連載|ヨーロッパから学ぶ「豊かな都市」のつくりかた
第2回 脱自動車の環境を整備し、アクセスとアメニティを改善
明治学院大学経済学科准教授 服部圭郎
ヨーロッパのある程度以上の人口規模の都市で、最近みられる共通した政策の一つが脱自動車への試みである。その背景には幾つかの理由がある。
1点目は、自動車の移動エネルギー効率の悪さがある。自動車は鉄道に比べると一人当たりの輸送エネルギーが一般的に10倍くらい多い。ヨーロッパの多くの国は脱石油依存を志向しているため、自動車の利用率を減らしたいと考えている。特に昨今は、地球温暖化ガスの抑制を図るためにも自動車の代替交通機関の利便性を向上させたりして、自動車の使用を減らそうとしている。
2点目は、歴史的中心市街地と自動車の相性の悪さが指摘される。自動車が出現する以前につくられたヨーロッパの多くの都市の中心市街地は、自動車利用が増えるにつれ、歩行者にとって好ましい環境ではなくなった。その結果、中心市街地から賑わいを失った事例もみられた。そのようなトレンドを反転させるために、自動車の中心市街地へのアクセスを制限し、中心市街地を歩行者空間にするためにも、自動車以外の公共交通手段でのアクセスを改善する試みが為されている。
3点目は、公平性の問題である。自動車を利用できる人は限られている。幼児、児童はもちろんのこと高校生も自動車で移動することはできない。また自動車を購入できない低所得者層にとっても自動車が主要な移動手段である生活環境は不便であるし、同様に自動車を運転することに抵抗を覚える高齢者にとってもそのような環境は優しくない。そのため、自動車に依存せずに移動できる環境整備に力を入れている。
4点目は、自動車がもはや豊かさの象徴ではなくなったヨーロッパでは、自動車から開放された生活環境を求める動きが一部でみられるようになっている。そのような動きは、自動車をあえて所有しない人たちのために自動車のアクセスを排除した住宅地を開発したり、また住宅地区を分断している自動車道路を地下化し、その上部空間を人間に開放したりするような試みへと具体化されている。
脱自動車というのは、アメリカでも一部見られ始めている(例えばオレゴン州ポートランド市、ワシントン州シアトル市、ヴァーモント州バーリントン、ニューヨークなど)動きである。
これらは、ヨーロッパの脱自動車の動きの影響を非常に強く受けており、例えばデンマークのコペンハーゲンの歩行者空間ストロイエの研究で有名なヤン・ゲールがコンサルタントとしてシアトルやニューヨークの脱自動車の戦略を提言していたりする。
このように自動車大国であるアメリカの一部の都市が、脱自動車への動きに舵を切り始めたのは、ヨーロッパの脱自動車の動きの成果が目に見える形で現れていることが背景にあると考えられる。
実際、ヨーロッパの脱自動車の試みは、人々のアクセスを改善させ、また都市アメニティを大幅に向上させている。それは、都市の豊かさを創造させる特効薬でもある。
自動車には多くの長所があるが、一方で短所もある。長所を活かして、短所にはしっかりとした都市政策で対応していく。自動車の利便性をある程度犠牲にしても、都市の魅力が総合的に向上するのであれば、自動車にも厳しく対処するのがヨーロッパ流であると考えられる。
ここで、ヨーロッパ流と十把一絡げで述べてしまったが、特にその点でしっかりとした都市政策を採っているのはデンマークをはじめとする北欧諸国、そしてオランダ、ドイツ、スイスである。これらの国の成功事例をみて、他の周辺諸国が模倣しているという構図があると考えられる。フランスにおいて脱自動車の政策が最も進んでいるとも目されるストラスブールがドイツ国境に隣接した都市であるということは偶然ではないと思われる。
今回、脱自動車に取り組んでいる自治体として紹介するのは5都市。ドイツから2都市、デンマーク、フランス、フィンランドから1都市である。脱自動車の施策としては、自転車都市を2事例、自動車要らずの街づくりの事例、公共交通の利用促進事例、そして住宅地を分断する幹線道路の地下化の事例をそれぞれ1つ挙げている。
事例)
ミュンスター(ドイツ)
ケルン/シュテルベルク60(ドイツ)
アルバーツラント(デンマーク)
ストラスブール(フランス)
タピオラ(フィンランド)
取材・構成
服部圭郎 明治学院大学准教授
編集・配信
財団法人ハイライフ研究所
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