164 だんだんテラス (日本)
ストーリー:
京都府の南西部にある八幡市の西部丘陵にある男山団地に、関西大学の学生達が常駐して、コミュニティを再生するために活動している拠点「だんだんテラス」がある。ここでは、地元住民を巻き込むイベントを企画・開催し、また住民同士の交流をはかる仕掛けを実践し、高齢化・少子化、人口減少による空き家増加といった閉塞感に悩む団地に新たな活力をもたらしている。
男山団地は日本住宅公団によって開発され、1972年に入居が始まった開発面積186ヘクタールという大規模なニュータウンである。賃貸約4600戸、分譲約1500戸が供給された。現在では約2万人の住民が居住する。ただ、建設から40年近く経過し、住民の高齢化や施設の老朽化が目立つようになっている。
1990年には65歳以上の住民の割合は4.3%であったが、現在では20%を超えている。子供も少なくなったので、幾つかの小学校も閉校した。
このような状況は男山団地だけではなく、全国の団地にて多かれ少なかれ見られている現象である。そして、都市再生機構は全国に約77万戸ある団地のうち2018年までに約5万戸削減する計画を策定し、男山団地もその対象となった。縮小対象となった団地の中では全国2番目の規模である。
そのような状況下、関西大学の江川直樹研究室が団地再編の在り方の研究費を文科省から受け、そのための実地研究する対象として、この団地を選ぶ。男山団地の空き家率は1割とそれほど高いわけではないが、戸数が多いので空き家数自体は多かった。
まず、ここの住民がどのような問題意識を有しているのかを知る必要があると考え、団地について談話できる場をつくることにした。「まちづくり連携協定」を関西大学、八幡市、都市再生機構の三者でつくり、最初は大学が主導して、中央センターにあった空き店舗を地域の人が気軽に集まるような場とすることにした。そして、出来ることからやっていこう、という発想を持ってもらうために団地について談話する、だんだん町をつくる、という場所としての役割を担うことを期待して、この場所を「だんだんテラス」と命名した。開設したのは2013年11月である。
そして、江川氏は、このような場所は「365日オープンしていないと意味がない」と言ったのを受けて、当時、江川研究室の大学院生であった辻村修太郎氏がそれなら僕がやりますと言って、ここにそれ以降、この空間の管理をしている。
だんだんテラスでは、まず火曜日と木曜日と日曜日に近所の農家の野菜を販売するという朝市を行った。野菜はだんだんテラスの学生達が取りに行く。それに加えて、日常的には毎日10時から、ここでラジオ体操をしており、火曜日と木曜日には近くの特殊支援学校の子供達がここで10時30分にはカフェを開催している。お昼からは場所貸し(有料。1時間100円)もしている。閉めるのは夕方の18時である。時には、だんだんBARと名付けた持ち寄りの酒場に集まったり、若いメンバーで集まり、夜な夜なサッカー観戦を楽しんだりもしている。2015年からは、毎月一回、男山団地をよくしよう、やってみよう会議というのを始めた。これは、現在ではもう50回以上開催している。
その結果、ここを活動拠点とする地元住民のサークルなども出来はじめている。インフォーマルな貴重な情報交換の場ともなっている。
だんだんテラスの家賃は関西大学が払っている。これは前述した文科省の研究補助金を得られたからであるが、その研究が終了した以降は地主である都市再生機構が家賃はいらないということで、都市再生機構の施設を無料で使用しているという運営の仕方を取っている。
また、2018年2月には隣の空き店舗を借りて、だんだんラボを開設した。これは、ものづくりの拠点として位置づけられ、団地をリノベーションするための支援をする場所として機能している。建築を学ぶ学生にとっては貴重な実践の機会をここは与えてくれる。この場所があることで、地域の人がちょっとつくってよ、と声がけなどをしてくれるそうだ。
キーワード:
空き店舗,人口減少,シャッター商店街,空閑地利用,暫定利用
だんだんテラス の基本情報:
- 国/地域:日本
- 州/県:京都府
- 市町村:八幡市
- 事業主体:関西大学、UR都市機構、八幡市
- 事業主体の分類:自治体 民間 大学等教育機関
- デザイナー、プランナー:江川直樹
- 開業年:2013年11月
ロケーション:
都市の鍼治療としてのポイント:
だんだんテラスは、高齢化・少子化が進み、人口も減少し、空き家も増え、栄養失調で徐々に体力が衰えていくような状況にある団地の再生を考える大学の研究・活動拠点である。そこでは、団地というコミュニティの問題と真摯に取り組み、しかし、背伸びをせずに、自分達ができる範囲で力になれるところは支援しようという学生達の情熱が集約された場所でもある。そして、そのような学生達がいることで、コミュニティの住民達が訪れ初めて、そこに新たな集まる拠点がつくられていった。
このだんだんテラスが現在のように成果を上げた最も大きな要因は、365日開け通したということであろう。この成功のための条件を江川直樹氏は予見しており、「毎日開いていないと意味がない」と学生達に伝える。ただし、普通はここで誰かがコミットすることはない。学生は課題があるし、アルバイトもしなくてはならないし、多少は遊ぶ時間も欲しいであろう。しかし、江川研究室には男山団地にコミットする大学院生がいた。辻村氏である。彼のコミットメントによって、ここだんだんテラスは正月も開いている。運営者主体で考えると、正月ぐらい休んだらいいじゃないか、と思うが、むしろそういう日こそ会ってしゃべってみたい、というニーズがあったようで、独居の高齢者が新年の挨拶で来てくれたそうだ。
毎日、開いているということで地元住民から信頼されるようになる。そうすると、ここに来る人も増え、人が増えると仲間づくりも始まる。その結果、ここで出会った人がサークルのようなものをつくり始める。俳句の会、フォークソングの会、読書の会、猫の会などがつくられているそうだ。
男山団地が抱えるマクロ的な問題はなかなか解決が難しいかもしれないが、コミュニティ・レベルでの問題はだんだんテラスが存在することで徐々に解決の糸口が見え始めているものも少なくない。少なくとも、問題が見える化し、また、その問題に対応する地元の人達を巻き込める環境をつくったことは、このコミュニティにとっては大きなプラスではないかと考えられる。
【取材協力】辻村修太郎(関西大学江川直樹研究室卒業生)
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