213 シラー・パーク(ドイツ連邦共和国)

213 シラー・パーク

213 シラー・パーク
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213 シラー・パーク

213 シラー・パーク
213 シラー・パーク
213 シラー・パーク

ストーリー:

 ルール地方の北縁にあるオーア・エルケンシュヴィック市は、1953年に市政施行をしたルール地方では最も歴史の浅い都市である。同市は、同地方の多くの都市のように人口減少に直面してはおらず、1950年には21,700人ほどの人口だったのが1995年には30,300人まで増加。それ以降も人口は、増加はしなくても減少もせず、安定的に30,000人台を維持している。そういう観点からは、ルール地方の都市としては珍しく、人口減少都市として括ることはできない都市である。世界的にも知られることになったルール地方を対象としたIBAエムシャー・パークもオーア・エルケンシュヴィック市は対象としなかった。
 シラー・パークは、同市の中心部の近くに位置する、1970年代に建てられた社会賃貸住宅団地である。221戸の団地で、そのうちの3分の1近くが高齢者対象となっている。それは、外側は2~4階建て、内側は9~12階建てといったブロックを組み合わせたような建物3棟から構成された。中心部に近いという立地ゆえ、徒歩圏に商店街もあり、各種公共施設もそばに立地しているため、生活利便性も決して悪くない。建設当初は人気があったのだが、その後、田園地域で人口3万人という小都市であるにも関わらず高層(ドイツでは10階建て以上は高層として捉えられる)住宅であることや、住民構成の変化などから、バンダリズム(器物損壊)も発生し始め、徐々に人々に疎まれ、その空き家率は20%を越えていた。
 このような状況下、オーア・エルケンシュヴィック市と住宅公社(Vestisch-Maerkische Wohnungs-baugesellschaftmbH)とが2002年頃から協議を始め、合計101戸を減築し、残った住宅は設備をアップグレードさせ、団地全体をリニューアルすることを決定した。その際、縮小都市を対象とする連邦政府プログラム「西の都市改造」の先行メニューである「実験住宅都市計画プログラム」に応募し、採択されることとなった。2008年末にはほぼすべての事業は完了した。
 この減築事業によって、従前の住宅数221戸は、改修・改築された120戸と新築の23戸を合わせて143戸となった。これらはすべて賃貸住宅である。そのうち120戸は公的助成を受けた公的な賃貸住宅であるため、家賃の上限があるが、新築住宅は通常の賃貸住宅でありマーケットがその家賃を決定する。今回の減築プロジェクトは、このように異なる二つのタイプの住宅を供給することになったが、これによって低所得層だけでなく、中間所得層の住民もここに住むことになり、社会的な混在を促すことができている。
 このプロジェクトが遂行されることで、住民の構成は大きく変化し、高齢者の比率が14%から53%と大きく増えている。これは、住戸規模を小さくすることで、増加傾向にあった高齢者向け住宅のニーズに対応したためである。また、以前、問題となっていたバンダリズムはなくなり、周辺地区でも生じなくなった。シラー・パークは否定的なイメージで市民に捉えられていたが、このプロジェクトによってその地区イメージは改善されつつあり、つくられてから5年後には4年待ちのウェイティング・リストができるほど人気となっている。これは、このプロジェクトが都心そばに立地し、徒歩圏に多くの店舗、公共施設があるなど、高齢者にとって極めて良好な生活環境が提供できていることも大きな理由である。
 空き家率の高かった住宅を減築し、改修・リフォームで新たな魅力を創出し、加えて環境を大きく改善することによって、失われた住宅需要を再び喚起することに成功した事例である。

キーワード:

減築, 人口減少, 高齢化

シラー・パークの基本情報:

  • 国/地域:ドイツ連邦共和国
  • 州/県:ノルトラインヴェストファーレン州
  • 市町村:オーア・エルケンシュヴィック市
  • 事業主体:オーア・エルケンシュヴィック市、Vestisch-Märkische Wohnungsbaugesellschaft mbH (住宅公社)
  • 事業主体の分類:自治体 その他
  • デザイナー、プランナー:THS Consulting
  • 開業年:2008

