018 ダイアナ・メモリアル・ファウンテン(イングランド)
ストーリー:
ダイアナ・メモリアル・ファウンテンは、ロンドン市内にある広大なケンジントン公園の中にある。1997年に交通事故で他界されたダイアナ妃の記念碑としてケンジントン・パーク内につくられた噴水である。2004年7月6日に開園した。
この噴水は50メートル×80メートルの楕円形であり、緩やかな斜面上に位置している。噴水は、最高点から二手に分かれて流れ落ちる。流路の幅は3〜6メートル。流路は浅いが、その傾きは場所によって異なり、流れ落ちる水は多様な表情を示す。水は渦巻いたり、澱んだりしながら、最低点にて再び静かな水溜まりにて合流する。二つある流路のうち、一つは比較的滑らかに水が流れ落ち、柔らかいさざ波をつくりプールに注がれる。もう一つの水路はカスケード状になって小さな滝をつくって流れ落ちたり、水路が細くなったり、また円弧を描いたりするなど、水はあたかも踊っているかのような表情を示す。これは、ダイアナ妃の人生の二つの側面、幸せな時間、そして混乱した時間を表している。
開園時間は夏が10時〜20時、冬は10時〜16時となっている。噴水の上からは、サーペンタイン湖を臨むことができ、ロンドンという大都市の喧噪とは無縁の穏やかな時間が流れている。この碑は、また最高の素材と技術によってつくられている。545のコーニッシュ・グラナイトの岩は、最新のコンピューター制御の機械によって切断され、伝統的な技術によって研磨された。
デザイナーのグスタフソンは、ダイアナ妃の寛容さを反映させ、アクセシブルな噴水にしたかったそうだ。「その噴水は、彼女にふさわしい記念物となることを何よりも強く意識し、かつ彼女が素晴らしい人間であったことを表現するようなものとしたかった」。
このダイアナ・メモリアル・ファウンテンは、ダイアナ妃を偲ぶには格好の空間であり、またダイアナ妃を彷彿させるような絶え間ない水の流れの美しさに心は癒される。そして、この新たなる空間はロンドンの都市の新しい癒し空間として、そこで生活する人へのあたかもダイアナ妃からの贈り物のような豊かさをもたらしている。
キーワード:
公園,記念碑,ランドスケープ,アイデンティティ,プリンセス・ダイアナ
ダイアナ・メモリアル・ファウンテンの基本情報:
- 国/地域:イングランド
- 州/県:グレーター・ロンドン
- 市町村:シティ・オブ・ウェストミンスター
- 事業主体:王室公園(The Royal Parks)(文化・メディア・スポーツ省の部局)
- 事業主体の分類:国
- デザイナー、プランナー:キャスリン・グスタフソン
- 開業年:2004
ロケーション:
都市の鍼治療としてのポイント:
墓地や死者を悼む記念碑は、都市において特別な意味を有する空間である。そこでは、日々忙しく回っている時間が、あたかも停止しているかのような静謐なる空気に包まれている。「死」は仕事に忙殺されている都市生活では忘れがちであるし、また、敢えて目を背けているものかもしれないが、現実に存在している。その「死」をうまく受け止めて生きていくことこそ、都市生活者の精神バランスを維持するためには重要なのではないかと思う。
さて、しかし、そのような「死」を受け止める場所、空間をつくるうえではデザイン的な配慮が重要となる。世界での多くの宗教建築が、その空間づくりに尋常ではない情熱を注ぐのは、デザイン次第によって、その「死」の尊厳さが維持されたり、損なわれたりするからである。特に、多くの人に愛された故人を偲ぶような空間づくりは十分な配慮が求められる。ただ、そのような配慮が見事、空間デザインに具体化された場合は「都市の鍼治療」としての大きな効用も期待できる。
ロンドンのケンジントン公園は、ハイド・パークとつながり、ロンドンという巨大都市に広大なる経済活動と無縁の空間をつくりだしている。このような公園に、さらに聖なるランドスケープとでもいうべき、国民に愛されたダイアナ妃の記念碑を設けることは、その公園の価値をさらに高めるものである。しかも、その記念碑が噴水であり、絶え間なく水であるということが素晴らしい。
どんなに多忙な日々を送っていても、ここを訪れると安寧な心を取り戻すことができる。ダイアナ妃を偲びつつ、故人の深い愛情が感じられるような素晴らしい空間が、ロンドンに出現した。素晴らしい「都市の鍼治療」の事例である。
類似事例:
064 ライネフェルデのお花畑
102 観塘工業文化公園
152 森の墓地(スコーグシュルコゴーデン)
・ダイアナ・メモリアル・プレイグランド(ロンドン、イギリス)
・ダイアナ・メモリアル・パーク(ロンドン、イギリス)
・ストロベリー・フィールズ・イン・セントラルパーク(ニューヨーク、アメリカ合衆国)
・ベトナム戦争記念碑(ワシントンDC、アメリカ合衆国)
・ベルリン・ユダヤ博物館(ベルリン、ドイツ)
・スクーグシェルコゴーデン(ストックホルム、スウェーデン)
・広島平和記念資料館(広島、日本)
・平和の鐘公園(クルチバーノ、サンタカタリナ州、ブラジル)