高橋順一教授の
ライプツィヒ通信

高橋順一早稲田大学教育学部教授

第5回 日本的自明性とヨーロッパの自明性の恐るべき落差

早くもライプツィヒでの滞在も半年を越えた。ちょうど折り返し点である。ついでに私事で恐縮だが9月8日に60歳の誕生日を迎えた。昔風にいえば還暦である。60年に1回まわってくる「劫の虎」の年でもあるからまさに「還暦(暦がもとに還る)」だ。いささかの感慨がないといえばうそになるが、一向に年をとったという実感は湧いてこない。それどころかますます若い頃考えていたことに回帰してゆく気がする。言い換えれば、若い頃考えていて未解決なまま残されている問題がまだまだたくさんあるということだ。未熟さの証明のような気もするが実感なのだからやむをえない。この通信もそうした残された問題を考える場だと思う。幸いドイツという日本から離れた場にいるため、少し冷静に考えることが出来る。

前回日本の社会が抱える病理について考えてみた。それから二ヶ月あまりたったがドイツから日本の状況を新聞等を通じて眺めていると問題は依然として深刻なようだ。昨年の政権交代によって民主党政権が成立したが、早くも鳩山首相の辞任、菅代表の首相就任とそれに続く菅VS 小沢の熾烈な権力闘争と、政権の枠組みが大きく揺らいでいる。予算・財政問題、普天間基地移転問題、尖閣諸島(釣魚台諸島)をめぐる中国との軋轢等々、内外の難問が民主党内閣を次々に襲っている。これらの問題はもちろん時局問題である。だがそこからもより根本的な日本社会の問題が透けて見えるのだ。…


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寄稿
高橋順一 早稲田大学教育学部教授

1950年、宮城県生まれ。立教大学文学部卒、埼玉大学大学院文化科学研究科修了。現在、早稲田大学教育学部(教育・総合科学学術院)教授。専攻はドイツ・ヨーロッパ思想史。
著書に、『ヴァルター・ベンヤミン : 近代の星座』(1991年、講談社現代新書)、『響きと思考のあいだ : リヒャルト・ヴァーグナーと十九世紀近代』(1996年、青弓社)、『戦争と暴力の系譜学 :〈閉じられた国民=主体〉を超えるために 』(2003年、実践社)、『ヴァルター・ベンヤミン読解 : 希望なき時代の希望の根源 』(2010年、社会評論社)などがある。

 

 

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