169 ジュビリー・ウォーク(シンガポール共和国)
ストーリー:
ジュビリー・ウォークは、シンガポールの建国50周年を祝して整備された延長8キロメートルの歩道である。この歩道は、フォート・カニングの丘、シンガポール川、行政地区、マリーナ・ベイといったシンガポールの過去、現在、将来の物語を象徴するような23のランドマークを結んでおり、ここを歩くことでシンガポールという都市国家を形成した人々やコミュニティの営みが理解でき、その都市形成の歴史を学習できるように意図されている。
ジュビリー・ウォークは2015年に開業した。それは独立50周年という慶事を未来にまで伝える装置でもあり、それをつくるうえでは文化・コミュニティ・青年庁、国家遺産委員会、国立公園局、都市再開発庁などが協働して取り組んだ。
ジュビリー・ウォークは国立博物館を始点として、その後、シンガポール川沿いを通り、シンガポール議会、エンプレス・パレースのある行政地区を縦断する。そして、前市役所前と最高裁判所を通り、ジュビリー橋へと繋がる。ジュビリー橋も、ジュビリー・ウォークのプロジェクトの一環として整備された。このウォーターフロント沿いの地区はエスパラナーデ公園の一画を成している。
ジュビリー橋を渡ると、シンガポールのランドマークであるマーライオンが鎮座しているマーライオン公園に着く。ジュビリー橋を戻ると、そこはエスパラナーデ劇場がある文化的空間で、さらに進むと21世紀以降に開発されたガーデンズ・バイ・ザ・ベイに至る。
ジュビリー・ウォーク沿いには、それぞれのスポットの解説版が設置されており、シンガポールの、短いかもしれないが豊かなストーリーを知ることができる。
キーワード:
アイデンティティ, 観光ルート, ランドマーク
ジュビリー・ウォークの基本情報:
- 国/地域:シンガポール共和国
- 州/県:シンガポール
- 市町村:シンガポール市
- 事業主体:シンガポール市
- 事業主体の分類:自治体
- デザイナー、プランナー:Lee Hsien Loongなど
- 開業年:2015年
ロケーション:
都市の鍼治療としてのポイント:
シンガポールの台頭は著しい。一人当たりのGDPは5万ドルを超え、これは日本のそれよりも多い。アジアの金融拠点として、また港湾・空港を核とした国際加工基地として、その経済的プレゼンスは大きい。さて、しかし、経済的な豊かさがシンガポールの都市としての魅力へと繋がっていない。これは、都市の歴史が浅く、都市としての物語を紡ぐコンテンツが圧倒的に少ないからである。
そういう背景もあり、シンガポールは都市としてのストーリーをなかば都市デザイン的につくろうとしている。それは、都市という仏像に魂を入れるような行為とも取れるであろう。そして、そのような試みとして、このジュビリー・ウォークは極めて効果的であるかと思う。人はジュビリー・ウォークに沿って、シンガポールの都市を練り歩いていくうちに、シンガポールという都市を形成するうえで重要な役割を果たした建築、空間を知ることになり、シンガポールという都市像の輪郭を描くことができる。
イメージが弱い都市や、インバウンド観光客が増えてその動線を誘導する必要性がある都市などは是非とも参考にすべき好事例であると考えられる。
【参考資料】
国会遺産委員会のホームページ(https://www.nhb.gov.sg)
類似事例:
010 ゴー・ゴー・ゴリラス
090 デッサウ「赤い糸」
295 象の鼻パーク
・ ジュビリー・ウォークウェイ、ロンドン市(イギリス)
・ ジュビリー・グリーンウェイ、ロンドン市(イギリス)
・ ドクメンタ(カッセル、ドイツ)