ロケーション:

都市の鍼治療としてのポイント:

 人口減少する中、増える空き家住宅にどのような対策を講じるかは自治体においては大きな課題となる。オーア・エルケンシュヴィック市はルール地方に属しているが、人口減少凄まじいルール地方の中では、その問題はそれほど深刻ではなかった。しかし、ルール地方の経済がまだ成長すると考えられている時代に、同市の田園風景にそぐわない高層団地を建設してしまった。トータルとしての人口は減少せずとも、人々が欲しない住宅は敬遠され、このシラー・パーク団地も空き家率が2割を越えることになる。特に高層階の空き住戸は顕著であった。そこで、これらの団地を倒壊するのでもなく、減築をするという手段を採ることにした。減築は建物が残るということで、住民はもとより周囲の住民への心理的ダメージは少なく、また高層階が中層階等になることで住環境も改善されるなど、空き家が多い団地の改善策としてはメリットが多い。しかし、建物を倒壊して更地にして、建物を新設するより費用はかかり、贅沢な空き家対策である。
 その課題をシラー・パーク団地は「西の都市改造」のパイロットプロジェクトに採択されて、補助金を得たことでクリアする。シラー・パーク団地が獲得した補助金額は約690万ユーロで、これは日本円で9億円弱ぐらいである。そして、その財源負担は連邦政府が40%、ノルトラインヴェストファーレン州が50%で、オーア・エルケンシュヴィック市はわずか10%だけである。そういう意味では、この事例の成功理由は、タイミングよく補助金を得られたことと理解してしまうかもしれないが、それは必要条件であっても十分条件ではない。
 それでは、何がシラー・パーク団地を成功に導いたのか。それは、この補助金以外に住宅公社が、この補助金額の2倍に近い投資を行い、周辺の緑地のデザイン、洗練された建築デザインを行ったことである。その背景には、住宅市場が大きく変化している中、住宅公社(VMW社)の地域貢献イメージを高めることが意図されていたそうだ。
 ドイツの都市政策に詳しい大村謙二郎氏は、このプロジェクトの重要な点は次の3つであると述べている(「土地総合研究」 2013年冬号)。

1. 計画的な住宅の部分撤去。高層住宅棟においては、高層階を撤去し4階もしくは5階の中層住宅としたこと。高層棟は3つあったが、すべて部分撤去された。
2. 居住環境の向上。住宅の減築と合わせて、住棟まわりの外部環境を改善し、魅力の向上をはかった。
3. 居住者の個別需要に応じたきめ細かな地区マネージメントの展開。このプロジェクトで減築の対象となる120世帯に対して代替住宅地の情報提供、リフォーム中の引っ越しに関わる手続きの円滑化などを行うことで、事業の進捗の障害を予め除去するようにした。

 ここでは、シラー・パーク団地のもう一つの成功要因として、大村氏が挙げている地区マネージメントについて加筆したい。減築事業において大きな問題は、前述した費用に加え、従前居住者に、この事業を遂行することに納得してもらわなくてはならないことである。彼ら・彼女らが反対したら、事業は立ち行かなくなってしまうからだ。そこで、シラー・パーク団地では、地区マネージャーが、団地居住者の要望をこまめに把握して、相談に応じてきた。地区マネージャーの大きな役割は、従前・従後の居住者の満足度を高めることにあるが、一方でプロジェクトを推進する立場もあるため、撤去対象の住戸の賃貸居住者などには、そこからの移動を促す策を採ったりもした。事業を遂行するまで、住民達とこのようなコミュニケーションを3年間ほど費やした。
 人口減少時代において、量を減らし、質を向上することで、それまで2割近くあった空き家率をゼロにすることに成功した、興味深い事例であると捉えられる

【参考資料】
大場茂明『ドイツの住宅政策』明石書店
大村謙二郎『ドイツにおける縮小対応型都市計画』土地総合研究2013年冬号

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