062 ストリッシュコフ駅(チェコ共和国)
ストーリー:
ストリッシュコフ駅は、プラハの北、プラハ9区にある郊外団地にある地下鉄駅である。プロセク公園に隣接しているため、地下鉄の駅舎であるにも関わらず、地上に設置することができた。そのユニークな機会を、この駅舎は見事に活かしている。
ガラス張りの屋根は、二つの頑強な交差するアーチによって支えられている。壁面はグラス・ウォールが用いられており、駅のプラットフォームにまで存分な光を供すると同時に、地上においても強烈な存在感を放っている。この駅が地下と地上を結節していることを見事に表現している。このガラスによって蔽われた面積は1850?である。
駅のそばを高圧線が走っているために、駅周辺は開発がされていないのだが(日本のように高圧線の下にも住宅が建っている国からすると驚くことだが)、その結果、駅周辺に視界を遮るものがないため、このユニークな建築をアート作品のように眺めることが可能となっている。
この駅には、薬局やレストランなどが併設されていて、ちょっとしたコミュニティのハブのような機能も有している。地下鉄のプラットフォームは地下にあるのだが、建物の周辺を7メートルほど掘り下げることで、地下にまで光が届くような工夫をしているため、昼間は大変明るい。
2009年にはその造形の斬新さから、ヨーロッパ鉄鋼建築協会から表彰された。
キーワード:
アイデンティティ,景観デザイン,駅
ストリッシュコフ駅の基本情報:
- 国/地域:チェコ共和国
- 州/県:
- 市町村:プラハ市
- 事業主体:プラハ市
- 事業主体の分類:自治体
- デザイナー、プランナー:Patrik Kotas
- 開業年:2008年
ロケーション:
都市の鍼治療としてのポイント:
プラハの中央駅からC線を北上する。しばらく乗っていると、突如、車内が明るくなる。瞬間的だが地上に出たのである。ストリッシュコフ駅に到着したのだ。ストリッシュコフ駅は、宇宙船のような未来的な造形である。ガラスをふんだんに用いて造られたその外観は東京フォーラムを、その線形のデザインはザハ・ハディッドの新国立競技場をも彷彿させる。
ストリッシュコフ駅の周辺は社会主義時代の、単調で巨大なパネル工法団地が建ち並ぶ味気ない郊外住宅地である。そのような住宅地において、このような意匠性の高い建築をつくることの意義は大きい。それは、この地区におけるランドマークとして人々に強烈な印象を残すであろう。しかも、この駅の前には広大な空地が広がっているため、随分と遠くからもこの建物を認識することができる。駅というランドマークとして、極めて有効に機能していると考えられる。
駅という施設は興味深い。それは、他の地区、他の都市とその場所を結ぶノードである。それが、地下鉄の駅である場合は、地上と地下のノードとしても位置づけられる。さらには、その周辺コミュニティにおいては強い中心性を有する人々が交歓するノードでもある。そのようなノードをどのように意匠するかは、その場所によって異なると思われるが、建築家のパトリック・コタス氏は、ストリッシュコフ駅に関しては、見事にその正解を見出したと思われる。地域アイデンティティの薄い郊外住宅団地に、強烈なランドマークをつくりだすと同時に、交通移動のハブとしての象徴性をも見事に表現することに成功した。素晴らしい「都市の鍼治療」事例ではないかと思うのである。
類似事例:
154 ストックホルムの地下鉄ホームのアート事業
167 パリ地下鉄のアールヌーヴォー・デザイン
・ オアシス21、名古屋市(愛知県)
・ 由布院駅、由布市(大分県)
・ キングス・クロス駅、ロンドン(イギリス)
・ 東京駅・丸の内駅舎の容積率移転、千代田区(東京都)
・ グランド・セントラル・ステーション、ニューヨーク(ニューヨーク州、アメリカ合衆国)
・ ユニオン・ステーション、ワシントンDC(アメリカ合衆国)
・ ユニオン・ステーション、セントルイス(ミズーリ州、アメリカ合衆国)