の方へ向かうと両側には見事な赤松の林が広がる。その長さ、約2キロメートル。自動車でそこを走行すると、まるで高速道路のように沿道には店舗も看板もない。しかも、単なる並木道ではなく、森としての奥行きのある空間が広がる。まるでアメリカのパークウェイのように、その道路を走ること自体が喜びとなるような体験を得ることができる。
 この森は1901年に旧宮内省の御料林となり、1947年に林野庁所管の国有林に所管換えされた。御料林は165ヘクタールあったが、第二次世界大戦後、全域の開墾が計画される。しかし、那須街道沿いの79ヘクタールは風致の維持のために保全されることとなる。そして、道路と一体に管理された国有保安林として指定され、さらに那須街道沿いは1950年に日光国立公園に指定された。国立公園に指定されたのは、道路から100メートルの区間のみであるが、赤松林は道路の南側には広範囲に広がっており、その本数は約14,000本であり天然林である。国立公園の指定としては「第2種特別地域」となっており、沿道の土地開発は自然公園法と那須町や栃木県の条例の規制を受ける。具体的には「那須町景観条例」、「那須町屋外広告物条例」、「那須町土地開発指導要綱」、「とちぎふるさと街道景観条例(栃木県条例)」、「森林法」である。
 赤松林は広葉樹も混在しており、栃木県の鳥獣保護区としても指定され、オオタカをはじめとした野鳥が生息しており、黒磯駅から1キロメートルも離れておらず、市街化が進んでいる地区において、極めて貴重な自然と生態系を維持することに成功している。
 昭和天皇は、毎夏、那須の御用邸で静養されるのが恒例であったが、那須街道の赤松林を大切に思われていたそうである。昭和天皇は、御著書「那須の植物誌」の中で、みごとなアカマツ林であり、国有林であったため今日まで保存されてきた、とお記しになられている。そのような思いが、この長細い道路沿いの国立公園指定に繋がったとしたら国民にとっては有り難いことである。

キーワード:

国立公園, 自然保護, 景観保護

那須街道の赤松林の基本情報:

  • 国/地域:日本
  • 州/県:栃木県
  • 市町村:那須町
  • 事業主体:林野庁
  • 事業主体の分類:
  • デザイナー、プランナー:N/A
  • 開業年:1950(国立公園指定年)

ロケーション:

都市の鍼治療としてのポイント:

 アメリカの道路にはパークウェイという制度がある。その最初のものはアメリカのランドスケープの父と呼ばれるフレデリック・ロー・オルムステッドとカルバート・ヴォーによって19世紀に計画され、つくられたニューヨーク市のブルックリン区のイースタン・パークウェイであった。これは、都心部と郊外公園とを結び、歩行者、自転車、乗馬、馬車(まだ当時は自動車は実用化されていなかった)の動線を分離し、周辺の美しい景観の中を移動することを楽しむことを目的とするものであった。「パークウェイ」という名称は彼らによってつくられた。その後、自動車が普及された後も、中央分離帯などを含めて沿道に植栽を施したパークウェイは多くつくられていった。多くのパークウェイはトラックなどの走行を禁止している。
 このパークウェイは自動車でのドライブ自体を楽しませるという目的もあるが、一方で沿道の開発は抑制されるために、道路沿いの乱開発を防ぐという効果もある。その結果、自動車が走行するが、自然環境がある程度、守られることにも繋がる。それは、日本のようにバイパスを始めとした交通量の多い道路沿いに全国チェーンの小売店舗が醜悪に立地するような状況下では、良好な景観をつくるために有効な手段ではないかと思われる。
 そのような仮説に説得力をもたしてくれるのが、栃木県道17号の那須街道の赤松林である。晩翠橋から東北高速道路の那須インターチェンジ手前までの2キロメートル強の見事な赤松林の中を走り抜けるドライブは気持ちがよい。まさにアメリカのパークウェイを走っているような体験をすることができる。この国立公園指定は、まるで鼠の尻尾のように那須岳のある地区から細く県道沿いに延びている。道路からちょっと離れると、ごく普通の田園風景が広がる。それどころか、那須インターチェンジを越えると、沿道沿いは観光客相手のレストランやらコンビニエンス・ストアなどが立地し始める。同じ、国立公園であり、「第2種特別地域」指定であるにも関わらず、土地利用面では大きな差がある。その違いの要因は、晩翠橋から那須インターチェンジまでの区間は多くが国有地であり、林野庁が管理しているから、必然的に開発されず保存されているからだ。那須インターチェンジ以北では、沿道のほとんどが民有地であり、自然公園法の適用は受けているが、住宅や店舗等を建築することは可能である。とはいえ、このコントラストは強烈だ。現状でも相当の規制がかけられているが、人々の記憶に残るような道路景観を形成するうえでは、沿道の土地の公有化がもっと積極的に図られる必要性があるのではとの考えもよぎる。
 これに加えて、国立公園指定はされていないが、晩翠橋の周辺で那珂川と県道とに挟まった国有林の地区は、「森林浴一万歩の森」として外周6.5キロメートルのハイキング・コースが整備されている。このコースはウッドチップで舗装されていて、赤松林の中の爽快なウォーキングを楽しむことができる。

【参考資料】
林野庁の資料
https://www.rinya.maff.go.jp/kanto/enna/invitation/pdf/101pamphlet2014.pdf

類似事例:

・ イースタン・パークウェイ、ニューヨーク市(ニューヨーク州、アメリカ合衆国)
・ スカイライン・ドライブ、シェナンドー・ナショナル・パークウェイ国立公園(バージニア州、アメリカ合衆国)
・ レッドウッド・ハイウェイ、レッドウッド国立公園(カリフォルニア州、アメリカ合衆国)
・ プレシディオ通り、サンフランシスコ市(カリフォルニア州、アメリカ合衆国)
・ コモンウェルス・アヴェニュー、ボストン市(マサチューセッツ州、アメリカ合衆国)