084 ランブラス(スペイン)

084 ランブラス

084 ランブラス
084 ランブラス
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084 ランブラス
084 ランブラス
084 ランブラス

ストーリー:

 ランブラスはバルセロナを代表する歩行者が主人公の並木道である。旧市街地に位置し、カタルーニャ広場から、海辺沿いにあるコロンブスの塔を結んでいる。その距離は1.2キロメートル。さらに、1992年のオリンピック以後、この塔から旧港の埠頭の先端まで延長した部分が1994年につくられた。
 バルセロナは18世紀末には人口は10万人を越えた。人口密度は極めて高く、人々は過密で劣悪な生活環境への不満を募らせていた。そのため、反乱を警戒したスペイン中央政府は、市壁沿いの雑踏一掃を着手したのである。そして、囲壁内を城内と城外に二分した第ニ市壁を徐々に取り壊していった。その市壁の跡地をバルセロナの目抜き通りにすることを計画したのは、軍事土木技師セルメニョであった。彼は、建物の影に人が身を隠せないようしっかりと監視ができるように、目抜き通り沿いの両側の建物を一直線に並べるようにした。これは近代都市計画的手法で整備された最初の街路であった。そして、市壁沿いに立派な大通り、ランブラスが生まれたのである。
 現在、ランブラスは端ではなく、バルセロナの繁華街の中心となっている。常に通りには人が溢れており、その通り沿いにはリセウ大劇場、ボカリア広場(サン・ジュゼップ市場)、レイアール広場などバルセロナの重要な建築・公共空間が立地している。
しかし、ランブラスの名を世界的に知らしめているのは、沿道のこれら建築物ではない。ランブラスはランブラの複数形であり、6つのランブラが連なりランブラスを構成している。そして、各々のランブラが個性を有している。たとえば二つ目のランブラは「学問のランブラ」と呼ばれ、小鳥などを売る「鳥屋」のキオスクが連なっているし、三つ目のランブラは「花のランブラ」と呼ばれ、名前通り、「花屋」のキオスクが連なっている。もちろん、コーヒーや新聞・雑誌などを売っているキオスクがある。これらのキオスクは、まるでランブラスを縁日が常時、開催されているかのような演出をしており、その魅力の創出に大きく寄与している。加えて、レベルが極めて高い路上パフォーマー達が常にパフォーマンスを行っているが、これもランブラスに魅力を付加している。彼らの存在は、ランブラスに「ハレ」のような空気を纏わせている。
 このようなキオスクや路上パフォーマー達は、ランブラスを道路でありながら「通行」する場所というよりかは、「舞台」のような場所へと変容させている。そして、それは、まさに公共空間としての道路のあるべき姿であろう。バルセロナで生活し、『バルセロナ』というタイトルの著書を著した岡部明子氏は次のようにランブラスを紹介している。
「バルセロナっ子たちは、バルサの試合に限らず、何か分かち合いたい喜怒哀楽のあるときに、カタルニア広場とランブラス通りに繰り出す。(中略)また、バルセロナでは「会いたいけれど会えない人がいるなら、ランブラス通りに行けばいい」と言い慣わされてきた。そういう公共空間のあることが、都市の都市たる条件なのかもしれない」(p.237-238)。

参考資料:『バルセロナ』岡部明子

キーワード:

街路,アイデンティティ,歩行者優先,自動車排除

ランブラスの基本情報:

  • 国/地域:スペイン
  • 州/県:カタルーニャ州
  • 市町村:バルセロナ
  • 事業主体:バルセロナ市
  • 事業主体の分類:自治体 
  • デザイナー、プランナー:セルメニョ
  • 開業年:N/A

ロケーション:

都市の鍼治療としてのポイント:

 『都市の鍼治療』で、ジャイメ・レルネルは次のように記している。
「都市の音は、その規模とは全く関係がなければ、騒音の有無とも関係がない。バルセロナは非常に騒音が多い都市である。しかし、その都市の音は純粋である。それは、日々の活動の音なのである。ランブラス通りでの会話の音、それは都市のアイデンティティそのものなのである。騒音に溢れているバルセロナにおいても、その都市の音を聞くことができる静寂が存在しているのだ。」
 バルセロナの観光スポットで最もバルセロナらしい場所はどこであろうか。サグラダ・ファミリア、カサ・ミラ、グエル公園、サンパウ病院、ボケリア市場・・・。いろいろと候補はあるが、それはランブラス通りであると思われる。なぜなら、そこは圧倒的に公共な空間であるからだ。そこは自由空間であり、入場料はいらないし、何かを注文して居場所を確保する必要がない。そして、両側には自動車が通れる道路が走っているが、基本的にランブラスは歩行者が安全に時間を過ごすことができる空間となっている。そこは、レルネル氏が指摘するように、また人々が出会い、交流する場である。バルセロナの都市らしさを凝縮した空間であり、都市としてのバルセロナのまさにツボとでもいえるような空間であると思われる。
 そのような道路空間を、ウォーターフロントの再開発と合わせて延長させたことは、バルセロナの伝統的な魅力ある都市空間と、新たな再開発との空間を繋ぎ合わせる効果があった。新しく都市を創造させていくうえでも、しっかりとツボを押さえている。これがバルセロナ流の都市デザイン事業であると思われる。

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