088 ジズコフ駅の再生プロジェクト (チェコ共和国)

088 ジズコフ駅の再生プロジェクト

088 ジズコフ駅の再生プロジェクト
088 ジズコフ駅の再生プロジェクト
088 ジズコフ駅の再生プロジェクト

088 ジズコフ駅の再生プロジェクト
088 ジズコフ駅の再生プロジェクト
088 ジズコフ駅の再生プロジェクト

ストーリー:

 プラハの貨物駅であるジズコフ駅は1930年代につくられ、1936年から2002年まで操業されていた。それは主に食料品そして石炭の積み卸しに使われていた。このモダニズムの合理性を体現した鉄筋コンクリートの建物は、カレル・カイファスとウラジミール・ヴァイスによって設計された。
 2002年に、この貨物駅は閉鎖され、350メートルに及ぶプラットフォームと線路、そして荷物の上げ下ろしのエレベーターが残された。この貨物駅の跡地利用に関しては、閉鎖されてから随分と議論がなされてきた。
 閉鎖された直後は、周辺の業者の倉庫としてリースされた。そして、それを倒壊する再開発計画が構想されるのだが、緑の党の若い政治家であり、隣接したPrague 3の区議会委員であったMatej Stropnickyが、「ここは開発業者のための場所ではない」と主張し、それの保全運動を展開し始める。
 そして、この運動が功を奏し、2010 年に文化省は、この建物は国家文化モニュメントの候補であることを発表し、この建物の歴史的価値は議論を待たないとその保全を強く主張する。
 この発表に対しては、この建物の所有者であるジズコフ駅開発会社からは反対が起きる。この開発会社はセキラ・グループとチェコ鉄道によって所有されており、ここに新しく15000人が居住する住宅群を開発したいと考えていたからである。それを受けて、ジリ・ベッサー文化大臣が、保全の政策を反古にし、また、法廷にその判断を委ねることにしたのである。
 その結果、ジズコフ駅は機能主義の建築として非常にいい状態で保全されている希有な事例であると判断されたのである。このようにして、ジズコフ駅は2013年3月に、その歴史的、建築的、そして技術史的な重要性から、国家文化モニュメントとして指定される。その後、2013年6月にはプラハ・ビエンナーレの展示会場として使われ、同年の10月にはデザイン関連のイベント会場となった。
 この特別な空間を保全したことは、プラハのジズコフ地区にとっては、そのアイデンティティの保全に成功しただけでなく、新たな創造的な劇場空間、映像空間などを提供することになる。現在、ここへの訪問者数は一日当たり300人程度と少数であるが、この数はイベントがある時は膨れあがる。

キーワード:

産業遺産,アイデンティティ

ジズコフ駅の再生プロジェクト の基本情報:

  • 国/地域:チェコ共和国
  • 州/県:プラハ市
  • 市町村:プラハ、ジズコフ地区
  • 事業主体:Sekyra group(チェコ鉄道)
  • 事業主体の分類:自治体 
  • デザイナー、プランナー:カレル・カイファスとウラジミール・ヴァイス(設計)、Matej Stropnicky(保存案)
  • 開業年:2013年(再生プロジェクトの開始年)

ロケーション:

都市の鍼治療としてのポイント:

 世界遺産のプラハの中心市街地から西へ向い、丘を登った高台にジズコフ駅はある。平日の夕方に訪れたのだが、入り口はまったく分からない。いや、チェコ語が読めれば、そこが入り口だと気づくのかもしれないが、地図を持っていても入ることを躊躇させる。いかにも観光客然としたカップルが、私が入り口かなと思っていたところを入っていくので、彼らについていったが、彼らがいなければ入れなかったかもしれない。
 ジズコフ駅は巨大な建物であり、さらに横に長い「コ」の字型をしているので、中の状況は外からはまったく分からない。建物の外観は建築史に興味がなければ、それほど惹きつけるものではないだろう。
 しかし、実際の操車場の中に入ると、そのイメージは一変する。無骨で巨大な産業建築の中に、お洒落なお花畑やバーなどがある。私が訪れた時は、ランドスケープの展示がされていたが、それを眺めながらゆったりと産業遺産の巨大な構造物の中でビールを飲むのは、なかなかの空間体験である。廃墟好きにはたまらないであろう。
 このプロジェクトの特筆すべきところは、20世紀初頭の産業遺産を保全することに成功しただけでなく、そのプロセスが1989年にチェコが民主主義国家になって、おそらく初めて、民主主義的な過程で、開発計画が構想されたということである。それまでは経済的価値が何よりも優先されていたのだが、このプロジェクトでは生活の質の方が重要であると判断された。この産業建物を保全したことは、この地区の歴史を次代に継承することに繋がる。その点からも、この保全プロジェクトは地区にとって大きな益をもたらすことになったと考えられる。

類似事例:

001 ガス・ワークス・パーク
009 ツォルフェライン
020 ニューラナークの再生
023 ランドシャフツ・パーク
181 門司港駅の改修と広場の再生
199 ユニオン・ステーションの再生事業
209 ノルドシュテーン・パーク
317 ウッチのEC1科学・技術センター
・富岡製糸場、富岡市(群馬県)
・軍艦島、長崎市(長崎県)
・オストラヴァの旧工場地区の再生、オストラヴァ(チェコ)
・ハーバー・アイランド、ザーブルッケン(ドイツ)
・赤煉瓦、横浜市(日本)